おにぎり
川島ゼミ 観劇レポート(2024年10月期)
ミュージカル『黒執事』~寄宿学校の秘密 2024~
今作は枢やなが描くダークファンタジー『黒執事』を原作とした2.5次元ミュージカル作品。今作で同シリーズ舞台化の7作品目となる。舞台は19世紀英国。ヴィクトリア女王の裏の仕事を請け負う、「裏の貴族」ファントムハイヴ家の若き当主のシエル、そして実は悪魔という顔を持つ執事のセバスチャン。そんなふたりに届いた新たな女王からの依頼は、名門寄宿学校に通う行方不明となった女王のいとこを捜索してほしいというもの。その謎を解決するべく、ふたりは寄宿学校へと潜入調査に臨むというストーリーである。
まず今作は冒頭から工夫が施されていた。幕が上がってさっそく本編に入るのではなく、今までのおさらいのようなシーンが始まるのだ。シエルとセバスチャンのふたりの出会いのシーンから始まり、その後は今までの作品で解決してきた事件のダイジェストシーンたちが歌い踊りながら目の前で繰り広げられる。しかもそのシーンには当時劇中で使われていた音源が使用されており、その事件内でしか登場しないキャラクターまで登場する。このシーンを取り入れることによって、今までの作品をすべて観てきた人からしては過去の思い出に浸りながら復習することができ、今回が初めて『黒執事』に触れる人からしたら簡単に今までのストーリーを知ることのできる素晴らしい演出であったと思う。
次に、縦横無尽に動く舞台装置。舞台の3分の1ほどの大きさのある階段のついた装置が複数あり、その隙間にも小さな装置が設置されている。大きな装置がどう置かれるかによって舞台上は全く違った場所へと変わって見えた。縦向きに舞台中央に並べれば、2つの装置の階段がくっついてあっという間に大階段になる。横向きに並べれば寮内の廊下の一コマになり、舞台の端にそれぞれおけば装置は建物の外観になり舞台中央は外の広場へと様変わりする。そしてこの大掛かりな装置は役者が歌いながら動かすこともあったが、場面転換のシーンでは全身真っ黒な服装を着用したスタッフが舞台上に出てきて転換を行うこともあった。しかしその様子を気づかれないように、離れた場所でメインとなる役者たちが演技をして目線を逸らすという観客の没入感を途絶えさせない工夫もされていた。
そして最後に役者たちの演技について話したいと思う。実は書くのが遅くなったが、今作は2021年に上演された作品の再演である。初演から続投しているのはアンサンブルを含めても4人のみで、それ以外は今作から新たに選ばれた役者たちである。そして流石選ばれただけあって名役者揃いだ。誰をとっても歌が上手い。ダンスが上手い。今作では、深みのある落ち着いた楽曲からテンポの良いコミカルな楽曲、さらにはラップシーンまで登場する。楽曲中にはスポットライトの当たらない場所でも、キャラクターの個性を取り入れた動きや歌い方に本当に目の前にいると私はただただ感動した。
このように、今作は初演の良いところは残しつつも、間違いなくアップグレードした作品であった。原作となった『黒執事』では、今回のストーリー以降も大きな展開が待ち構えている。ぜひミュージカル『黒執事』として、続編が決まることを楽しみに待ちたい。