川島ゼミ 観劇レポート(2023年12月期)

舞台『言の葉の庭』
11月16日19:00/品川プリンスホテルステラボール
蒼空
『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締まり』などで知られる新海誠が2013年に手がけたアニメーション映画・小説の『言の葉の庭』が初めて舞台化された。『言の葉の庭』は靴職人を目指す高校生の孝雄と謎の多い女性の雪野を中心とする「孤悲」の物語だ。今作では学校を子供じみた場所に感じている孝雄、孤独感に苛まれ職場に行けなくなった雪野の他に、孝雄の母や兄、雪野と以前交流のあった女子高生の祥子など、映画では取り上げられなかった彼らの周りを取り巻く人々にもスポットが当てられていた。
まず開演前、劇場に入ると雨の音が流れており、後方のモニターと紗幕は水彩絵の具を垂らしたような独特な色合いに染まっていた。劇中、木々の淡い緑を基調としていることの多いモニターは随所で登場人物たちの感情が滲むように赤や青が点々と置かれ、美しい中にもどことなく心のざわめきを感じさせるような変化を見せる。他にも、アニメに出てこなかったもので鳥の模型を用いたり、短歌が多用されたりと心情の表現が独特であった。孝雄をはじめ、この物語は素直な感情を表に出せず、言葉を飲み込みがちな人が多い。不器用にもがきながら、自分を押し殺したり、時に他人を傷つけたりしながら1人ひとり毎日を戦うように生きている。そんな彼らの心模様を背景や鳥や短歌で繊細に表していた。
また他にも、東屋のセットの使い方が印象的だった。孝雄と雪野の交流の場である東屋は満員電車や学校の教室としても使われる。それほど大きくない四方が空いた白い枠のような四角形のセットは公園では程よい広さの東屋だが、電車のシーンでアンサンブルなどが加わると一気に狭くなり、息苦しい満員電車へと変化する。雨の朝、孝雄が電車から逃げるように公園へ来ると一転して静かな東屋へと変化する。雨が彼らを学校や職場から解放させるきっかけであるならば、東屋はそんな2人を雨の冷たさと都会の喧騒や社会の人々の嫌な空気から匿う隠れ家や秘密基地のようだった。
人間関係というのは複雑に絡まる細い糸のようだ。人と人とのつながりが、紡がれ、絡まり、途切れてしまう中で、それでも温もりはある。この物語の人物はみんな孤独を抱えているが、その孤独が重なった時に確かな温かさを感じた。孤独や悲しみが完全に消えるわけではなく、それを抱えながら生きていく中で出会いや別れを繰り返し、自分を探している。物語らしいミラクルではなく、リアルな葛藤や孤独が繊細に描かれた作品だった。

サイトマップ
Copyright: ATOMI UNIVERSITY All rights reserved. Never reproduce or republish without written permission.