川島ゼミ 観劇レポート(2023年11月期)

ミュージカル『のだめカンタービレ』
10月29日(日)13:00/シアタークリエ
朝陽
今回観劇した作品は、『のだめカンタービレ』である。本作は、コミックからドラマ・アニメ・映画化とメデイアミックスを展開し、この度初のミュージカル作品を迎えた。落ちこぼれながら天才的なピアノの才能をもつ音大生「のだめ」と同じ大学に通うエリート音大生で指揮者を目指す「千秋真一」。千秋はのだめの天賦の才を感じ取り、のだめは千秋の外見と音楽の才能に憧れ、彼にまとわりつくようになる。千秋は過去のトラウマから将来に行き詰まりを感じていたが、のだめや音大の変人たちと出会い、運命を変える指導者と共に音楽の楽しさを思い出しながら、指揮者の道を切り開いていく物語である。ここでは、場面転換のセットとキャストの配役の2つの点に着目していきたい。
はじめに、本作を鑑賞して感じたのは舞台転換の多さである。筆者はすでにドラマを鑑賞したことがあり、この作品には重要となる様々なポイントシーンがあることを把握していたが、舞台化では短い時間に内容を収めなければならない。本作では場面転換するために、ステージを主に3つの方法で利用していた。全体を使用するものとステージの一部が360度回転になっているもの、ワンシーンにおいて全体ステージを使用し、半ばで壁を立て分ける方法だ。そのうち、360度回転するステージでは、のだめの部屋やレッスン室などが用いられ、360度の円を二分割し、スムーズに場面が転換できるようになっている。有効活用されていたのは、千秋がのだめを探し歩いているところだった。全体のステージで探し歩く場面を作ると、上手から下手に、前方から後方へ探し歩くことしかできない。そのため、人物同士がすれ違うことや簡単に見つけられるのに知らない素振りをしている演技になってしまう。しかし、360度回転部分を歩くことによって、一歩進むたびに回転して前へ進めず、のだめの元に行くことができないもどかしい感情が視覚的に上手く表現されていた。
また、カーテンコールでキャスト全員が登場したとき、出演していた人数の少なさに驚きを感じた。キャストの動きをしっかり振り返ってみると、複数の役を演じていることに気が付いた。終演後の挨拶時に、峰龍太郎演じる有澤樟太郎が「ペトルーシュカ 3楽章」のムーア人も演じたと言っていたが、他のキャストも一人一役ではなく、劇中劇の「プリリンとゴロタの冒険」のプリリンやゴロタの演者は、冒頭ののだめや千秋の子ども時代を演じ、さらに、三木清良役の仙名彩世は「ペトルーシュカ」のバレリーナと、シュトレーゼマンが千秋を連れて行ったお店で歌を披露していた。キャスト表にも全ての役名が書かれていないため、確証は得られないが、千秋演じる三浦宏規は、一度しか出てこないビエラ先生役や「ペトルーシュカ」のバレエを踊っていたのではないかと思う。主演が他の役を演じる作品は珍しく、大変興味深い演出であった。
そう考えると、舞台裏では、一つの役が演じ終わると新たな役になるための衣装に着替える慌ただしさが想像できる。また、一役の台詞やミュージカルの歌を覚え、さらに別の役のバレエの振付や移動の流れをこなす役者に尊敬した。セットの切り替えも多く、役者自らが捌ける流れでセットを用意しているのか、または、セットを配置するスタッフが行っているのかは分からないが、場面転換が複雑であると、セットミスのリスクが高まるのは当然だ。それぞれの役割が重要で緊張感を持って挑んでいると本作を観劇して、改めて感じた。

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