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西原ゼミ「わたしのベスト3」
「愛」を考えさせられた三作
けだま
第1位 みよしあやと「千年紀末に吠える恋」(『ガンガンコミックスBLiss』スクウェア・エニックス)
大国が南北に分裂し争う世界で、南の兵士として常に一緒だった主人公・天陽(てんよう)と雨琉(うる)。ある戦で雨琉は天陽に「愛してる」の言葉を残し、絶命してしまう。その2年後、戦場で相対した敵将・欠月(かけづき)が、雨琉そのものだったのである。“遺体を術式で蘇らせた兵器”である「屍器(しき)」に雨琉の遺体も利用されていた。屍器である欠月に雨琉の人格が戻るかもしれないという希望から、天陽は彼と行動を共にするようになる。天陽は欠月の優しさに気づき好印象を持つようになり、欠月は天陽に対し恋情を抱くようになる。欠月の気持ちに気づいた天陽は今後彼とどう向き合うのか、雨琉の人格は戻るのか、欠月としての人格はどうなるのか。天陽に降り注ぐ数多の感情と愛が絡まる物語である。
繊細に描かれるこの作品は、特に目の表現に惹かれる。言葉では伝えきれない激情や表しづらい複雑なものを訴えかけてきて、胸が締め付けられる。特に、天陽が欠月の姿や言動から雨琉を思い出すシーンは非常に切ない。今年出逢った作品の中で、圧倒的に切なくて苦しい、この先の展開を早く見せてほしいと思った作品だ。天陽、雨琉、欠月が迎えるラストが気になる一方で、雨琉の遺体を欠月として蘇らせた術者の歪んだ愛にも注目してもらいたい。
千年紀末に吠える恋 公式サイト (SQUARE ENIXガンガンBliss)
千年紀末に吠える恋 公式サイト (SQUARE ENIXガンガンBliss)
第2位 イズミハルカ「君に降る言の葉は」(『Charles Mag』三交社)
主人公・日向(ひなた)は小説が大好きで、とりわけ円城桜という作家の作品を気に入っていた。ある日の登校中、電車で出会ったヤンキー風のお兄さんがなんとその円城桜本人で、不登校なクラスメイトの雪人(ゆきと)だった。次作が書けず悩んでいた雪人は、取材と題し日向に恋人役を頼む。思ったことをズバズバ言ってしまうことを自分の欠点だと思っている日向と、文字でしか雄弁に言葉を紡いでこなかった雪人が、すれ違いながらも“言葉”によって結ばれる物語。
この作品は何よりも、言葉選びが卓越していると感じる。作中に登場する小説の文章や、日向と雪人のセリフが繊細な心情を表していて、作品・キャラクター・キャラクターの感情についての解像度を上げている。中でも印象に残り注目してほしいと思う一節は、「おそろしいことだ。何かを愛することはまるっきり、自分の心臓を差し出すようなものじゃないか。」という、日向を救った小説の文章である。
君に降る言の葉は 紹介サイト(ちるちる)
君に降る言の葉は 紹介サイト(ちるちる)
第3位 夏野寛子「25時、赤坂で 5」(『on BLUE』祥伝社)
大学映画研究部の先輩後輩だった麻水(あさみ)と由岐(ゆき)。現在俳優として活躍する二人が、“演じる”ということを通じて互いを理解し惹かれ合う、BLシリーズの第5巻。
遠距離に加え、それぞれが俳優としての課題に向き合う中で、お互いの存在がどれほど大きく大切かを再認識する。
特に印象的なシーンは、互いに別作品を撮影している期間、麻水が由岐に電話で励ましの言葉を要求するところだ。それに由岐が返した言葉は、「麻水さん、好きです」。自分から送る愛が相手にとって励みになるものだと確信している真っ直ぐな由岐と、好きな人に好かれていることの安心感から元気をもらう麻水の穏やかな掛け合いに心が揺さぶられた。メインの二人の他、キャラクターの個性がよく表れたおもしろいセリフが多いので、1~4巻もぜひ読んでもらいたい。
25時、赤坂で 公式サイト(祥伝社)
25時、赤坂で 公式サイト(祥伝社)