川島ゼミ 観劇レポート(2023年12月期)

『SHELL』
11月18日(土)14:00/神奈川芸術劇場
白ぶどう
本学で実習授業の講師を務める杉原邦生が演出を手掛ける最新作が上演された。素人の学生に身体表現の面白さを伝える「先生」が施した演出は、想像の範疇を越えていくまさに「演出家」らしい表現方法だった。
静水学園高校の教師が姿を消す。未羽・希穂・咲斗と友人たちは、問題の真相を突き止めようとしていた。ある日、未羽は建物の前で若者と中年の男が揉める現場を目撃するのだが、中年の男の「顔」が希穂に見えた。一部の人間が持ついくつもの「顔」を見抜く力が未羽にはあったのだ。希穂のように様々な「顔」を持つ人、未羽のように複数の「顔」を持つ者を繋げられる人、何も持たない人々が交差し物語が展開する青春ファンタジーだ。
教室で繰り広げられる他愛もない会話も、友情や恋愛が絡む眩しい時間にも、いつだって視界に緑が入り込んでくる。グリーンバックを多用した空間づくりに、緑の布や素材をふんだんに使った衣裳を纏う人物(=「顔」を持つ人)が早替えをして登場する。かつて見たことのない舞台上の景色に圧倒された。グリーンバックから連想されたのは、何かを投影したり透けさせたりできることだ。自分ならどんな景色を映写するか。観る人によって映すものが異なるはずだ。景色を自らで補う初めての観劇体験に、メモを取る手が止まるほど見入った。
真緑の世界に引き込む演出は随所に散りばめられていた。私が特に印象深く感じたのは、希穂の「顔」が消失する前後の場面だ。照明が降下していることに気が付き観察していると、振り子のようにゆったりと左右に動き始めた。舞台上の明かりが均等でなくなり、学生たちの動きも不安定さを感じさせる激しいものになっていく。最後は全員が中央に集まり、揺れ続ける照明に向かって手を伸ばす。一連の流れに綺麗さは感じない。しかし、揃わないまま揃っていくフォーメーションはまとまりがある。あらゆる要素が合わさり、作品の特徴とも合致する演出だと感じられた。
視覚だけでなく、聴覚でも引き込まれるのがこの舞台が面白いと感じる理由だろう。音楽を手掛ける原口沙輔は20歳。プロとして活躍し、ヒット作を打ち出している彼が作成したオープニングは、物語の中に引きずり込まれるような強烈なインパクトを放った。不思議なサウンドとともに入り交じるダンスもどこか奇妙だが、違和感なく脳裏に焼き付いていく。同年代のプロフェッショナルたちが魅せる景色は驚きの連続だった。
席についた瞬間から拍手が鳴り止むまで目が離せない。そんな経験はきっと貴重だろう。「演出家」としての「顔」をまざまざと見せつけられたようだ。本業なのだから当然だが。面白かったです、と伝えたとき、目の前にいたのは紛れもなく「先生」だった。もしかしてこういうことが言いたいのか? おそらく違う。でも私だって「学生」で「観客」だ。ぐるぐる思考を巡らせてはじめて「演出家」の術中にはまっていたと気づくのだった。

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