科目名 | 人文学演習IA | |
担当者 | 井上 優 | |
開講期 | 2024年度春学期 | |
科目区分 | 週間授業 | |
履修開始年次 | 3年 | |
単位数 | 1単位 | |
授業の方法 | 演習 | |
授業題目 | 幻想する近代小説から/へ(1)―理論編― | |
授業の達成目標 | この演習では、明治大正期ならびに昭和の戦後の文学の中から、幻想的要素を含む小説を文学理論の初歩的な事柄にも配慮しつつ受講者各自が精緻に読み解き討論し合うことを通し、近代文学研究のための基礎的能力の確立とその応用を目指すとともに、幻想文学の特質ならびにそれを考察するための方法や理論を把握し、運用可能になることを目指す。 ⅠAとⅠB連続で、日本近代文学における幻想文学を通年テーマとするが、春学期のⅠAでは、秋学期からの実践に備えて、主に理論的な事柄を学んでいく。 授業の具体的な達成目標は以下の通り。 (1)対象とする文学テクストを論じるために必要な先行研究論文や資料の調べ方を身につけ、それに基づいて研究史、および現在の研究状況を解説できる。 (2)多様な文献や資料の操作ができる。 (3)フィクションの理論の基礎的な事柄、および種々の研究方法とその長所短所を理解し、それを踏まえて研究対象の文学テクストの性質や研究テーマに即した適切な研究方法を設定でき、理論的かつ論理的にテクストを分析することができる。 (4)研究発表の構成のしかた、レジュメの作り方を理解し、効果的なプレゼンテーションや討論ができる。 (5)日本近代文学に関する学術的文章を書くためのアカデミック・スキルを取得し、レポート・論文を執筆することができる。 (6)幻想的要素を含む文学の特質、ならびにそれを考察していくための方法や理論を理解し、テクスト解読に運用できる。 (7)日本近代文学における幻想文学の特質を説明できる。 論文作成などの学術活動に際して必要な研究倫理を身につける。 |
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今年度の授業内容 | たとえば、近代小説の出発に大きく関わったものとして、1885-86(明治18-19)年発表の坪内逍遥の『小説神髄』の名を挙げることは、今日でも行われる。近代文学史上エポック・メイキングと理解される習慣にある『小説神髄』には、周知のように、写実主義小説を小説の本流とする見方がある。日本が西欧の文学を移入しようとしていた時期、当の西欧文学ではリアリズム小説が隆盛であったがために、小説=リアリズム小説という認識が生じたといえる。その一方で、一般にそれとは対照的なものとして振り分けられる傾向にある幻想小説と呼ばれるものが存在する。 幻想小説のジャンル規定を探ろうとする試みは既に数多いが、よく知られているものの1つとして、ロジェ・カイヨワは、「幻想的小説が現れるのは、現象の合理的かつ必然的な順序についての科学的な考え方が普及し、原因と結果のつながりが厳格な決定論に支配されていることが認められるようになった後のこと」であり、それは「世界の堅固さ」を揺るがせるものであると論じている。 また、幻想テクストに現れる異常な出来事とは、書き手や読み手の禁圧された欲望の噴出という見方も可能だろう。 そこで、幻想小説を考えることは、日本近代文学のとらえ返しにつながると共に、私たち自身とフィクションの言語との、あるいは私たちが生きている近代以降の世界との接触の様態を見つめ直すことにも通じるだろう。 明治大正期ならびに昭和の戦後の文学の中から、幻想的要素を含む小説を文学理論の初歩的な事柄にも配慮しつつ受講者各自が精緻に読み解き討論し合うことを通し、近代文学研究のための基礎的能力の確立とその応用を目指すとともに、幻想文学の特質ならびにそれを考察するための方法や理論を把握し、運用可能になることを目指す。 春学期のこの授業では主に文学理論の基礎的事項の確認や、幻想文学のジャンル論を学ぶこととなる。 なお、下記「授業スケジュール」欄に記されているものの他にも、文学理論や諸テクストへの言及を随時行う。また計画はあくまでも目安であり、受講生の人数や学習の進展の状況によっては、内容の調整や順序の変更等もあり得る。 |
