科目名 | 人文学演習IIB | |
担当者 | 井上 優 | |
開講期 | 2024年度秋学期 | |
科目区分 | 週間授業 | |
履修開始年次 | 4年 | |
単位数 | 1単位 | |
授業の方法 | 演習 | |
授業題目 | 「偶発事(アクシデント)」と文学—〈病・死・性〉をめぐる近代の文学的事象(2)― | |
授業の達成目標 | 春学期のⅡA、秋学期のⅡBを連続させ通年テーマとして、近代小説は〈病・死・性〉に関してどのような表現を行っているのか、そこにはいかなる問題が存在するのかを考えていく。 また4年間の学習の総仕上げとしての卒業論文の完成を見据え、その執筆に必要な指導をともにおこなっていく。 具体的な授業の到達目標は以下の通り。 (1)日本近代文学の研究に必要なアカデミック・スキルが理解されており、それを柔軟に運用できる。 (2)〈病・死・性〉をめぐる近代の文学テクストおよび言説の特質や問題を指摘し、分析できる。 (3)テクストを解読していく上で必要な様々な文化的・社会的資料の調査ができる。 (4)文学テクストが発表された当時のコンテクストを復元することで、個々のテクストを単独に読んだだけでは見えてこない問題を明らかにし、テクストの新たな読み変えが行える。 (5)文学と諸言説との作用関係を明晰かつ論理的に説明することができる。 (6)〈病・死・性〉をめぐる現代の複雑な状況についてもその問題点を明らかにし、論ずることができる。 (7)〈病・死・性〉をめぐる近代小説や同時代言説に関する問題を考えていくための研究方法や文学理論をはじめ、必要な理論を理解し、それについて解説ができるともに、それらを効果的に使いながら研究を実践できる。 (8)演習を通して学んだスキルを応用して、各自の卒業論文をまとめることができる。論文作成などの学術活動に際して必要な研究倫理を身につける。 |
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今年度の授業内容 | 私たちは顕在的に、そして潜在的に、常に「偶発事(アクシデント)」にさらされている。現在の新型コロナウイルスによるパンデミックをはじめ、気候変動による気象災害や大規模地震、原発事故、紛争など。 しかしそのような大規模なもののみならず、私たちは各自の人生において、突然の病や事故、怪我、身近な愛する者の死、想定外の自らの余命宣告、恋愛・結婚・育児におけるセクシュアリティやジェンダーの問題、老いなど、予期せぬ、そしてそれまでの自己同一性を根底から揺るがすようなアクシデントに襲われ、それに向き合わざるを得ない。 カトリーヌ・マラブーはその著書『偶発事の存在論』の中で、これまでとの連続性を維持しつつ自らを形成し直していく肯定的な「構築的可塑性」に対し、「アルツハイマー病者」、「ある種の脳損傷患者や、戦争で外傷的経験を負った人や、自然や政治がもたらした破局的な出来事の犠牲者たち」などのように、ある日突然それまでとはまったくの別人とならねばならぬような「破壊による可塑的な造形」を、「破壊的可塑性」と呼んで考察を行っている。私たちは人生において、その〈病・死・性〉がもたらす、破壊、損傷、断絶を余儀なくされる偶発事と無縁ではない以上、マラブーがいう「破壊的可塑性」についてあらかじめ考えておくことには意義がある。 〈病・死・性〉に関わることは、私たちの文化において禁忌(タブー)の対象ともなっているが、その理由は、それらが私たちの作り上げた秩序を侵犯し混乱をもたらすものと見なされるからだろう。文学テクストの多くは、そうした〈病・死・性〉を描き出しているが、それはプロットの転換に寄与するということのみではないはずだ。ならばそうしたテクストは、それらをどのように問題化し、どのような表現で描き出しているのか。この演習の授業ではこのことをテーマに据えて、明治・大正・昭和期のいくつかの小説テクストを履修者全員による研究発表と討論をとおして読み解き、考えていきたい。 〈病・死・性〉をめぐる言説の近代的な特質や問題を明らかにできるような、文学ならびに文学以外の領域の資料の調査ならびにその分析方法を身につけ、文学と諸言説との作用関係を明晰かつ論理的に考察し論じられる能力を養っていきたい。 作品が発表された当時のコンテクストを復元することで、個々の作品を現代において単独に読んだだけでは見えてこないさまざまな問題を浮上させて、作品の新たな読み変えを行える力を身につけるとともに、過去の近代小説に限定せず、〈病・死・性〉をめぐる現代の複雑な問題の状況に対しても考察できるように視野を広げていきたい。 そしてそうした実践を通じて身につけた研究スキルを用いて、卒業論文の執筆とその完成へとつなげていく。 秋学期のⅡBでは、卒論の執筆に向けて各自の卒論テーマに関する研究発表を行ってもらうとともに、春学期のⅡAから連続している〈病・死・性〉と近代文学の問題を継続的に考えていく。 なお下記「授業スケジュール」欄に記されている計画はあくまでも目安であり、受講生の人数や学習の進展の状況によっては、内容の調整や順序の変更等もあり得る。 |
