西原ゼミ「わたしのベスト3」

新進気鋭な作品ベスト2024
柄にメロンパン
第1位 乃原美隆「祝福のチェスカ」(『ZERO-SUMコミックス』一迅社)
おまちかね、お子様ランチプレートセットを頼みたいならこの作品。学園×ファンタジー×差別×政治×宗教×恋愛。まだ1巻しか発売されていないのにも拘らず、ここまで詰め込まれて面白い作品は中々ないと感じる一品だ。メインキャラクター達は国や文化、宗教、お互い話す言語さえも違う。そんな彼らの間の架け橋となるのが、言語学のスペシャリストの主人公、チェスカである。そんなチェスカを始めとする登場人物達と、祝福を持たないことで虐げられている民と王子が邂逅し、彼らの意思を置き去りにして世界中を巻き込み祝福が消滅してしまう。覆された常識。明かされる謎。均衡が崩れた世界はどうなっていくのか。これから目が離せない一作である。

祝福のチェスカ 公式サイト (ゼロサムオンライン)
第2位 売野機子「ありす、宇宙までも」(『ビックスピリッツ』小学館)
生きづらさに名前をつけられると、どこかホッとすることがないだろうか。主人公である朝日田ありすは、容姿端麗で運動神経も良くて人気者で、でも友達との会話も自分の感情さえもままならない。そんなある日、彼女は孤高の天才と呼ばれる犬星くんと出会う。彼との出会いで、ありすはようやく自分の感情を、宇宙飛行士という夢を口に出せたのだった。そうしてありすは、犬星くんと共に、日本人初の女性宇宙飛行士船長を目指すという物語である。漠然とした将来に不安を覚えるのではなく、明日やることがわからない。完璧で何にもなれるように見えるありすと犬星くんの不自由さを、お互いの存在で世界を色付ける。どこまでも行く彼女たちの歩みが楽しみなおはなし。

ありす、宇宙までも 公式サイト(ビックスピリッツ)
第3位 田沼朝「いやはや熱海くん」(『HARTA COMIX』KADOKAWA)
顔が良い熱海くんは、よく告白される。告白されるけど、誰とも付き合わない。でも彼自身は惚れっぽくて、心の中で伝えない想いに揺蕩っては、次の出会いを重ねて、また男の人を好きになる。
この作品の世界はきっと、理想的で現実的な世界だ。変に優しい世界でもなければ、苛烈を極めた悪意も存在しない。キャラクター同士の距離も、私たち読者との距離も近くもなく、遠くもなく、でもちょっと近いような。顔が良くて、ふしぎな存在感のある熱海くんが、恋をして、自身の感情を受け止め、人間関係を築き、その輪が広がっていく。熱海くんに限らず、そんな様々な人のメモリアルを「おっちょっと良さそうじゃん」と気になったカフェの店内を窓越しで見るように、私たちは本を開いて彼らを覗きにいける。疲れて休みたくなったら、またいこうと思えるような作品だ。

いやはや熱海くん 公式サイト(KADOKAWA)

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