川島ゼミ 観劇レポート(2023年11月期)

『MAMORU MIYANOLIVE TOUR 2023 ~SINGING!~』
10月22日(日)16:00/国立代々木競技場 第一体育館
白ぶどう
「宮野真守のライブが帰ってきた」。9月16日、SNSを開いた私の目に飛び込んだのは、ツアー初日となる大阪公演を終えた直後の興奮冷めやらぬファンたちの投稿だった。あの日から約1ヶ月。ツアーファイナルを迎えた東京公演で、私はその言葉に頷くのであった。
遡ること4年。2019年に開催されたライブツアーで発表されたのは、宮野真守史上初となるドーム公演の告知だった。会場の盛り上がりは最高潮に達し、誰もが輝く未来を描いたのは言うまでもない。だが、その輝きは突然奪い取られた。光を取り戻すための対応は迅速だった。YouTubeコンテンツの開設やオンラインライブ配信に勤しんだ2020年、制限付きの有観客ライブを開催した2021年、制限は残りながらも日本各地を回った2022年。元に戻れそうだと希望が見える一方で、声援を届けられないもどかしさを抱えていた。そして2023年、ついに声出しが解禁となった『SINGING!』が開催される運びとなったのだ。
今回のライブは、タイトルからもわかる通り「声援可能」を前面に押し出した構成だったのが印象的だ。ダブルアンコールも含めた全23曲(メドレー内の楽曲は一曲ずつ数えるとする)のうち12曲に、コール&レスポンスや合いの手などで観客が声を出す場面が存在した。4年前のライブツアーのセットリストと比較すると6曲と少なく、いかに観客が声を出せる楽曲を集めたかがわかる。中でも私の記憶に焼き付いているのが『FANTASISTA2023』と『愛の詩~Ulyssesの宴~』の2曲だ。ファンの盛り上がりは必然ともいえるこの楽曲たちは、どちらもライブでは久々の披露だった。私はこの2曲を通してパフォーマンスに新たな広がりを見せたと確信した。『FANTASISTA2023』は、今ツアーのためにリアレンジされた楽曲となっている。私が着目したのは、間奏でダンサーと並んで踊る場面だ。曲のリズムに合わせて首のアイソレーションをするシンプルなダンスなのだが、数日経過した今でも頭から離れない。この現象にはさまざまな事由が挙げられると思うが、「シンプルな動きでも映えるようになった」という結論に落ち着いた。できることが増えていくたびに目新しさと驚きを届け続けてきた15年。この曲で新たに発見したのは、観衆を魅了する表現力が増強されているということだった。年々ダンスのみで魅せる時間が多くなっていることからも簡明な答えではあるのだが。
一方で『愛の詩~Ulyssesの宴~』は、宮野真守の楽曲の中でも異彩を放つ楽曲だ。椅子を使ったダンスは特に好評を博しており、無論私もその意見に賛同している。しかし、今回私が目を奪われたのは曲中で「♪Life’s show time!!Dance tonight!!Life’s show time!!Wow wow wow…」と歌い上げる箇所だ。生でこの曲を聴いたのは初めてだったのだが、会場中に響き渡る歌声に身震いした。定評のある歌唱力は音源でも遺憾なく発揮されていて、ライブ内で披露された他の楽曲でも同様である。だが、この楽曲ではそれをより強く実感できた。元々持ち合わせている実力に加えて、出演する機会が増えているミュージカルで吸収した歌い方を音楽活動にも還元しているのが明白だ。安定さをさらに強固にして自分のものにしていることを体感できるのは、宮野真守のライブでしか得られない感覚だ。
おそらく世間にはこうした一流アーティストとしての側面よりも、コメディアンらしい側面が強く認知されているだろう。知人や友人に話を聞く限り予想は大方間違っていないと感じる。そんな人に宮野真守を勧めたいときに私がつかみのタネとして話題に出すのが、幕間映像である。ファンからは「コント」と呼ばれ、目玉ともなっている今回の幕間映像は『ノンフィクショニング』と題された紛れもないコントだった。15周年を記念した楽曲が完成するまでの現場を模した今作品は、某ドキュメンタリー番組のオマージュなのもあり自然体に見せている序盤から徐々に芝居がかっていくのが新感覚で、過去の幕間映像とは一線を画した映像作品に仕上がっていた。映像終盤に披露された15周年記念楽曲『ICHIGO~甘くてChu♡ぱいぜ~』の全容は会場中に衝撃を与えた。苺の被り物を被った宮野真守が登場し、映像の伏線回収をしながら15周年を祝う歌詞と奇天烈な動きとともに映像が終了したかと思いきや、生歌をフルサイズ披露かつ全員でサビの部分を一緒に踊るという前代未聞の試みが待ち受けていた。怒涛の展開に驚きと笑い、若干の混乱が絶えないまま先ほど紹介した『愛の詩~Ulyssesの宴~』に繋がっていく。過去に類を見ない温度差だ。予想が意味を成さない展開は毎度のことだが、常に新鮮さを損なわない内容を考え続ける姿勢に感服した。
ここまで客観的な視点に努めてきたが、最後に私の思いをここで吐露させてほしい。2022年に発売されたアルバムに『TEAM』という楽曲がある。同年に開催されたライブのために制作されたもので、ファンやチームメンバーへの思いが綴られた歌詞に初めて聴いた瞬間から感動が止まらなかった。歌詞にある「♪All-time best teamI’m here for youAll-time best teamIjust wanna thank you for being my best team」は観客も一緒に歌えるパートなのだが、当時は制限があって声を出すことはできなかった。『SINGING!』のMCではこの4年間の苦悩をファンと分かち合い、今回はみんなと一緒に歌えると喜ぶ姿に「宮野真守のライブが帰ってきた」と実感した。ファンの声援を全身に浴びてステージに立っているときこそが、宮野真守が一番眩しく見える瞬間だと私は思う。決して替えの効かない居場所にかつての輝きが取り戻された心地がして、嬉しさと安堵が込み上げる。その光景をひたすら眺めては感情が動く時間が、私にとって至極のひとときなのだ。だが、こうして余韻に浸っている間も宮野真守は前を見据えて進み続ける。15周年に即した企画も、もっと先にあるまだ見ぬ景色も見逃さないよう、宮野真守が魅せるエンターテインメントを追い続けたい。
#宮野真守SINGING#宮野真守ライブ東京DAY2

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