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準備学修予習・復習等の具体的な内容及びそれに必要な時間について | 半期1単位の演習科目は合計15時間の学習が定められているが、研究発表を行う必要上、それには少なくとも1ヶ月以上の準備期間が確保されなければならないので、15時間を大きく超過した自習時間が必要となる。 〈事前学習〉 各自が研究発表を担当することになっているテクストや作者について、研究史の調査を踏まえ、発表日まで継続的に発表の準備を進める。 発表の準備期間中は、同じ発表グループのメンバーで適宜意見の交換を行う。 また、自分が発表をする回以外の授業の前には、討論に活発に参加できるよう、その回に扱われるテクストを再度よく読み込んで、そのテクストについての自分の見解をまとめておくこと。 発表には少なくとも1か月以上の準備期間が必要となるので、自分の発表日から逆算して早めに作業に取り掛かること。 〈事後学習〉 講義回に担当教員から配布されたプリントや研究発表者が配布したレジュメをよく見直し、そこで扱われている内容に関連する参考文献等を探して読み、いっそうの理解を深める。 自分の発表後は、質疑討論において明らかになった問題点について修正補足し、期末論文にまとめる準備をする。 |
合計15時間 |
自習に関する一般的な指示事項 | 〈事前学習〉 各自が研究発表を担当することになっているテクストや作者について、研究史の調査を踏まえ、発表日まで継続的に発表の準備を進める。 発表の準備期間中は、同じ発表グループのメンバーで適宜意見の交換を行う。 また、自分が発表をする回以外の授業の前には、討論に活発に参加できるよう、その回に扱われるテクストを再度よく読み込んで、そのテクストについての自分の見解をまとめておくこと。 発表には少なくとも1か月以上の準備期間が必要となるので、自分の発表日から逆算して早めに作業に取り掛かること。 〈事後学習〉 講義回に担当教員から配布されたプリントや研究発表者が配布したレジュメをよく見直し、そこで扱われている内容に関連する参考文献等を探して読み、いっそうの理解を深める。 自分の発表後は、質疑討論において明らかになった問題点について修正補足し、期末論文にまとめる準備をする。 |
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第1回 | ガイダンスー幻想文学を考えることとはいかなることか?ー | |
第2回 | トールキン『指輪物語』と「妖精物語について」など | |
第3回 | 〈準創造〉と〈異化〉 | |
第4回 | 研究発表の準備とその手順について | |
第5回 | 差異・引用・テクスト | |
第6回 | メタファー・認知・身体 | |
第7回 | 物語論(ナラトロジー)について(1)ー基礎ー | |
第8回 | 物語論(ナラトロジー)について(2)ーケーテ・ハンブルガー『文学の論理』ー | |
第9回 | 虚構(フィクション)について(1)ージョン・サール「フィクションの論理的身分」ー | |
第10回 | 虚構(フィクション)について(2)ーデイヴィッド・ルイス『反事実的条件法』ー | |
第11回 | 虚構(フィクション)について(3)ーケンダル・ウォルトン『フィクションとは何か』ー | |
第12回 | 幻想文学の定義をめぐって(1)ーロジェ・カイヨワ「妖精物語から空想科学小説へ」ー | |
第13回 | 幻想文学の定義をめぐって(2)ーツヴェタン・トドロフ『幻想文学論序説』ー | |
第14回 | 幻想文学の定義(3)ーダルコ・スーヴィン『SFの変容』ー | |
授業の運営方法 | 教室での対面による演習形式で行う。 上記「授業スケジュール」に挙げておいた回数配分や順序は、受講者の学習状況を考慮しつつ、柔軟に変化する可能性がある。 受講生には指示されたテクストを緻密に読み込んできてもらい、各自の解釈や考え方を発表したうえで皆で討論する時間も設ける。 授業は前回までの内容をもとに毎回積み上げるように進んでいくので、遅刻欠席をすると以降の内容が理解できなくなるから注意すること。 |
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課題試験やレポート等に対するフィードバックの方法 | 履修者が行う研究発表について、各自の発表終了時にコメントを行う。 |
評価の種類 | 割合(%) | 評価方法・評価基準 |
定期試験 | 0% | 行わない。 |
小論文・レポート | 50% | 期末論文による。 |
授業参加 | 50% | (1)研究発表の出来。(2)討論への貢献度。(3)予習復習に関する課題の出来。 |
