川島ゼミ 観劇レポート(2023年11月期)

MANKAI STAGE 『A3!』ACT2 〜SUMMER 2023〜
8月13日(日)18:00/立川ステージガーデン
蒼空
今回観劇した作品は、スマートフォン向けアプリゲーム『A3!』を原作とする2.5次元ミュージカル「MANKAI STAGE 『A3!』ACT2 〜SUMMER 2023〜」である。『A3!』はプレイヤーが潰れかけの劇団の総監督となり、役者を育成して劇団の再建のため公演を重ねていくストーリーだ。舞台上では役者が原作キャラクターに扮して日常や稽古の姿を見せると同時に、公演の場面では役者が原作キャラクターを纏ったまま作中公演の役を演じる劇中劇の構成をとっており、役者・原作キャラクター・劇中劇の役と多角的に楽しめる。今作は劇団に所属する4組の中で最も若手が多く賑やかな夏組の第5、6回公演の物語を二幕構成で見せる。コメディを得意とし、息のあったアドリブが魅力なこの組は、日常から賑やかで騒がしく、それでいて皆それぞれトラウマやコンプレックスを抱えている。それらを全員で支え、克服していく季節が夏組の夏だ。
まずオープニングから度肝を抜かれた。客席が暗くなり、今年はどんな夏になるだろうと舞台上を眺めていたが、なんと夏組6人全員が一階席後方から登場したのである。コロナ禍後、カーテンコールでの客席降りはあったが、まさか冒頭から客席に来るとは思わず驚いた。「海だー!!」と叫びながら舞台上に作られたプールに飛び込んでいく。客席の前方3列を潰して作られたプールは足首程の深さだったが、彼らがオープニング楽曲を歌いながらバシャバシャと容赦なく水を蹴るため舞台上から客席(最前列にはレインコートが配られていた)までびしょ濡れだ。台風のように周りを巻き込み、はちゃめちゃでありながら高揚感と期待を膨らませてくれる。笑って泣ける夏が来た。
第一幕は第5回公演『SHI★NO★BI珍道中』という、忍者を題材にした公演を行うまでの物語だ。今回主演を務めることになったのは美大生の三好一成。公演の配役が決まり、さあ頑張ろうというタイミングで一成に大学から海外留学推薦の声がかかり、役者と画家、将来と今この時、どちらを選ぶのか迫られていく。どちらも大切で大好きだからこその葛藤があり、「将来」というものが近づいてくる焦燥感が見えた。焦り迷う彼だったが夏組の面々からの息抜きや激励を受けて留学を辞退して舞台に立つことを決める。そうして幕が開いた第5回公演は、一成と準主演の斑鳩三角との意気のあったおとぼけ忍者アクションコメディだ。伊賀、甲賀の対立する忍者2人がゆるく、時にピンチを乗り越えながら任務をこなしていく。戦国時代を舞台にしながらも気の抜けた会話をする忍者2人に和んだかと思えば、アクロバットや殺陣で鮮やかに忍術を魅せる。緩急の付け方が見事だ。一成と三角の演じるキイチとヨシマルの忍術対決は日替わりとなっており、またその他にもどこまでが台本なのかわからなくなるほどアドリブが詰め込まれ、劇中劇前にあったネタや、日によってはハプニングまでも笑いに変えていた。観客を笑わせ、仲間同士でも笑い合うこの組の絆が真夏の太陽のように眩しい。
第二幕は第6回公演『花の王子さま』という、メルヘンでファンタジーなモチーフの劇中劇が演じられた。主演は少女漫画の王子様に憧れる高校生の向坂椋。彼は劇団に入団する際も「王子様になりたい」と語っており、中学時代はそんな漫画のキャラクターに憧れて陸上部のキャプテンをしていた。日頃からみんなに優しく常に周りを支える椋の夢が叶うということで、準主演で椋の従兄弟の兵頭九門を筆頭に劇団員全員で支えていく。しかし椋は、憧れに近づくプレッシャーから自分を追い込み、また陸上部時代のトラウマから怪我を隠してしまう。努力を重ねた分、失敗やハプニングが怖くなり自信が持てない椋に九門は「椋は昔から王子様だ」と告げる。劇団所属前、幼い頃からの付き合いだからこその言葉に胸が熱くなった。そうして開幕した第6回公演は、個性豊かな王子たちが異国の姫の呪いを解き結婚しようと奮闘する物語だ。こちらはアクションではなく、呪いを解くカギを探す冒険の物語である。劇中劇内でも主演の椋を九門が支えていることが印象的だった。兵頭九門というキャラクターは昨年上演された第4回公演回から登場したいわゆる追加キャラクターで、当時は夏組のアドリブが飛び交うコメディに入っていくことが精一杯といった印象だった。しかし今年の第5回公演ではボケまくり、第6回公演では6人中2人の貴重なツッコミを担いつつ、従者ブロトとして、椋演じる花の国の王子フローレンスを支えており余裕がうかがえた。こうしてキャラクターの成長と共に役者間の絆や息のあっていく過程が見える点は2.5次元作品の持つ大きな魅力である。
今作は水を使った今までにない演出を取り入れ、新しさを見せつつ、『エーステ』シリーズ初演時からある夏組の「誰かの悩みや葛藤を全員で受け止め、舞台に立ってみんなで克服する」という軸の部分を変わらずに見せた。学生が多く将来や未来という言葉に戸惑いながらも全力で今を生きる彼らの姿は、夏の夜に咲く大輪の花火のように賑やかでありながらどこか儚さや切なさを秘めている。また彼らと共に笑って泣ける次の季節を楽しみにしたい。

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