アプリコット
川島ゼミ 観劇レポート(2024年12月期)
『SONG WRITERS』
11月23日(土)13:00/シアタークリエ
今回観劇した作品はミュージカル『SONG WRITERS』である。本作は作詞家の森雪之
丞と俳優・演出家の岸谷五朗によって作られたオリジナルミュージカルである。2013年に初演され、2015年に再演された。そして今回、約10年ぶりに復活した。自信過剰な作詞家のエディ・レイクと、気弱な作曲家のピーター・フォックスという幼馴染の2人が主人公である。いつか自分たちの作ったミュージカルが上演され、成功することを夢見ている2人を中心に、音楽出版社のディレクターであるニック・クロフォードやミュージカル女優の卵のマリー・ローレンスなど個性豊かな登場人物たちと共に物語が展開していく。
観劇後まず思ったことが「とにかく楽しい!」だった。思わず口ずさんでしまうようなポップで耳に残る楽曲で彩られ、芝居と歌ダンスに加えてアクロバットもあり、見応えがあった。また、アドリブが多かったことも本作の面白さだ。観客はもちろん、時にはキャストも笑ってしまうようなアドリブがあった。テンポ良く面白い掛け合いができるのは多くの作品に出演し、経験を積んできたキャストたちが集まっているからだろう。確かな歌唱力と演技力があるキャストたちによる歌と芝居を基盤にし、アクロバットやアドリブなどの要素が加わることでさらに見入ってしまうのだ。
劇中では“エディ、ピーターと周りの人々の日常”と、“エディが書いているミュージカルの世界”という2つの世界が描かれていたため、どこまでがエディ達の現実世界でどこからがエディが書いた物語の世界なのかを一度の観劇で理解することは難しかった。だが、劇中でも現実と物語の境界が曖昧になっていくことによってストーリが進んでいたことを考えると、境界がわからなかったからこそ『SONG WRITERS』の世界に入り込んで楽しめたのかもしれない。
そして何より、キャスト達が心から楽しんで舞台に立っていることが役を通して伝わってきた。この作品を観た後に「楽しい!」と感じたのは、これが一番大きな理由ではないだろうか。舞台に立つこと、1つの作品をカンパニー全員で作り上げて届けることを全力で楽しんでいるように感じた。そこに観客の笑い声や手拍子、拍手などが加わることでさらに盛り上がり、作品が完成する。これがミュージカルを劇場で観る良さだと思う。それを、2人のソングライターズが教えてくれた。
『ソングライターズ』という曲に“この世に100の悲しみがあっても101個目の幸せを書き足せばいい”という歌詞があるが、この作品に出会えたことで私にとっての幸せが1つ書き足された。そう言えるくらい、観に行って良かったと思えた作品だった。