川島ゼミ 観劇レポート(2024年6月期)

朗読劇『ROOM』
2024年5月21日(火)19:00/こくみん共済coopホール
白ぶどう
個人的な話にはなるが、私は演劇よりも朗読劇を鑑賞するほうが好きだ。演劇で舞台上の動きすべてを観ることは規模が大きければ大きいほど不可能に近いと感じる。劇場で観ても映像で見ても結局はどこか取りこぼしてしまうものだ。しかし、朗読劇にその心配はない。観客は聴覚を研ぎ澄ませさえすれば聞き逃すことはないのだ。情景を想像で補いつつ没入していく感覚を、ぜひたくさんの人に体感してほしい。私が今回観劇レポートに選んだ作品は、演劇鑑賞に傾倒している人もそうでない人も楽しめる朗読劇だ。
今作はそれぞれの理由で旅館に宿泊している4人が広間に偶然集まって談笑しはじめ、部屋にまつわる物語を紡いでいく劇中劇のような形を取った短編ミステリー朗読劇。出演者が回替わりになっており、私は池田匡志・榊原優希・鈴木浩文・牧野由依が出演する回を鑑賞したのだが、非常に興味深い発見をした。それは、俳優と声優によって表現方法が明確に違うことである。
池田匡志・鈴木浩文は近年のスーパー戦隊シリーズに出演していた俳優、榊原優希・牧野由依はアニメやゲームで活躍している声優だ。異なるフィールドで活動している表現者が一堂に会すと「椅子に座って台本を朗読する」だけでも違いがにじみ出る。座りながら回転したり役ごとに足の組み方を変えたりと自身の挙動でも魅せる俳優陣に対し、声のトーンを大幅に変えて性別も年齢も軽々と飛び越えていく声優陣。目まぐるしく変化する視界と音声にあらゆる要素を含んだ物語が合わさり、どこか新感覚な舞台作品だった。この感覚が間違っていないと思えるのは、この作品が「光と音を駆使した新感覚朗読劇」とされているからだろう。
ソファが数個置かれた広間風のセットの中で本筋部分を、椅子だけ設置された階段下の舞台で劇中劇部分を演じるというシンプルな舞台装置だからこそ、照明と音響にも意識を向けやすい。日が傾いていく様子を表す照明や、静けさを切り裂くように鳴り響く効果音の数々。朗読劇にのめり込むからこそ照明と音響も敏感に察知できるし、なにせタイミングが的確で物語のテンポを相乗効果で盛り上げていた。演者の芝居を時に引き立て、時に支える機構は演劇にも通ずる部分があるように思う。役者の動きを感じながら舞台空間をつくりあげている時間は「一回性の芸術」を体感できる瞬間だった。
さて、私のレポートを読んで朗読劇の情景は頭に浮かんだだろうか。もしかすると演劇を観に行くよりも朗読劇を観に行くほうがハードルの高さを感じる人もいるかもしれない。そんな人にとって、このレポートが朗読劇に足を運ぶきっかけの一助になっていれば幸いである。

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