川島ゼミ 観劇レポート(2025年5月期)

『リンス・リピート-そして、再び繰り返す-』
2025年5月4日(日)18:00/紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
おかぴ

画像:舞台『リンス・リピート-そして、再び繰り返す-』 公式サイトから引用(https://horipro-stage.jp/stage/rinserepeat2025/)
『リンス・リピート-そして、再び繰り返す-』を観劇してきた。命が脅かされるほどの摂食障害を抱えた主人公の大学生レイが、施設治療から家族のもとに戻ってきた場面からこの物語は始まる。この作品は、温かい家族に迎えられたレイが、家族の抱える彼ら自身も気が付いていない愛情と隣り合わせの醜い感情に気付き、彼女が家族のもとを離れる決断を下すまでの三日間を描いたものである。摂食障害とそれに対する家族の関わり方を描いたホームドラマだ。
観劇してまず視界に入ったものは、一面ベビーピンクの舞台セットである。背景から舞台上の家具、クッションや毛布などの小道具、黒子の衣装に至るまで、ほぼ一面がベビーピンク一色だった。舞台がまるごと同色に包まれていたことに強烈な印象を持った。話の序盤、ほのぼのとした家族の様子が描かれていた場面においては、愛情に包まれた優しい家庭を体現したかのような印象を持った。しかし、話が進むにつれて、主人公を囲んでいるベビーピンクの世界が、両親から与えられているどこか歪んだ愛情の圧のように思えてくる。ベビーピンクに気色悪さを感じるようになった。主人公が苦しんでいることを、作品全体を通して視覚からも感じた。
しかし、このベビーピンクの世界に唯一ある白色の冷蔵庫が、独特な存在感を放っていた。ベビーピンク一色の抽象的な生活表現に対して、食に対する演出はとても生々しいものだった。この舞台の物語は摂食障害がテーマの一つのため、食に焦点が当てられている。その中で冷蔵庫は、食の象徴のような役割を担っていた。実際に演者が冷蔵庫から本物の食材を取り出し、キッチンで調理を行っていた。食材をかき混ぜたり、つぶしたり、シンクで水を流しながら食材を洗ったりしていたのだ。そして、食事シーンではテーブルの上に本物の料理が並んでおり、実際に役者が食事を行いながら芝居を行っていた。その食事シーンは何回かあるのだが、摂食障害の主人公が普通の人と同じになるため、家族の期待に応えるために懸命に食事をしようとする様は、見ていて苦しい。徐々に拒食症の症状を隠せなくなり、食事に嫌悪感を示していくも食べなければならないという彼女の追い詰められた心情を、本物の食事で表現することはあまりにもリアルで残酷な演出だと感じた。しかし、「食べる」や「調理する」といった行為はそこまで動作が大きいわけではない。客席後方の座席からは、何が行われているのかよくわからないのではないだろうか。
そして、この舞台がブロードウェイ発で英語圏に住む家族を描いたものであるという点に着目したい。セリフの言い回しや言葉の選択などに、英語らしさが随所にちりばめられていた。たとえば、「最も~だ」という表現が複数登場したが、英語の最上級表現の訳だと推測できる。また、悩んでいるときの「んー」というセリフなど、細かい感嘆は英語のイントネーションに近かった。洋画の吹き替えのようなオーバーな抑揚を用いた表現や、現実ではあり得ないような感情の起伏を用いず、その言葉遣いが世界の常識のように会話している様子が印象的だった。耳から入ってくる音は日本語だが、英語で物語を聴いているような気分になる。英語圏に住む家族が徐々に壊れていく様を、淡々と眺めているような印象を持った。
この作品は、食を通して世の中が当たり前にこなしていることができなくなる、一線を外れてしまう恐怖をじわじわと描いた作品だった。病気で苦しんでいても、誰も本当にその苦しみを理解できる人はいない。だからこそ、家族に限らず、周りと支え合っていかなければならないのだと思わせてくれるものだった。
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画像:舞台『リンス・リピート-そして、再び繰り返す-』 公式サイトから引用(https://horipro-stage.jp/stage/rinserepeat2025/)

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