川島ゼミ 観劇レポート(2025年7月期)

ミュージカル『ジェイミー』
2025年7月14日(月)13:30/東京建物ブリリアホール
岡山みる
本作『ジェイミー』は、実在の人物をモデルにした英国発の青春ミュージカルである。舞台はイギリスの地方都市で主人公ジェイミーがドラァグクイーンになるという夢を抱きながら、家庭、学校、そして社会の偏見と向き合っていく。そんな中で、友人や家族、そしてドラァグクイーンの先輩らに支えられ、「自分らしく生きること」の大切さを見つけていく物語である。

 私はもともとAmazonプライムで配信されているイギリスのオリジナル映画版の『ジェイミー』が大好きで、音楽やセリフのユーモア、イギリス的な空気感に惹かれて何度も視聴していた。そのため、今回の日本版公演に対しても、どうアレンジされているのだろうか興味を持って観劇した。

 まず、印象的だったのは歌唱力の高さである。特にプリティ役の遥海、ヒューゴ役の石川禅は共に抜群の歌唱力で、遥海の透明感を感じさせながらも心のある歌声と、石川の心臓に響くような低くハリのある歌声は楽曲に深みと説得力を与えていた。
またジェイミー役の高橋颯は、歌とダンスの両面で魅力的なパフォーマンスを見せ、グループでの活動経験が、POPな楽曲が中心の本作に自然に活かされているように感じられた。そしてジェイミーのセリフまわしも印象的で、アドリブかもしれないが、「○○だよねー、ってばかっ!!」のようなノリツッコミが多くみられ、思わず笑ってしまう場面だった。もともと映画版でもジェイミーはノリのいいキャラクターというイメージがあったが、高橋颯が演じるジェイミーの笑いのテンポや言葉選びには、日本語ならではの“間”が活かされており、オリジナル版とはまた違った楽しさがあったように思う。
内容面では、日本版ならではの翻案が随所に見られた。オリジナル版では、宗教やジェンダー、階級にまつわる風刺的なボケや会話が印象的だが、正直に言えば英語ネイティブでない私にとっては意味が完全に理解できない部分もあった。しかし今回の公演では、そうした文化的なニュアンスをうまく置き換え、観客が理解しやすいように翻案されていた点が非常に良かった。具体的な箇所は記憶が曖昧ではあるが、原作の魅力を損なうことなく、会話の中で自然と伝わってきた印象である。
そして演出面では、全体の舞台セットはネオンの骨組みのようなもので構成されており、比較的シンプルであったが、それゆえにダンスや映像、椅子を使った演出がよく映えていたと感じた。特に箱型の椅子(ブロック)の使い方が非常に巧みで、シーンに応じて組み方を変え、生徒の椅子、お立ち台、家のテーブル、化粧台などに変化し、舞台上の空間を柔軟に構成していた。また冒頭の生徒らの歌唱シーンでは、椅子の裏に貼られた鏡が照明の反射によって客席に光を返すという演出がされており、視覚的にとても美しく、深く印象に残っている。
さらに、ダンスの力強さも本作の大きな魅力であった。演出家のジェフリー・ペイジがダンス系ライブ演出に長けているということもあり、舞台全体に「ライブ感」が強く出ていた。個々のダンススキルを披露する場面に加え、悪役的立場の教師が登場するシーンでは、周りの生徒が軍隊のように集団行動や行進をする演出があり、ダンスで同調圧力を感じれる圧巻のパフォーマンスであった。
最後のエンディングのプロムのシーンもダンスパフォーマンスがメインとなっており、2.5次元舞台や宝塚のレビューのような華やかさがあり、視覚的にもテンションがぐっと上がる場面だと感じた。最後に撮影タイムが設けられていた点も含め、観客との距離感が近く、現代らしい観劇体験ができたのも印象的だった。
本作『ジェイミー』は、ただの“夢を追う少年の物語”ではなく、観る者一人ひとりに「自分らしさ」について問いかける作品であると感じた。笑いあり、胸に刺さる場面ありのバランスが心地よく、観た後にじんわりと余韻が残る、そんな観劇体験だった。
 

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