川島ゼミ 観劇レポート(2025年10月期)

舞台『魔法使いの約束』きみに花を、空に魔法を 前編
2025年9月20日(土)13:00/天王洲 銀河劇場
A.M

画像:公式サイトから引用
(https://mahoyaku-stage.com/ffy_mfts_part1)
舞台『魔法使いの約束』(通称まほステ)は、スマートフォン向け育成ゲーム『魔法使いの約束』を原作とする2.5次元舞台作品である。2019年にゲームが配信開始され、舞台シリーズは2021年に初演が上演された。魔法使いと人間が共存する世界へ「賢者」として召喚された一般人・真木晶と、中央の国・南の国・北の国・東の国・西の国というそれぞれの国に属する魔法使いたちによる世界救済の物語を描く。本作『きみに花を、空に魔法を 前編』では、これまでの作品で築かれてきた“賢者と魔法使いたちの絆”が試される重要な転換点となる。
物語の始まりを告げるのは、人形使いのオヴィシウスと、清らかな歌声の魔女ターリアである。彼らが「嫌われ者が報われる話をしよう」と語り、不穏な旋律を響かせると、五か国和平会議を目前に控える世界に異変が起こり始める。各国に現れる魔女と太古の魔獣、そして“奇妙な人形劇”を操るオヴィシウスの存在が、賢者と魔法使いたちを追い詰めていく。
本作では、1~3章を通して描かれてきた魔法使いたちの絆がより強固に、そして深く掘り下げられていた。舞台全体がオヴィシウスの手による歪で狂った劇へと変わりゆく中、魔法使いたちは生まれた国や過去の因縁を越えて互いの手を取り合う。彼らが互いを信じ、心を寄せて戦う姿からは、これまで積み上げてきた時間と信頼の重みが感じられた。
魔法の演出も大きな見どころであった。プロジェクションマッピングや照明が多層的に組み合わされ、空間全体が生きているかのように変化していく。これらの効果によって舞台上に炎や風、雷といった自然現象が現れ、俳優の動作と緻密に同期していた。特にオヴィシウスが糸のような魔法を放つ場面では、細い照明がまばらに降り注ぎ、魔法使いたちが逃げ惑う姿と相まって、彼の圧倒的な支配力を可視化していた。「魔法は心で使うもの」という作中の言葉が示すように、激しい戦いのなかにも“心”の揺らぎや願いが織り込まれており、21人それぞれの魔法使いの思いや絆が立体的に描かれていた。
さらに、今回の物語はオヴィシウスがすべてを動かしている、ということがよくわかる演出が多かった。まず、開演前、薄いカーテン状の幕に投影されるプロジェクションマッピングが印象的だった。光が揺れ、魔法の粒が舞う幻想的な演出に包まれながら、開演10分前になると、その幕の向こうに糸で繋がれ積み重なるマネキン人形たちが姿を現す。彼らは生命を持たないまま操られているようで、後に登場するオヴィシウスや魔女たちによる“人形劇”の世界を暗示していた。
また、オープニングの歌唱中、舞台に“額縁”のようなフレームが下りてくる。これは作品全体を「狂った人形劇」として見せるための象徴的な仕掛けであり、物語を外側から支配するオヴィシウスの存在を可視化する演出でもあった。彼は舞台外の一階席や二階席にも突然現れ、観客に対して“この物語の作り手”であることを突きつける。舞台の内と外、支配する者と操られる者。その二重構造が視覚的に提示されることで、観客自身もオヴィシウスの人形劇の観客として取り込まれたような錯覚を覚えた。オープニングから終幕後まで、舞台を囲む額縁状の装飾は消えることがない。賢者と魔法使いたちだけでなく観客すら物語の内側に没入する一方で、オヴィシウスによる人形劇はいまだ後編へ続いていることを静かに示唆していた。
『舞台『魔法使いの約束』 きみに花を、空に魔法を 前編』は、賢者と魔法使いたちが少しずつ築いてきた絆の尊さと、魔法の美しさ、そしてその裏に潜む恐ろしい何かを、幻想的な演出で描き出していた。これまでのシリーズで培われた感情の積み重ねが、壮大な物語へと昇華していく過程を実感できる舞台であった。後編でこの“狂った人形劇”がどのような結末を迎えるのか、大いに期待したい。

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