川島ゼミ 観劇レポート(2024年5月期)

劇団壱劇屋東京支部『BLACK SMITH』
2024年5月15日(水)19:00/CBGKシブゲキ!!
たらお
『BLACK SMITH』は、劇団壱劇屋が制作した舞台作品である。2021年に大阪で初演が行われ、今回で2度目の上演となった。舞台は人間が鬼に脅かされる世界。国の最高権力者からの命令により集められた7組の鍛治師たちは、人類の共通敵である酒呑童子の討伐へと向かう。
この舞台を制作した壱劇屋は、「あらゆる表現を人力で演出すること」と「ダイナミックなアクションシーン」の二つが非常に秀でている劇団である。ここでは『BLACK SMITH』を、この二つの要素から着目したい。
今作の舞台セットは、人が四人ほど乗ることができる大きなやぐらが一つ、そしてそのやぐらに登るため使われる、成人男性二人分の高さの階段が二つと、非常にシンプルな作りである。この舞台セットが機械の力に頼らず、全て人力によって舞台上を縦横無尽に動き回る。アクションシーンが多い今作では、演者がこの動くセットの上でアクションを行ったり、やぐらを舞台中央に配置し仕切りのような役割にすることで、舞台の上手側と下手側で別々のアクションが繰り広げられたりと、シンプルな舞台セットを利用した多種多様なアクションが展開されていた。
また筆者が特に印象に残った演出の一つに、作中のいわゆるラスボスに位置するキャラクター、天神のアクションがある。舞台中央に置かれた横に二つ並んだ階段の頂上で、彼が飛び上がるのと同時に、並んでいた階段が左右に分かれ一斉に舞台端へと移動し、飛び上がった彼がそのまま地面に着地するというシーンは、たった数秒ではあるが、この天神というキャラクターの強さを一瞬で表現できる場面であった。天井からぶら下げられている照明に当たりそうなほどの跳躍力を見せ、そのまま地面に着地する役者の身体能力の高さに驚いたのと同時に、キャラクターの魅力を一瞬で伝えることができる大胆な演出にも驚かされた。
また今作には、アクションモブと呼ばれる出演者が10人いる。彼らは一般的な舞台でアンサンブルと呼ばれている出演者と同じ役割だが、アクションモブという名前通り、主に斬られ役として舞台上に出てくる。それに加え、時に前述した舞台セットを動かし、時に背景の一部ともなる彼らは、上演中ほぼ全ての時間を舞台上で走り回っていた。今作には完全な暗転がなく、度重なる場面転換を人力で動くセットで表現していたことが特徴的だったこともあり、作品の屋台骨とも言っていい彼らの活躍も、今作の魅力の一つとなっていた。
今回は主に演出面に着目したが、今作はなんといってもストーリーが面白く、見ている人の心に深く刺さる物語であったことも記しておきたい。壱劇屋で作演出を担当する竹村晋太朗は、人間の素晴らしさを描く作品を作ることが多い。今作も、脆く儚い人間がどれほど尊く美しいかを伝える、人間讃歌の物語であった。今を生きる活力を与えてくれる壱劇屋の作品を、これからも見続けていきたい。『BLACK SMITH』は、これからも壱劇屋が作る作品を見続けていくためにも、強く生きていかなければならないと思わせてくれる作品であった。

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