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準備学修予習・復習等の具体的な内容及びそれに必要な時間について | 半期1単位の演習科目は合計15時間の学習が定められているが、研究発表を行う必要上、それには少なくとも1ヶ月以上の準備期間が確保されなければならないので、15時間を大きく超過した自習時間が必要となる。 〈事前学習〉 各自が研究発表を担当することになっているテクストや作者について、研究史の調査を踏まえ、発表日まで継続的に発表の準備を進める。 また、自分が発表をする回以外の授業の前には、討論に活発に参加できるよう、その回に扱われるテクストをよく読み込んで、そのテクストについての自分の見解をまとめておくこと。 発表には少なくとも1か月以上の準備期間が必要となるので、自分の発表日から逆算して早めに作業に取り掛かること。 〈事後学習〉 講義回に担当教員から配布されたプリントや研究発表者が配布したレジュメをよく見直し、そこで扱われている内容に関連する参考文献等を探して読み、いっそうの理解を深める。 自分の発表後は、質疑討論において明らかになった問題点について修正補足し、学術論文にまとめる準備をする。 |
合計15時間 |
自習に関する一般的な指示事項 | 〈事前学習〉 各自が研究発表を担当することになっているテクストや作者について、研究史の調査を踏まえ、発表日まで継続的に発表の準備を進める。 また、自分が発表をする回以外の授業の前には、討論に活発に参加できるよう、その回に扱われるテクストをよく読み込んで、そのテクストについての自分の見解をまとめておくこと。 発表には少なくとも1か月以上の準備期間が必要となるので、自分の発表日から逆算して早めに作業に取り掛かること。 〈事後学習〉 講義回に担当教員から配布されたプリントや研究発表者が配布したレジュメをよく見直し、そこで扱われている内容に関連する参考文献等を探して読み、いっそうの理解を深める。 自分の発表後は、質疑討論において明らかになった問題点について修正補足し、学術論文にまとめる準備をする。 |
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第1回 | (履修者による研究発表と討論)卒業論文のテーマに関する研究発表(1) | |
第2回 | (履修者による研究発表と討論)卒業論文のテーマに関する研究発表(2) | |
第3回 | (履修者による研究発表と討論)卒業論文のテーマに関する研究発表(3) | |
第4回 | (履修者による研究発表と討論)卒業論文のテーマに関する研究発表(4) | |
第5回 | (履修者による研究発表と討論)卒業論文のテーマに関する研究発表(5) | |
第6回 | (講義)森鷗外『ヰタ・セクスアリス』(1)ー金井湛の手記執筆の動機と性をめぐる同時代言説ー |
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第7回 | (講義)森鷗外『ヰタ・セクスアリス』(2)ー回想されるエピソードと境界性ー | |
第8回 | (講義)森鷗外『ヰタ・セクスアリス』(3)ー知を欲望する者としての湛と、透明性を偽装する科学知の言説ー | |
第9回 | (講義)森鷗外『ヰタ・セクスアリス』(4)ー知の言説の領土化とそれに対する侵犯ー | |
第10回 | (講義)赤江瀑『花夜叉殺し』(1)—植物論と「匂いの庭」、庭の三つの様態について— | |
第11回 | (講義)赤江瀑『花夜叉殺し』(2)—反復される構図、執着と復讐における行為主体性(エージェンシー)— | |
第12回 | (講義)赤江瀑『花夜叉殺し』(3)—生態学的な庭、交錯するパースペクティブ— | |
第13回 | (講義)赤江瀑『花夜叉殺し』(4)—花という名と「血刀」— | |