テキスト | 討論の便宜上皆が同じものを持っていた方がよいので、下記の①から⑦までの7冊の文庫本を開講時すぐに大学生協で購入して用意しておくこと。 受講生全員が秋学期のⅠBの実践編の授業で研究発表を行うが、そのための準備を春学期から行ってもらう上で必要なものが以下の①から⑦までの文庫本。 ①から⑦の文庫本に収録されている小説のうち、ⅠBの「授業スケジュール」欄第1回から14回までに記載されている発表課題テクストをすべて読んでおくこと。 春学期開講後早い時期に各自の発表分担を決め、テクストごとにグループを編成する。その際に欠席したり未読のまま出席すると、以降の授業の進行予定や、他の受講生の発表準備に大きな影響が出るので、そのようなことが絶対にないように。 受講生全員が発表を行うが、特定のテクストに希望者が集中した場合には調整を行い、第2希望に回ってもらう可能性もあるので、発表対象テクストすべてについて希望の優先順位もあわせて考えておくこと。 ①夏目漱石『夢十夜』(岩波文庫、550円、ISBN-13 : 978-4003101193) ②泉鏡花『草迷宮』(岩波文庫、594円、ISBN-13 : 978-4003102749) ③谷崎潤一郎『刺青・秘密』(新潮文庫、572円、ISBN-13 : 978-4101005034) ④佐藤春夫『女誡扇綺譚・田園の憂鬱 』(小学館P+D BOOKS、605円、ISBN-13 : 978-4093523790 ) ⑤芥川龍之介『地獄変』(集英社文庫、385円、ISBN-13 : 978-4087520118) ⑥内田百閒『冥途・旅順入城式』(岩波文庫、935円、ISBN-13 : 978-4003112717) ⑦川端康成『眠れる美女』(新潮文庫、539円、ISBN-13 : 978-4101001203) そのほかプリントを配布して使用する。配布されたプリントは紛失しないように保管し、毎回の授業に忘れずに持参すること。 |
参考文献 | 授業の中でその都度紹介する。 |
その他、履修生への注意事項 | 履修の前には、必ず以下の注意事項もよく読んでおいてください。 (1)演習科目であるから、モチヴェーションの高さを各自が維持していることが必要。研究発表の準備をはじめ、いい加減な態度での履修は、学習効果において他の受講生に大きな迷惑をかけるということをよく認識して、強い責任感と覚悟をもって臨んでもらいたい。発表者も発表を聞く側も毎時間かなりハードな作業の連続となる。 明らかに勉強不足と思われる発表者については、再論を求める。発表者の発表後、活発な討論を行う上で、発表内容に出席者全員の見解の提示を義務付ける。 (2)学術上の振る舞い方については厳しく鍛え上げるうえ、授業内容は文学以外の諸領域の学問にも広く話が及ぶし、高度で複雑な内容にわたるので、受講生には高い論理的思考力、様々な領域の資料を粘り強く読みこなせる読解力が要求される。 (3)発表者の入念な準備と充実した発表のみならず、それを聞く側もテクストを読み込んで自分の考えを大切に持ち寄り、積極的に発言することが必須となる。各回の授業では発言や討論が要求され、そうしたことに貢献することではじめて平常点評価の対象となるので、テクストを読み込まずに来てただ着席しているだけでも出席扱いになるという授業ではない。家庭学習においても十分な時間をかける必要がある。 よって、欠席や遅刻を繰り返さないように、また自学自習を着実に行って参加するように、授業期間中は自己管理をしっかりして臨むこと。 受講生には様々な点で大きな負荷のかかる授業であることを踏まえておいてほしい。 (4)出欠確認時および課題提出時の不正行為、指示されたテクストや資料を読んでこなかったり持参していない者、私語や居眠りなどをした者、学習活動において指示された以外のスマートフォンの使用、その他周囲の受講者の学習に悪影響をおよぼすような迷惑行為を行った者については、指導によっても学習意欲や態度の改善が認められない場合、その時点で不合格となる。 (5)成績評価においては、「成績評価の方法」の基準に従って厳格に対応するので、甘い点数は一切付けない。この程度やっておけば単位くらいはもらえるだろうというような発想は全く通用しないということを、あらかじめ肝に銘じておいてもらいたい。 期末論文を提出期限内に提出しなかった者については、成績再評価の対象者とならず、履修放棄者として不合格となる。 (6)開講後第1回目の授業で、今後の受講にあたっての大切な注意事項等を説明するので、その回を正当な理由なく遅刻欠席しないこと。 熱心で知的好奇心にあふれ、学術に誠実に向き合う学生の受講を期待する。 |
卒業認定・学位授与の方針と当該授業科目の関連 | カリキュラムマップ【文学部 人文学科】 |