川島ゼミ 観劇レポート(2023年11月期)

ミュージカル『のだめカンタービレ』
10月29日(日)13:00/日比谷シアタークリエ
直江
原作漫画、ドラマ共に数々の賞を受賞し、2006年のドラマ放送後には日本中にクラッシックブームを巻き起こした『のだめカンタービレ』が2023年10月、舞台化された。ピアノの才能はある一方で生活態度がだらしなく、時折奇声を発するなど周りから“変態”と呼ばれる野田恵ことのだめ、そして帰国子女で容姿端麗のエリート、千秋真一の二人の音大生を中心にクラシック音楽をテーマにした作品である。舞台化が発表され、2006年のドラマ版にて主人公、野田恵(以下:のだめ)役を演じた上野樹里や、竹中直人など作品にゆかりのある俳優も出演し、大きな話題となった。幼少期、母がDVDを借りて来たのをきっかけに再放送がある度に何度も繰り返し観ていた私は今作に深い思い入れがあった。今回はドラマと舞台の演出の比較や舞台ならではのこだわりを中心に書いていこうと思う。
舞台の話の構成はドラマとほぼ変わらず、エリート音大生、千秋真一がピアノ科に在籍しているものの昔お世話になった世界的指揮者に憧れ、指揮者の夢を諦めきれず転科に悩んでいた時、アパートの隣に住む同じ音大生ののだめにひょんなことから出会い、音楽を通してお互いを高め合っていく展開が描かれている。ドラマ11話分を約2時間50分に詰め込まれており、話の展開がとても早い印象を受けた。また、ミュージカルだからなのかこれでもかと思うほど歌唱シーンが多かった。正直、原作のセリフ自体が面白く、そのセリフを音に合わせて歌ってしまった為にコミカルでは無くなってしまった所も数か所あり、ここまで歌う必要があったのだろうかという疑問も少し残る演出であった。本作は千秋から見た視点で動いていくため、漫画、ドラマ通して千秋の心理描写が常に描かれているのに比べ、同じ主人公の立場でものだめには心理描写が無いのが特徴である。舞台版では、細やかな千秋の心理描写をミュージカルらしく音楽にのせて表現しているのが印象的であった。
舞台のセットに関しては驚く事ばかりだった。一つはオーケストラを後ろに仕込んでいたことである。舞台は真ん中に360度回転する場所があるが、オーケストラのシーンでは二階部分にキャストの他に実際に裏で音を出している本物の演奏者が座っており、セリフは無いものの、練習や本番の演奏シーンにはキャスト達と一緒に舞台上で参加していた。また、360度回転する所にはピアノを置いているシーンが多く、色々な角度からキャストの演奏姿を観る事ができ、配置も含めて美しかった。
本作は音楽がテーマの作品であり、様々なクラシック音楽が登場したが、尺の問題もあるのか、音楽の尺が短いのは残念だった。ドラマ11話分となるとやりたい展開が沢山で音楽一曲一曲に時間をかけていられないというのが本音ではあるだろうが、ドラマでBGMを含めて様々なクラシック音楽を聞き、クラシック音楽が好きになった者からすると物足りない気がした。しかしながら、のだめがコンクールの最終戦で弾いたバレエ作品『ペトルーシュカ』にはペトルーシュカ、バレエダンサー、荒くれ者のムーア人役として千秋役の三浦宏規をはじめメインキャスト3人が出ていた。なかでも三浦宏規は小さい頃からバレエをやっていた事もあり、ターンやステップなど細やかな動きが素晴らしかった。『ペトルーシュカ』をのだめが演奏している際、ダンサー三人によってのだめの感情や『ペトルーシュカ』がどのような話の内容なのかダンスや歌を通して表現され、できればすべての楽曲でこのような説明の表現をもう少し丁寧に描いてほしいと感じる部分があった。
全体的な評価としては、原作漫画やドラマを一度も観た事が無い人にとっては話についていくのが大変だったように感じた。2010年に公開された映画以来ののだめ役で当時と全く変わらず見事に演じ切っていた上野樹里やさらに迫力がパワーアップし、観客に笑いと一体感を引き出したシュトレーゼマン役の竹中直人、数多の歌唱シーンを難なくこなし、ドラマ・映画版の玉木宏に引けを取る事なく大役を担った三浦宏規など俳優たちや陰で支えた演奏者たちは素晴らしかったが、脚本構成をドラマの前半部分のみに抑えたり、登場人物たちの出会いや個性をもう少し丁寧に描いたりするなど工夫をした方が初見の人にも分かりやすかったのではないかと多々感じた。
色々評価を書き連ねてしまったが作品の一ファンとして、再び上野樹里演じるのだめを観る事ができ、とても嬉しかった。ドラマを知っているからこそ比べてしまう事も多かったが、舞台化される事で千秋が指揮するオーケストラの音楽を体感でき、夢のような時間だった。

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