川島ゼミ 観劇レポート(2023年12月期)

劇団時間制作 10周年記念公演『トータルペイン』
10月28日(土)18:00/赤坂RED/THEATER
凛桜
私が今回観劇した作品は、劇団時間制作の「トータルペイン」である。この公演は劇団の10周年記念として上演されたもので、劇団にとって10年ぶりのファンタジー作品と明言されている。上演時間は約1時間35分と、私が普段観劇するものよりも短いため、どのような展開と結末が待ち受けているのか、期待を膨らませながら観劇に臨んだ。
この作品はある一家を描いたものであり、父親ががんで余命幾許かとなり、終末期医療として「死ぬまでにやりたいことカード」を五枚選び優先順位を決めていくところから始まる。息子であるハルトは自身が終末期医療の研修医をしていることもあり、父の意思を尊重したいと言うが、姉は父に対して少しでも可能性があるのなら延命治療を受けて欲しい、と姉弟の思いは対立している。その後、劇中から7年前に事故で亡くなった母が現れたことで物語は混沌としていく。
この作品を通して私は、「生と死との向き合い方」、「人が生きるということ死ぬということ」を深く考えさせられた。この二つは、言い方を変えただけで同じではないかと捉えられるだろうが、似て非なるものだと考えた。
この作品での「生と死との向き合い方」とは、実際に生きている中で余命宣告をされ自身が死と直面し、自分自身がどうしていきたいかを考え続ける、ということだ。作品の冒頭で、父親は「死ぬまでにやりたいことカード」を選んで優先順序をつけていたが、実際死ぬ瞬間までは「あれもやりたかった、これもやりたかった」という思いは心のどこかに残るはずだ。
また作品における「人が生きるということ死ぬということ」とは、人は不慮の事故で、病気で、ある日突然亡くなるということだ。作中でハルトの姉は実母が急に現れたとき、「前を向くしかなかった」、「ずっと当たり前にあるものだと思ってた」というような言葉を投げかけるシーンがある。それは、実母が突然事故に遭って亡くなるということが想定されていなかった、そうした可能性を他人事のように捉えていたことを感じさせた。そして、彼女が実母の死の間際「お母さんのことは忘れなさい」という言葉から忘れようとした、と叫ぶシーンを見て、改めて「人が生きるということ死ぬということ」について、誰かの記憶にある限り人は生きているが、誰の記憶にも残らなくなった時、本当の死となるのだと感じた。
最後に、「トータルペイン」という実在するがん治療における考え方を作品タイトルとすることで、生と死についてだけではなく、それは身近に存在するものであるということをこの作品は明確に伝えていると考えた。

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