第14回 | (講義)赤江瀑『花夜叉殺し』(5)—二つのハサミの音— | |
授業の運営方法 | 教室での対面による演習形式で行う。 上記「授業スケジュール」に挙げておいた回数配分や順序は、受講者の学習状況を考慮しつつ、柔軟に変化する可能性がある。 受講生には指示されたテクストを緻密に読み込んできてもらい、各自の解釈や考え方を発表したうえで皆で討論する時間も設ける。 授業は前回までの内容をもとに毎回積み上げるように進んでいくので、遅刻欠席をすると以降の内容が理解できなくなるから注意すること。 |
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課題試験やレポート等に対するフィードバックの方法 | 履修者が行う研究発表について、各自の発表終了時にコメントを行う。 |
評価の種類 | 割合(%) | 評価方法・評価基準 |
定期試験 | 0% | 行わない。 |
小論文・レポート | 50% | 期末論文による。 |
授業参加 | 50% | (1)研究発表の出来。(2)討論への貢献度。(3)予習復習に関する課題の出来。 |
テキスト | 以下の書籍を開講時に大学生協で購入し用意しておくこと。 赤江瀑『罪喰い』(小学館 P+D BOOKS、660円、ISBN-13 : 978-4093522779) なお、春学期のⅡAで用意してもらった『舞姫/ヰタ・セクスアリス 森鷗外全集1』(ちくま文庫、1100円、ISBN-13 : 978-4480029218))も引き続き使用する。 そのほかプリントを配布して使用する。配布されたプリントは紛失しないように保管し、毎回の授業に忘れずに持参すること。 |
参考文献 | 授業の中でその都度紹介する。 |
その他、履修生への注意事項 | 履修の前には、必ず以下の注意事項もよく読んでおいてください。 (1)演習科目であるから、モチヴェーションの高さを各自が維持していることが必要。研究発表の準備をはじめ、いい加減な態度での履修は、学習効果において他の受講生に大きな迷惑をかけるということをよく認識して、強い責任感と覚悟をもって臨んでもらいたい。発表者も発表を聞く側も毎時間かなりハードな作業の連続となる。 明らかに勉強不足と思われる発表者については、再論を求める。発表者の発表後、活発な討論を行う上で、発表内容に出席者全員の見解の提示を義務付ける。 (2)学術上の振る舞い方については厳しく鍛え上げるうえ、授業内容は文学以外の諸領域の学問にも広く話が及ぶし、高度で複雑な内容にわたるので、受講生には高い論理的思考力、様々な領域の資料を粘り強く読みこなせる読解力が要求される。 (3)発表者の入念な準備と充実した発表のみならず、それを聞く側もテクストを読み込んで自分の考えを大切に持ち寄り、積極的に発言することが必須となる。各回の授業では発言や討論が要求され、そうしたことに貢献することではじめて平常点評価の対象となるので、テクストを読み込まずに来てただ着席しているだけでも出席扱いになるという授業ではない。家庭学習においても十分な時間をかける必要がある。 よって、欠席や遅刻を繰り返さないように、また自学自習を着実に行って参加するように、授業期間中は自己管理をしっかりして臨むこと。 受講生には様々な点で大きな負荷のかかる授業であることを踏まえておいてほしい。 (4)出欠確認時および課題提出時の不正行為、指示されたテクストや資料を読んでこなかったり持参していない者、私語や居眠りなどをした者、学習活動において指示された以外のスマートフォンの使用、その他周囲の受講者の学習に悪影響をおよぼすような迷惑行為を行った者については、指導によっても学習意欲や態度の改善が認められない場合、その時点で不合格となる。 (5)成績評価においては、「成績評価の方法」の基準に従って厳格に対応するので、甘い点数は一切付けない。この程度やっておけば単位くらいはもらえるだろうというような発想は全く通用しないということを、あらかじめ肝に銘じておいてもらいたい。 期末論文を提出期限内に提出しなかった者については、成績再評価の対象者とならず、履修放棄者として不合格となる。 (6)開講後第1回目の授業で、今後の受講にあたっての大切な注意事項等を説明するので、その回を正当な理由なく遅刻欠席しないこと。 熱心で知的好奇心にあふれ、学術に誠実に向き合う学生の受講を期待する。 |
卒業認定・学位授与の方針と当該授業科目の関連 | カリキュラムマップ【文学部 人文学科】 |