川島ゼミ 観劇レポート(2025年7月期)

原因は自分にある。ARENA LIVE2025「序破急」
2025年7月12日(土)、13日(日)17;00/代々木第一体育館

画像:公式サイトから引用
(https://genjibu.jp/news/detail/1742)
人間は過ちを繰り返す。何度時間を巻き戻しても、天使がその身をささげてもその事実は形を変えてまた現れる。2025年7月12日・13日、代々木第一体育館で新解釈アイドルグループ「原因は自分にある。」(以下ゲンジブ)最大規模となるアリーナライブ『序破急』が行われた。本公演のキャッチコピーは「信念と感性の芸術が織りなす史上最大の戯曲」。この言葉の通り、彼らの最大の武器である表現力とコンセプト消化力を生かした演出で、観客を熱狂させた。
公演内の4本の挿入映像で描かれたライブストーリーは、天使に扮したゲンジブのメンバー七人が地上に降り立ち、人間との触れ合いの中で人間の行いに何かを思い、羽をむしり取って堕天。革命を誓ったのち、1本目の挿入映像の前まで巻き戻し、不敵な笑みを浮かべ舌打ちを、といったものだった。この最後の舌打ちは公演のラストを飾った「因果応報アンチノミー」という楽曲(楽曲内で舌打ちが多用される)につながるのだが、純粋無垢を連想させる天使といら立ちをぶつけるような「舌打ち」のアンマッチさがここまでのライブストーリーの謎を一層深めた。時間が巻き戻された後にこの楽曲が披露されたということは、実質この楽曲が1曲目であったともとらえられるだろう。ライブのラストでは半円型のスクリーンがステージ上部からゆっくり降りてゆき、メンバーはスモークの中へ消えていった。
開演前、会場はまるで空の上にいるかのような青い光に包まれていた。スクリーンには羽がひらりと舞い、客席にも照明によって白い羽が映し出されていた。注意喚起の放送の後、「『誰も知らない歌。』」がFI。音が大きくなっていくのに従って、ステージの半円型スクリーンが徐々に上昇し、天使の姿をしたゲンジブ7人の姿がスクリーンに映し出される。会場は熱気を増し、そのコンセプチュアルな姿に観客の期待も膨らむ。映像が終わり、7枚の羽がステージ上部まで釣りあげられた半円型スクリーンに並んだのち、白いローブに身を包んだ7人が、ステージ上部からゆっくりと舞い降りるようにして登場する。本公演1曲目の楽曲は、「無限シニシズム」。無限という言葉が入っていることからも分かるように、時間を意識した楽曲であり、「巻き戻し」というフレーズが印象的である。もったいぶった動きで、フードを外しローブを脱いだ彼らの姿に、会場は早くも最高潮の盛り上がりを見せる。その後4曲目までの楽曲は、最新アルバムでリリースされた3曲目の「in the Fate」を除き、ゲンジブの前回のアリーナライブ『白昼夢への招待』のトリを飾った3楽曲である。「in the Fate」披露時には『序破急』の文字がスクリーンに煌々と映し出され、『白昼夢への招待』からの変異点、本公演を象徴する楽曲となった。
こうして『序破急』の「序」の部分を駆け抜けた本公演は、地上に舞い降りた天使たちが人間の様々に触れる「破」のパートに入る。ここでは、恋愛をテーマにした楽曲など「誰か」に向けた楽曲中心に披露され、計6曲に渡るトロッコパート、本公演唯一のライブMCを含み、観客に寄り添った演出が行われた。このパートでは天使の姿を彷彿とさせるフリルをふんだんに使ったフォーマルな衣装とはうって変わって、親しみやすさのある私服風の衣裳が用いられた。古めかしいアイテムや、ちぐはぐな印象も受けるコーディネートは、天使が人間の姿をまねた馴染めなさを表現していたように思える。
荒廃した世界で過去へのタイムマシンを作る7人の少年たちの想いを歌った「『誰も知らない歌。』」がスタンドマイクで披露され、それにつながるように3本目の挿入映像がはじまる。ここで天使たちは意味ありげな表情を浮かべ、羽をむしり、映像の最後映し出されたメンバー杢代和人は痛々しい音を立てながら片羽をもぎとる。客席からは悲鳴が上がり、緊迫した空気が会場を包んだ。「急」が始まる。ゲンジブのメンバーたちが床に倒れ込んだ状態でセンターステージに現れ、歪な愛を歌い、不協和音から曲が始まる「Mania」が披露される。ステージは赤い照明に照らされるなか、真っ黒な衣装を身にまとったゲンジブ7人の背中には、銀色の羽のようなものがキラキラと揺れている。次の曲がはじまり、照明が変わった彼らの背中にあったのは真っ赤に血塗られたようにも見える、羽の形をしたなにかであった。「急」は天使たちの堕天だった。心が抉られるようなあまりの衝撃に、これまでのような歓声すら上がらなかった。なにかに囚われもがき苦しむ堕天使たちは、その後の「Paradox Re:Write」までの3曲で立ち上がり、決意を固め、奈落へと堕ちていった。そして、巻き戻しの挿入映像、公演ラストを飾った「因果応報アンチノミー」へと続く。このラストは観客に天使の姿を変えてしまった原因とは、人間の罪とは、一体何だったのか、何が因果応報であったのかという思いを残した。
2時間に渡った本公演はMC1回、アンコールはなしで構成され、2日目13日の観客の熱いアンコールも虚しく、『序破急』の世界観を守ったまま幕を閉じた。強い世界観を武器にライブパフォーマンスを行うゲンジブであるが、特筆すべきはファンとの相互関係、アイドル性を捨ててはいないということと、その相互関係さえも物語を表現する演出の1つに落とし込んでいるという点である。本公演で言えば「天使たちの人間との触れ合い」として表現された。本公演の演出に関して、メンバー杢代和人が深く関わり、「原因は自分にある。」らしさが表現できたライブであったと振り返る。ゲンジブらしさが確立し、彼らの夢であった東京ドーム公演は、すでに彼らの歩む道の先に姿を現しているように思える。
 

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