川島ゼミ 観劇レポート(2025年6月期)

『KAWAII KABUKI 〜ハローキティー座の桃太郎〜』
2025年6月13日(金)17:20/メルヘンシアター
おにぎり

画像:『KAWAII KABUKI 〜ハローキティー座の桃太郎〜』公式サイトから引用
(https://www.puroland.jp/kawaiikabuki/)
17時20分定刻。だが、舞台の幕はすぐには上がらない。そこに現れるのは1人の黒子。彼は観客に向かって、サンリオピューロランド、そして歌舞伎の魅力を伝えてくれる。その説明の中には、歌舞伎特有の演技法「見得」や観客の掛け声「大向こう」の練習も含まれており、観客参加型の雰囲気を作り出していた。
この作品は、大きく「劇中劇」「本編」「フィナーレ」の3部構成のような流れで構成されている。前座として黒子の語りは、導入としてスムーズに入っていくための役割を果たし、そこからハローキティ率いる「ハローキティ一座」と、その一座に加入したい鬼・ゴロウを中心とした本編の物語が始まる。そして最後には、キャラクターたちによる華やかなフィナーレが用意され、観客に温かいメッセージを届ける流れとなっている。作中では、サンリオキャラクターたちが、ただの可愛らしい存在としてではなく、しっかりと物語の担い手として舞台に立っている点が印象的だった。
また、本作では映像技術を駆使した演出が多く取り入れられており、特に冒頭のプロジェクションマッピングは目を引く。劇場の中央から隅々にかけて美しく投影される映像は、まるで劇場自体が拡張されたかのような錯覚を与え、観客を物語世界へと包み込む。このような仕掛けが、「観る側」と「演じる側」の境界を溶かし、観客の没入感を高めているように感じられた。中盤以降の歌唱シーンでは、可動式スクリーンにドレスが映し出され、ハローキティの早着替えを連想させるなど、視覚的にも楽しめる工夫が施されている。そのなかでも、特に興味深かったのは舞台転換のシーンである。ハローキティ一座の楽屋から鬼ヶ島へと場面が移る際、スクリーンを使って視界の大部分を一時的に覆い、ゲーム画面のような映像を展開する。この中でシナモロールとディアダニエルが舞台前方に登場し、トラップからの脱出劇を繰り広げる。物語が中断されることなく、転換時間すらも物語の一部として組み込まれている点に深い感動を覚えた。やや現実味を帯びやすい転換の瞬間を、映像を駆使した演出で繋いでおり、この演出は高く評価されるべきだろう。
本作は、テーマパーク内のエンターテイメントとして40分という限られた時間で上演される。しかし、その短い時間の中で「かわいい」「なかよく」「思いやり」というサンリオの大切にしている価値観が、ぎゅっと詰め込まれている。それだけでなく、伝統文化である歌舞伎と、現代文化のひとつであるサンリオが融合することで、親しみやすさと格式を併せ持った作品に仕上がっている点も見逃せない。そして、ハローキティというキャラクターが常に誰も否定せず、受け入れる姿勢を見せてくれるところに、サンリオが掲げる「みんななかよく」という理念の体現を見ることができた。その姿勢は、単なるキャラクターショーを超え、観客に生き方のヒントすら与えてくれるようだった。今作は、子どもだけでなく大人にも響く舞台芸術として、ぜひ多くの人に観てほしい作品である。

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