川島ゼミ 観劇レポート(2024年5月期)

ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』
2024年2月19日(月・祝)13:00/帝国劇場
P.N. 白ぶどう
本稿を読む人々は、「ジョジョミュ」と聞いてなにを想像するだろう。製作体制に問題が生じたことで6日間の上演中止を余儀なくされたことか、観劇した人々による称賛の嵐か。
イギリスの貴族ジョースター家の一人息子ジョナサン・ジョースター(以下、ジョジョ)は、父ジョースター卿のもとで「本当の紳士」となるよう育てられていた。そのジョースター家に、スラム街に住む貧民の家に生まれたディオ・ブランドーが養子として迎え入れられるがディオはジョジョからすべてを奪う計画を企てていた。2人の壮大な因縁と奇妙な力を持つ石仮面を巡り、『ジョジョの奇妙な冒険』第1部の幕が開いた。
今作を観劇して印象に残ったポイントのひとつに、特徴的な楽曲の数々がある。開演直後暗闇の中から突如目に飛び込んできたのは、今作で語り部を担うスピードワゴンだ。物語の始まりを告げる彼が放ったリリカルなラップには一気に惹きつけられた。また、ジョジョに戦いの術「波紋法」を伝授したウィル・A・ツェペリのソロでは「波紋法」に必要不可欠な呼吸が歌詞に取り入れられていたり、ディオの父ダリオ・ブランドーのソロでは登場する度に「ディオ」と呼びかける歌詞があったりと、物語の重要な部分を印象的に表現していた。
演出面でも驚かされた点が多々存在している。『ジョジョの奇妙な冒険』といえば独特なオノマトペが有名だが、そのオノマトペが聞こえてきそうな場面には感服した。特に印象的だったのは2点ある。まず、ジョースター邸に到着したディオが鞄を地面に投げつけ、馬車から飛び降りる場面だ。原作では「ドザアッ!」「シャン!」と表現されており、ディオのキャラクター性を感じられる部分である。舞台では着地の音を鳴らしすぎない華麗な跳躍で表現され、SNSでは原作ファンから歓喜の声が上がっていた。そして、ジョースター家の番犬ダニーだ。人間の周りを走り回る姿や座り方は、人間が動かすパペットだとは思えないリアルな動きだった。漫画的な動作と人間ではない動物の生態の再現度は、過去に帝国劇場で上演された他作品の演出も思い起こされる瞬間であった。
もちろん登場人物の掘り下げについても余念はない。人間讃歌をテーマに描かれる第1部だが、舞台ではより色濃く反映されていたと感じる。中でも、生まれついての悪と言われるディオ視点での回想や心情を吐露するシーンは、悪の帝王になるとわかっていても同情心が湧いてくる感覚に襲われた。そう思わせる役者の表現力も凄まじいが、悪役の過去や思惑をあえて丁寧に描写する脚本がキャラクターを魅力的に映したのだろう。正直、どこを切り取っても文句なしの演目だった。やはり痛手だったのだ。
日本のミュージカル界を盛り上げる東宝株式会社に全幅の信頼を置いていたからこそ、報道に動揺を隠せなかったのは言うまでもない。明日は我が身、と怯えた数日間は数年前のパンデミックをも想起させた。このような事態が二度と起こらないことを強く願うとともに、この先も多くの人を魅了する作品をつくり続けてほしいと感じた。

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