川島ゼミ 観劇レポート(2023年12月期)

『gagap』
11月22日(水)19:00/シアターグリーンBIG TREE THEATER
たらお
今回観劇した作品は、『gagap』である。舞台は人間と怪人が共存する世界。人間を滅ぼそうとする怪人に対抗するため、花房堅悟と宿木メイは、怪人特別対策課で怪人を捕まえる日々。二人は様々な怪人と対峙していく中で、その歌声で日本中を魅了した歌謡女優の春夏秋冬(ひととせ)と出会ったことがきっかけとなり、人間と怪人の境目は曖昧になっていく。
この作品は、事前に公開されたあらすじやキャラクタービジュアルなどが好評を博し、初日2週間前に全公演のチケットが完売した。当日券として販売する予定だった座席を急遽前売り券として追加販売するも、瞬く間に完売。小劇場演劇の中では珍しく、全公演超満員での公演となった。たくさんの観客の期待値が異様なほどに高まっていたこの作品は、その期待をも大きく上回るほど、観客を『gagap』の世界に誘うものであった。
『gagap』の登場人物は19人。もちろん主人公やヒロインといった明確な主要人物はいたが、19人の登場人物全員が輝く物語であった。その中でも特に印象に残った登場人物が、歌謡女優の春夏秋冬だ。大震災で国が壊滅状態であった頃、街で歌を披露した春夏秋冬の歌声は、国民の心を救い、彼女は瞬く間に国民的歌謡女優となった。しかし物語中盤、彼女の歌声は、人間を怪人へと変貌させてしまうきっかけであったことが判明する。このことが判明した途端、つい先ほどまで綺麗で、透き通って聞こえていた春夏秋冬の歌声は、まるで呪いの歌のように聞こえ始める。恍惚な表情で聞き惚れていたアンサンブル演じる兵士たちは歌声により体をうねらせ、次々に怪人へと変貌していき、春夏秋冬を守ることを使命としていたボディガードさえも怪人に姿を変えてしまう。これは、春夏秋冬の歌声に聞き惚れていた観客をも恐怖に陥れ、より観客を作品にのめり込ませていくストーリー展開であった。
また物語終盤、人間と怪人が対峙し、戦争となるシーンでは、約10分間台詞をほぼ使用せず、殺陣とたった三言の台詞のみで物語が進行する。物語の根幹とも言える台詞を削ぎ、殺陣のみで表現される世界は、ほぼ視覚だけでストーリーを読み取ることとなり、観客が出演者の一挙手一投足に集中しなければならない。この演出も、観客がより物語に入り込むことができる要素の一つとなっていた。
150分にも関わらず間延びしないストーリー、惹きつけられ続ける演出、ハマり役ばかりのキャラクターなど、何もかもが圧巻の作品であった。不満な点があるとすれば、会場キャパが167席と小さく、窮屈な印象を抱いてしまったというぐらいである。大きな劇場で公演すると、魅力が増すのではないかと思う演出ばかりであったため、もしもまたこの作品が見られる日が来るのなら、より大きな劇場で繰り広げられる『gagap』が見てみたい。

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