川島ゼミ 観劇レポート(2024年5月期)

劇団四季 ミュージカル『アナと雪の女王』
2024年5月3日(金・祝)12:30/JR東日本四季劇場[春]
蒼空
2013年に公開され世界的な大ヒットを記録したディズニー作品『アナと雪の女王』が劇団四季のミュージカルになると最初に聞いた時は、舞台上でどう表現されるのかとワクワクしたものだ。また私は2022年の『Japan Musical Festival』にて劇中曲の『Let It Go』を鑑賞しており、コンサート形式であったあの会場でもプロジェクションマッピングとオーケストラによる素晴らしい雪と氷の世界を体感していた。これが作品本編になったらどうなってしまうのだろう。
幕が開くと、横幅は狭く奥行きの広い舞台に薄いスクリーンが2枚という舞台セットで、背景はほぼこのスクリーンに投影する手法が取られていた。劇団四季というと大型セットを人力で動かすイメージがあったため少々意外である。しかし物語の展開と共に最初のシンプルな舞台セットから氷の世界へと目まぐるしい変化を見せた。姉・エルサの戴冠式のパーティーで彼女の魔法が人前で発現してしまう場面では、一瞬にして氷のセットが現れて魔法の強さと恐怖と美しさを感じさせられた。この作品の描く魔法という現実にないファンタジーの要素は、エルサの感情という目に見えない要素でもあり、それを鏡のように映し出す氷や雪たちにはどのシーンも目を奪われる。
それをこれでもかと見せつけられたのが、一幕終わりの『Let It Go』である。誰もが知るこの名曲はイントロが流れた瞬間にぞくりと空気が震える感覚があり、観客たちのざわめきや高まりを感じた。王族の証であるマントやティアラ、そして魔法を隠すための手袋を飛ばした後のエルサの歌声は力強く迷いがない。この曲に限らず劇中曲の歌詞はアレンジされている部分が多いが、特に日本版映画では「風が心に囁くの」という歌詞だった箇所が「風が心で吹き荒れる」と変化していたことで、彼女の激情と定まった強い意志を示すような力強い歌声との相性が良かった。そして解放された彼女の魔法の力は収まることを知らない。一瞬一瞬目まぐるしく変化し、ほんの1秒後には全く別の景色に変わってゆくステージセットと映像美に瞬きを許されず、気がつけば口を開けて涙を流していたほどだ。スモーク、照明、舞台美術、音楽、歌唱パフォーマンスが合わさり、爆発的なエネルギーを創造している。間違いなくこれは"魔法"だ。
これまでにも魔法を題材にした舞台はいくつか鑑賞したことがあった。人力と映像技術の組み合わせもその中で見てきたが、圧倒的な違いは空気の振動であるように感じる。魔法を題材とするとどうしても映像投影技術を使うため、舞台上で完結させる部分が大きくなり、観客の干渉しない美しさが生まれる一方で没入感や一体感に欠けてしまう部分が出てくる。劇団四季はその欠点をオーケストラの演奏や役者陣の歌声の力強さで劇場全体を包み、空間を丸ごと震わせることでカバーしているように感じた。暴論ではあるが、これは是非劇場で体感してもらいたい。また舞台上で完結されるという点において、この作品では舞台が額縁のように囲まれており、完成された絵を眺めるようにも捉えられる点がこの物語の美しさをいっそう際立たせているように思えた。

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