川島ゼミ 観劇レポート(2024年5月期)

戦国時代活劇『HIGH&LOW THE 戦国』
2024年2月7日(水)19:00/THEATER MILANO-Za
うそうさぎ
今回観劇した作品は、今年1月末より上演された舞台『HIGH&LOW THE 戦国』である。この作品はEXILE HIROがプロデューサーを務め、2016年に始動した総合エンターテイメントプロジェクト「HIGH&LOW」シリーズの新作であり、初の舞台作品である。このプロジェクトには第1作から最新作まで「全員、主役』というキャッチフレーズがついている。これまでの作品でも多くのキャラクターに見せ場がありそのキャッチフレーズに違和感を抱いたことはないが、今作ではキャラクターや役者だけではなく、その場にいる全員が主役なのだと強く感じた。本レポートでは2つの「主役」について取り上げる。
1つ目は役者が主役であるという点である。これは歴代作品にも共通することでHIGH&LOWシリーズでは主催事務所であるLDH JAPANに所属する本業をアーティストとする役者が多く出演し、演技を本業とする役者とメインキャラクターを演じることが特徴にある。ここでは主催がLDH JAPANであることから主催事務所に所属していない主要な役者をゲストと便宜的に表現する。今作では宝塚歌劇団で専科に所属する役者をメインゲストに招いた。たくさんの役者を全員主役にするため役者たちは物語の中で3つのチームに分かれており、それぞれが持つ問題や困難を解決して物語が展開していく。彼らはそれぞれ、「友愛」、「敬愛」、「恋愛」という「愛」に関する困難に直面しており、共通したテーマを持つことでそれぞれの物語の中にも統一性を持たせ大きな一つの作品としてまとめているのだと感じた。
2つ目は観客も主役なのだと感じた点である。この作品は一般的な舞台と違い「舞台作品を見ること」そのものが目的の観客よりも、目的やお目当てがあって鑑賞する人が多い。簡単に思いつくだけでもプロジェクトのファンやアーティストのファン、ゲストのファンと、お目当ては様々である。公演期間が始まるまではこの多種多様な観客を満足させることができるのかと不安に思っていたが、その設定があることで誰が喜ぶのか、と考えるとこの作品がたくさんの人を楽しませたいという工夫に満ち溢れていると感じ、私の不安は完全な杞憂に終わった。プロジェクトのファンには前作までの作品の象徴的なセリフや共通して出演する役者が前作をパロディすることで、アーティストやメインゲストのファンには役者のことを知っている人には伝わる設定やアドリブを入れることでそれぞれの観客に「わかる人にはわかる」「私にしかわからない」という秘密の要素で高揚感と満足感を与えているのではないだろうか。そして「舞台作品を見ること」そのものが目的の観客も楽しめるよう、時代劇の側面として本能寺の変や三国志を想起させる要素がちりばめられていた。HIGH&LOW流のホスピタリティで、観客を誰一人取り残さないという気合いを感じた舞台だった。
ここまでこの舞台について熱く語っている私だが、新作が舞台だと発表されたときは観に行かないと思っていた。なぜなら舞台化に加え時代劇となった作品で、これまでの作品の伝統にも言える共通した特徴を表すことができないと感じたからである。しかし、公演が始まり役者や物事に関する様々なレビューをSNSで読む中で「これはHIGH&LOWだ」という言葉に突き動かされ観劇に至った。そして舞台が始まった序盤で「これはHIGH&LOWだ」と実感した瞬間に目頭が熱くなった。長期間のプロジェクトにも関わらず常にこんなにも完成されたエンターテイメントを私は他に知らない。HIGH&LOWを愛する全ての人に見てほしい作品であり、これまでを知らないという人にも強く勧めたい作品である。また、続編の制作も決定しているため期待している。

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