川島ゼミ 観劇レポート(2025年6月期)

舞台『サザエさん』
2025年6月9日(月)17:00/明治座
おかぴ

画像:舞台『サザエさん』公式サイトから引用
(https://www.sazaesan-stage.jp/)
今回『舞台 サザエさん』を観劇してきた。本作は長谷川町子作の同名作の舞台化であり、お茶の間で毎週日曜6時半から親しまれている『サザエさん』の10年後を描いた作品だ。波平は定年退職を迎え、カツオは大学4年生で就活中、ワカメは服飾の専門学生として留学を目指しており、タラちゃんは中学生に成長していた。アニメで知っている家族からとんでもなく飛躍していて驚いた。時間が経過した家族がもう一度家族との向き合い方や関係についてそれぞれが悩みこれから先も一緒に暮らしていくのかについて選択をしていく様子をコミカルに描いた作品だった。
本作はアニメで見たことがある要素がふんだんに盛り込まれた演出がされており、作品の世界観がきれいな塩梅で舞台の中に落とし込まれていた。まずセットについてだが舞台の中央には磯野家が組み立てられていた。回転する盆の上に建てられていたため、場面ごとに様々な部屋を一つ屋根の下に収めたセットで観ることが出来た。しかし、物語の場面は家だけでは収まらないため、他の場面においてはステージの上手や下手に小さなスクリーンに背景を投影し、その前に小道具をおいて芝居を行っていた。このスクリーンに映った背景が、アニメで使用されているものと同様の絵柄のもので作品の世界観がしっかりと守られていた。背景を投影する以外にも周辺環境を表現する方法はあると思うが、スクリーンにアニメで慣れ親しんだものが映ることにより、二次元的な再現にも関わらずリアリティが増しているように感じた。
また、全体の構成に関してもアニメに対するリスペクトを感じた本作は3幕構成でそれぞれの部にタイトルがつけられていた。アニメも1回で3話の放送が行われるのでその構成と同じであった。また、舞台のオープニングでは、アニメのエンディングで行われる次回予告とお決まりのサザエさんによるジャンケンのコーナーがあったため、舞台序盤から一気に作品に引き込まれた。観客からどよめきや笑い声が絶えず上がっていたこともとても印象的だった。
アニメに忠実な一方で、アニメの世界を舞台に落とし込むために変更されている点もあった。代表的な例として一家が飼っている猫のタマを人間が演じていたことをあげる。2幕にタマの心情が大切になる場面があったが、アニメでは喋らないタマが舞台では言葉を喋る。場面の状況をよく考えるとシリアスにも関わらず、喋るという行動でシュールな場面の重さを緩和していた。そして、家族の中でもフネさんしか、タマの言葉を理解することが出来ないという設定もその状況の面白さを加速させていた。『サザエさん』らしい物語の軽やかさを保ったままだった。また、タマのビジュアルも猫だからかわいい方向に進むのではなく、いわゆるおじさんの酒井敏也が演じていたため、おじさんくさい猫というなんとも言い難い味わいのある猫になっていた。彼が登場する度に会場が笑いで包まれていた。
ここからは余談であるが、明治座の傾向として年配の観客が多いと伺ったことがある。また、作品の傾向として、どの年代でも馴染みがあるためか、劇場で孫を連れた祖父母の姿をよく目にした。30分と長い幕間が2回あったため、明治座内のカフェやレストランで舞台の感想を談笑しながらご飯を食べている家族の姿をよく目にした。他の劇場の2.5次元舞台ではまず目にしない光景のため、とても印象的かつ微笑ましかった。また、この作品が明治座で上演されている狙いのひとつなのではとも思う。
個人的にあまり馴染みのないジャンルの作品のため、ずっと新鮮に楽しむことが出来た。原作が長く愛されている作品のため、舞台化のプレッシャーもひとしおだったかと思うが、アニメの面白さを綺麗な塩梅で表現していた。小さい頃に見ていた磯野家の軽やかなやり取りを目の前で見ることが出来て感動だった。

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