川島ゼミ 観劇レポート(2024年1月期)

『三代目J SOUL BROTHERS PRESENTS “JSB LAND” 』
2023年12月3日(日)16:00/東京ドーム
白ぶどう
3日間当てるつもりはなかった。本当に。そう懇願すれば集まってくれたゼミ生に、まずは感謝の意を述べる。LDH所属アーティストから離れる友人が多い中、元々知識がある人だけでなく初めて触れる人も興味を示してくれたことは純粋に嬉しかった。それと同時に、想像通りのライブが提供されるのか疑問にもなった。発表時から異例なものになると表明されてきたからだ。通常であれば「LIVE TOUR」と表記されるタイトルが「PRESENTS」となっている。2023年初頭からミート&グリートツアーやアリーナツアーを重ね、集大成ともいえるドームツアーでは一体なにが巻き起こるのか。期待と不安が押し寄せながら迎えた3日間は、アミューズメント・パークに訪れたかのような多幸感溢れる時間だった。
そう感じた理由のひとつに、入場前から施された世界観を楽しめる仕掛けがある。会場横や場内のゲートには「Welcome to JSB LAND」と書かれたアーチが設置されていたが、過去のライブにそのような装飾はなかった。差別化を図る工夫にも捉えられるが、私には幾度も来場を呼びかける彼らの姿が思い起こされた。このライブがいかに特別なものなのか実感した。もちろん、ステージの造りこみも抜かりない。円柱型のセンターステージの天井には7色に光る城がそびえ立つ。蔦や葉を模した大きく長い装飾がスピーカー部分やステージの支柱に飾られ、緑がかった照明や遠隔制御式ペンライトの光と相まって自然豊かな景色を連想させる。開演前から施された壮大な演出は、本気度を感じられる証といえるだろう。
前作のアリーナツアー『STARS ~Land of Promise~』と連動する形で構想が練られた今回のライブだが、続編と称するよりは独立したコンテンツとして捉えるほうが的確だと考える。『STARS ~Land of Promise~』は観客との距離感を大切にしたアットホームな空間づくりに努めた印象だったのに対し、『JSB LAND』はグループの雰囲気を崩さないまま個人活動にフォーカスした場面が多く、個々の人となりや特徴が掴みやすい内容になっていた。中でも中盤の流れは画期的だった。山下健二郎が不定期で開催する大規模イベント『山フェス』を再現したパートでは、久々に披露される小林直己のギター演奏・ヒップホップグループHONEST BOYZとしても活躍するNAOTOのラップ・2021年に歌手活動を始めた岩田剛典の歌唱と、バラエティ豊かな内容が詰め込まれている。ダンス以外の分野で開拓された領域を一度に見られるのは貴重だ。また、ボーカルの今市隆二・ØMIは双方のソロ曲をパート分けして2人で歌うパフォーマンスを見せた。グループと切り離したソロ活動という認識が強かったためか、会場の熱気が高まるのを肌で感じられた。各々で得たものをグループに還元する彼らのスタイルが健在であり、エンターテインメント性の高い内容を構築できるほど多方面に才能を広げていることが一目瞭然だ。
まるでアトラクションかのような色とりどりのパフォーマンスが本編で披露されるからこそ、アンコールの楽曲や演出が引き立てられるのだろう。CGを多用した映像では近未来的な都市のあちこちにパフォーマー5人が現れ、最後に東京ドームの外観が映されると場内は暗転。ダンスバトルを再現したパフォーマーによるショーケースが始まるのだ。ELLYのラッパー名義であるCrazyBoyの楽曲やLDHの総合エンターテインメントプロジェクト『HiGH&LOW』の挿入歌がメドレーとして使われ、曲に合わせて得意ジャンルのダンスを1人ずつ披露していく。ダンスを生業にする人をパフォーマーと称し、難易度の高い振付を固定の立ち位置で踊って存在を認識させる戦略を考えたLDHだからこその表現だ。勢いを落とさぬまま、LDHで継承されている楽曲シリーズ「24Karats」メドレーに移る。ボーカルの煽りやパフォーマーの激しい動きに感化されて会場のボルテージが一気に上がっていく。後半に差し掛かると、己の肉体美を披露するメンバーが現れると黄色い声援が飛び交うLDHの王道路線ともいえる世界観が眼前に広がっていた。LDHらしさ全開のステージングは、他事務所のアーティストにはない魅力を確かなものにしていると感じた。
今ツアーの準備期間から現地に足を運ぶまでの間、理解不能な部分がいくつも存在していた。いつも以上に気合いの入ったSNSでの宣伝、開幕後はメンバーのSNSではネタバレ合戦、公式YouTubeでは半分以上の日程が未実施の状況下で1曲目のパフォーマンス映像フル尺公開。配慮という言葉を知らないのか? 当初の私は憤りすら覚えていた。そこまでして宣伝する理由がわからなかったからだ。完全初見で挑めないことに落胆しながら現地に足を運んだわけだが、そんなちっぽけな文句は消え失せるほど誰かに勧めたくなる作品だった。このライブは「三代目J SOUL BROTHERS=R.Y.U.S.E.I.」で止まった世間の認識を更新したいという意志表示なのだと考えた。今回におけるR.Y.U.S.E.I.の位置や扱いはその証拠といえるだろう。過去のライブでは本編の最後やアンコールに置き、観客と一緒に歌う演出を盛り込むことが多かった。しかし今回は前半のメドレーに組み込まれており、比較的あっさりと終わらせた印象だった。その代わりにR.Y.U.S.E.I.のアンサーソングとして制作された最新曲STARSや、ØMIとELLY(CrazyBoy)による三代目J SOUL BROTHERSを題材にした歌詞が特徴のRAINBOWがその位置を担う。R.Y.U.S.E.I.に大きな意味を持たせずに他の楽曲と同等の扱いにしたセットリストは、彼らにとっても挑戦的な構成だっただろう。その試みを待ちわびていた私にとっては、期待に応えてくれたこの上ない演出だった。
随分と長くなってしまったが、これだけ書き綴ってもまだ語り足りない。それほど進化を遂げようとしている彼らの姿は眩しかった。その輝きを語り尽くすための考察を展開するのもまた一興かもしれない。3日間当てられてよかった。本当に。

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