川島ゼミ 観劇レポート(2024年1月期)

MANKAI STAGE 『A3!』ACT2! 〜AUTUMN 2023〜
2023年12月16日(土)12:30/日本青年館ホール
蒼空
『MANKAI STAGE 「A3!」ACT2! 〜AUTUMN 2023〜』はスマートフォン向けアプリゲーム『A3!』を原作とする2.5次元ミュージカルシリーズ『エーステ』の最新作である。本作は舞台となる小劇団「MANKAIカンパニー」の中で1番血の気が多く、強面で不器用なメンバーが集まる秋組の第5回、第6回公演の物語だ。秋組の6人中、4人が主演公演を終え、残る2人となった太一と十座が焦りを見せる。本作はこの2人がそれぞれの憧れを掴み取る物語となっていた。
秋組の関係性は過去の楽曲の中で「拳で語り合うライバル」と言われている。オープニングでは主演経験者の4人が自身の主演時の小道具を持って階段のセット上に、未経験となる2人が階段下に立ち、その差を視覚的に見せつけた。太一と十座はそれぞれ「0番=舞台の真ん中」と「ヒーロー」に憧れている。憧れるからこそ、過去の経験が枷となってしまい、どれほど努力しても納得できなかったり、自身の強みと真逆の憧れに苦しんだりする姿が描かれた。真面目で不器用な2人故に、憧れというものの存在が大きくなりすぎて焦燥、後悔、嫉妬と言った感情が芽生え一種の呪縛のようになってしまう姿は観ていて苦しいほどだ。前作の夏組公演では全員で肩を組み、一緒に克服しようとするが、秋組はそうではない。ストレートに彼らの持つ強みを伝えられず、すれ違いも起きる。主演を経験した4人もまた不器用な者たちだ。それでも誰よりも近くで見てきているからこそ背中を支えられる強さがあり、「お前にだけは死んでも負けねえ」と己を鼓舞しながらライバルの背中を押す姿に胸が熱くなった。
『エーステ』シリーズの見せ場となる劇中劇では、秋組の魅力であるアクションをそれぞれカンフーとボクシングを取り入れた芝居で魅せた。太一主演の第5回公演「燃えよ饅頭拳」は中華風コメディアクションとダークで男らしい世界を描くことの多かったこれまでの紅組公演と一線を画し、夏組が強みとするようなテンポの良いコメディ劇である。夏組公演で恒例となったネタを取り入れたり、過去の秋組公演ではまず見ることのないようなコントのような芝居をふんだんに取り入たりと全く新しい秋組の姿が見られた。またスクリーンに技が投影される、体の一部だけ小道具を用いて大きくなるなど、『マッシュル』『鬼滅の刃』等で見た同制作会社の少年漫画アクション作品にも見られる演出が特徴的であった。一方、十座主演の第6回公演「Fallen Blood」では舞台上のヒーローと路地裏の清掃員という光と影が対比するような演出がされ、渋さや影の表現を得意とする十座らしさを全面に押し出したとても秋組らしい劇である。ヒーローに憧れる清掃員ブラッドという役は十座そのものであり、役とキャラクターのリンクする台詞が見られた。劇の中盤から舞台上にカメラ搭載のドローンが飛ばされ、舞台の上からの様子をスクリーンに映し出す演出が新鮮であった。客席から見える景色と舞台上空から映し出される景色は全く違う臨場感があって面白い。それまでの秋組らしさが詰まった芝居にこの新鮮さが良いスパイスとなり引き込まれた。
『エーステ』シリーズは過去からの繋がりや対比、深まる人間関係が回を増すごとに強く描かれ、次の季節へとバトンを渡していく。カーテンコールでは5人体制の際に披露された楽曲を6人バージョンで歌われ、懐かしさと新しさを噛み締めた。5年の歳月をかけて続く物語のその先をまた楽しみにしたい。

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