おかぴ
川島ゼミ 観劇レポート(2024年12月期)
劇団四季『美女と野獣』
10月20日(日)12:30/舞浜アンフィシアター
今回、劇団四季のミュージカル作品である『美女と野獣』を観劇してきた。まず、この作品はディズニーのアニメーション映画をミュージカル化したものであり、公演もディズニーリゾート内にある舞浜アンフィシアターで行われている。
ある村に住む読書好きの娘ベルは、父を助けるため、魔法で野獣の姿に変えられた王子の住む城に囚われる。最初は恐ろしい野獣を拒むベルだが、次第に彼の優しさと誠実さに触れ、心を開いていく。愛を知ることで呪いが解けるという条件のもと、2人は互いの本当の姿に気づき、愛を育む物語である。
映画版『美女と野獣』は誰もが知っているナンバーが数多くあることは既知の事実であり、今作では更にオリジナルナンバーを加えた楽曲構成となっていた。
まず、ベルの紹介ソングでもある、街中を歩く異質な彼女と朝の街を描いた『変わりもののベル』では、大勢の街の住人が群衆となってベルを様々な方法で追いかけながら歌い上げる。上手から下手に、逆もしかり、そして奥から手前になどだ。特に興味深かったのが、建物を描いたセットを街並みが動いていることを表現するためにそのまま住人と共に動かすというものであり、上手と下手に置かれたセットが住人と共に奥から手前に出てきたときは、建物の可愛らしい温かみのあるデザインも相まってまるで飛び出す絵本を読んでいるようだった。童話原作のこの作品世界にもう一段深くのめり込んだ。
次に、『ベル(リプライズ)』をみていく。映画版では崖のふちに立って自分の夢を叫ぶように歌うシーンだが、今作では舞台にセットを何も置かず、上手寄りの舞台前方のふちにベルが立ち、高らかと歌い上げた。劇団四季の歌に対する絶対的自信を垣間見ることが出来たと同時に自分の夢を歌う前向きな場面のはずだが、周りに誰も何もないことにより、ベルがこの夢を誰かに伝えることが出来る状況ではないことが暗に伝わってきて、こちらも苦しくなる。
このシーンと対になると考えたのが、今作のオリジナル楽曲である、『愛せぬならば』だ。野獣がベルに愛されなければ消えてしまうという切実な願いを、塔の上で歌ったものだ。階段の最上段に野獣が立ち、舞台上には他に何も置かずに歌う。野獣の望みが薄い夢を苦し気に歌い、最終的にはそれが叶わないなら「滅ぼせよ!この身を!」と悲痛な歌声が劇場に響く。映画版では感じることのなかった、ベルも野獣も本人すら半ば諦めそうになっている夢を持っていたということを、野獣に新たなナンバーを用意し、似た状況で歌唱を行うことで、全く違う環境の2人の心情に実は似た点があったということを2人の愛が発展する前に理解することが出来た。映画版よりも愛が芽生える理由が更に強固になったように感じた。
そして、映画版の代表的なナンバーである、城のメンバーがベルにもてなす『ビー アワ ゲスト』も豪華絢爛であった。映画版ではテーブルに出てくる物量に圧倒されるが、今作では、物量では厳しい部分を色で補っているように感じた。出てくるものがまばゆい黄色なのだ。また、ただ派手なステージというわけではなく、曲中のパフォーマンスにフレンチカンカンが取り入れられており、作品のモデルになったフランスの要素が含まれていた。このナンバーにたどり着くまで薄暗く苦しいシーンが多いのだが、ベルだけではなく観客の気持ちまでも晴れやかにしてくれる。
最後に『夢叶う』を取り挙げる。ガストンに刺され絶命寸前の野獣にベルが愛を告げ、野獣が人間に戻る一連の流れを歌ったものだ。野獣が人間に戻る様子をイリュージョンで表現しているのだが、そこまでの流れが素晴らしかった。ベルの野獣へ思いを歌に乗せることにより、メロディーが相まって、思いがひしひしと伝わってくる。そしてその願いが野獣に届いたということが、野獣が人間に戻るということで表現される。こんなにロマンチックな告白の返答を魔法と見間違うかの様なイリュージョンで実際に戻ってみせたということが、ストーリーを知っていてもなお、本当に感動した。
ここまで長くなったが、この舞台には語りきれない魅力がもっと詰まっていた。休日にもかかわらず空席が目立っていたのが本当にもったいないと感じる。2人が描く愛の芽生えと周りのキャラクターが持つ信じる力のすばらしさをぜひ劇場で味わってほしい。