川島ゼミ 観劇レポート(2024年5月期)

宝塚歌劇団 雪組公演
ミュージカル『仮面のロマネスク』
~ラクロ作「危険な関係」より~
ショー・パッショナブル『Gato Bonito!!』
~ガート・ボニート、美しい猫のような男~
2024年5月5日(日)16:30/愛知県芸術劇場大ホール(配信にて鑑賞)
彩樹
初めに『仮面のロマネスク』は、ラクロ作の仏文学『危険な関係』を原作として1997年に宝塚歌劇団で初演されて以来再演を重ね、今回は雪組によって上演された。物語は貴公子達の憧れの的である未亡人・メルトゥイユ侯爵夫人と、かつての彼女の恋人である青年貴族・ヴァルモン子爵による恋愛ゲームを主として、舞台となる1830年のパリにおける民衆の動きを織り交ぜながら繰り広げられる。併演のショー『Gato Bonito!!』は、同劇団によって2018年にミュージカル『凱旋門』と同時上演されて以来の再演となる。ショーはラテンのリズムを中心に、ポルトガル語で「美しい猫」を意味するタイトルから、猫をイメージした衣装等と共に展開する。
宝塚歌劇団は、れっきとしたスター主義の劇団として知られる。私が普段多く鑑賞している劇団四季の作品では作品主義が徹底されており、俳優達はその作品の世界を登場人物として生きることが強く要求される。対する宝塚歌劇では、トップスターやトップ娘役または2番手スター、はたまた注目株の生徒と、“誰が”その作品に出演するかが重視される。しかしそこに甘んじて、作品の世界で生きることを疎かにしないのが宝塚歌劇の魅力であると『仮面のロマネスク』では感じられた。
ヴァルモン子爵を演じたのは雪組2番手スター・朝美絢、メルトゥイユ侯爵夫人を演じたのは雪組トップ娘役・夢白あやである。前者は見る者の目を引く美貌という朝美自身の要素、淑女達を虜にする悠然とした挙動、そして終盤でメルトゥイユに心情を暴かれるにつれてそれが崩れていく様というヴァルモンの要素、その両方が舞台上に存在していた。一方後者も、夢白の華やぐような美しさと振舞いの気高さという要素と共に、眼差しや言葉の節々に薄暗い嫉妬の感情を滲ませる姿に、確かにメルトゥイユも存在していると思わせられた。心に仮面を着け、最後は時代と共に廃れゆく貴族の運命に敗れ、引き裂かれる哀しき恋人達の姿がそこにあったのだ。
『仮面のロマネスク』の後には打って変わって、情熱的な『Gato Bonito!!』の世界に誘われる。「美しい猫のような男」たる朝美が雌猫を思わせる娘役達を率いる姿は、先刻見せたヴァルモンのような甘美さを彷彿とさせた。しかし中盤では「黒猫のタンゴ」を歌いながら朝美が客席から登場する演出があり、更にこの日は愛知県での公演ということから、名古屋名物「ぴよりん」を手に観客を盛り上げていた。このようにひとつの物語に縛られることなく、美しさや笑いと多彩な面を見せてくれるのが、宝塚歌劇のショーにある魅力だと感じた。
先述の通り、これまで私は作品主義の劇団四季に親しんできた。しかし、スター主義の宝塚歌劇へと視野を広げてみると、作品と共に劇団員をいかに魅力的に見せるかという点に注力していることが、非常に興味深く感じられた。今回『Gato Bonito!!』でのナンバー「Cat violenta」では朝美が歌う「今日裏切られても 明日いいことがある」というフレーズがある。観客はスターから語られる言葉に励まされたが、劇団員達が今後もより安心して舞台で輝けるように、我々も同じようなメッセージを込めて声援を送り、心を寄せていきたいと感じるステージであった。

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