川島ゼミ 観劇レポート(2024年7月期)

東京喜劇 熱海五郎一座『スマイル フォーエバー ~ちょいワル淑女と愛の魔法~』
2024年6月19日(水)13:30/新橋演舞場
彩樹
熱海五郎一座は2006 年に旗揚げした、三宅裕司、渡辺正行、ラサール石井、小倉久寛、春風亭昇太、東貴博、深沢邦之をメンバーとする喜劇ユニットである。2014 年より新橋演舞場でゲストを迎えて公演を行っており、今回は第10作を記念し、前身である伊東四朗一座の座長・伊東四朗と、松下由樹が出演した。今作は伊東演じる孤独な老人ハナー・ホッターが、松下演じる東京都知事・大沼桜子とその娘を、魔法で銀行強盗から守る場面から始まる。しかし大沼の娘は、足の小指に銃弾を受けたハナーの顔を見たショックで、笑顔を忘れてしまう。それを知ったハナーは、一度卒業した魔法学校を定時制生徒として再入学し、一座のメンバー演じる癖の強い生徒や教師に巻き込まれながらも、彼女の笑顔を取り戻す魔法を習得しようと奮闘する。
昨年の第9回公演で、初観劇にして熱海五郎一座の魅力にとりつかれた私は、その時点で次回公演の観劇を決めており、この日を心待ちにしていた。今回は「魔法」がテーマであるということから、プロジェクションマッピングを用いた演出も登場していたのが印象的であった。ハナーと、劇団スーパー・エキセントリック・シアターの俳優が演じる魔法学校の全日制生徒が魔法で対決をする一幕終盤では、中央に配置されたせり上がり式の台と、両脇に登場する壁に映像を投影することで魔法を表現していた。壁の後ろに生徒役の俳優が飛び込むと、壁にはその生徒がハナーの魔法で恥ずかしい姿に変えられたり、遠くへ飛んでいってしまう様子が映し出された。アクションパートも兼ねたこの場面は、今回ならではの興味深い試みであった。
今回のゲストである伊東は公演期間中に87歳を迎えたということであったが、伊東の演技力はそれを感じさせない、パワーに溢れたものであった。姿を消す魔法の呪文をうっかり解き、そこに居合わせた深沢※とラサール演じる刑事に自分が見えているか尋ねたり、三宅演じる教師に魔法をかけようとして何度も杖を折られたりというとぼけた言動が劇中では多々登場する。さらには台詞を忘れたと思うかのような間を繰り出して共演者をも巻き込む笑いが起き、あらゆるボケを操る喜劇役者としての存在感は、幕が下りるまで我々観客を楽しませてくれた。
また、本シリーズ2回目の出演となった松下は、シリーズ恒例の時事ネタによる笑いを担っていた。松下演じる大沼は都知事選を控えている中、知事を続投して集めた税金で私腹を肥やそうと目論むという役どころだ。税金を集めるためならオリンピックに万博に何でもやると意気込んだり、年寄りに優しくするのは若者よりも選挙に行くからと言い放ったり、社会問題を落とし込んだ台詞の数々は笑いを誘いながらも、社会へ目を向けることの重要性も思い出させた。しかし大沼のこの言動は、劇中で何者かによる洗脳が原因であり、本来は娘や都民を思いやる優しい心の持ち主であったと判明する。そしてハナーが大沼や魔法学校の仲間たちを守るのも、大切な人だからと語る場面がある。ハナーの思いと共鳴した大沼の本性からは、「人間の根幹は誰かを思いやる心である」というメッセージが感じられ、同時に本作の内なるテーマであるとも考えた。
この他、深沢※による開演5分前の前説、「お客様には、渡辺リーダー程度のギャグでも爆笑してしまう魔法がかかっております。休憩後、魔法を解かずにお戻りください」という幕間アナウンス、春風亭昇太の演じる役名がクッション・ルーラー、つまり「座布団の支配者」という出演者に関するネタと、昨年以上に笑いの要素があらゆる箇所に仕掛けられていた。それにとどまらず、我々にあたたかいメッセージを残すというこのシリーズの魅力も存分に感じられた。どんなハプニングも役者と観客の笑顔に昇華し、ゲストとの化学反応を見せてくれる熱海五郎一座は、今後も年々パワーアップしていくだろう。
※東と交互出演。

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