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科目名人文学特殊講義(国際教養)D
担当者笹島 雅彦
開講期2025年度秋学期
科目区分週間授業
履修開始年次3年
単位数2単位
授業の方法講義
授業形態対面(全回対面)
オンライン実施回
全回対面
授業題目世界は変わる:ポスト冷戦構造の崩壊

授業の到達目標ロシアのウクライナ侵略と中国の台頭により、ポスト冷戦構造が崩壊した現状を認識し、国際秩序のあり方について理解を深める。
米中対立を背景に、日本と中国、朝鮮半島の近現代史と現在の問題点を理解し、説明できるようにする。
そのうえで、ルールに基づく国際秩序を再構築し、強化していくために、日本はどのような外交を進めるべきか、自分の意見を述べることができる。

今年度の授業内容国際情勢を扱う。冷戦終結(1989年)後の「ポスト冷戦構造」は、2022年2月、ロシアのウクライナ侵略開始を契機に、崩壊していき、自由主義的な国際秩序は大きく揺らいでいる。冷戦後のグローバリゼーションの流れと自由貿易システムの拡大、ルールに基づく国際秩序の形成に、大きなブレーキがかかっている。ロシアへの対応をめぐって、日米欧など「民主主義体制」の国家群対中露・北朝鮮・イランなどの「権威主義体制」の国家群の対立が深まっており、民主主義の後退が懸念されている。
 そうした中、中国の習近平指導部は3期目に入り、権力集中が進められ、1強独裁体制が強まっている。こうした専制主義体制の強化は、米国との対立を一層深め、最先端技術をめぐるグローバル・サプライ・チェーンの分断につながっている。その一方、こうした対立関係から一歩距離を置こうとする新興国や発展途上国を中心とする「グローバル・サウス」の国々の動向が注目を集めている。
 第2期トランプ政権の登場は、こうした混沌とした国際情勢に一層、拍車をかける。トランプ大統領は同盟諸国との関係に冷淡な一方、権威主義国家の指導者たちとは親和性を示している。同氏は、中国やロシアとの「取引外交」を展開する構想を示している。ポスト冷戦構造の崩壊は、第二次大戦後長く続いた「パックス・アメリカーナ」(アメリカによる平和)の時代の終焉を意味するのだろうか。




準備学修(予習・復習等)の具体的な内容及びそれに必要な時間について毎回、指定する範囲内でテキストを熟読、予習すること。新聞の国際ニュースを毎日欠かさず読み、流れをつかむこと。
また、国際ニュースの担当者は、1週間の出来事の中から重要と思われる報道内容をレジュメにまとめて紹介する準備を行う。
1回平均約190分
自習に関する一般的な指示事項新聞を毎日熟読し、国際ニュースの流れをつかむ。
授業の特徴(アクティブラーニング)リアクションペーパー/レポート/プレゼンテーション/討議(ディスカッション・ディベート)
第1回授業の概要説明と担当振り分け
授業ガイダンスを行う。国際ニュースの発表担当者を割り振る。
第2回ポスト冷戦構造の崩壊とは何か
冷戦後の世界は、ヒト・モノ・カネ・情報など多種多様なものが国境を越え、世界を行きかう。この密接に結びついた世界がグローバリゼーションの顕在化である。グローバル化の根幹にある相互連結性、相互依存性がトランプ政権の登場によって人為的に切断されそうな現実の動きを直視する。ウクライナ情勢と台湾情勢の類似性を説明し、中露疑似同盟の脆弱性を指摘する。
第3回戦後の国際秩序の構築
第二次世界大戦のさなか、米国を中心に連合国は、戦後の自由貿易体制の枠組みとして「ブレトン=ウッズ体制」の構築を目指した。国連の創設とともに、戦後のルールに基づく国際秩序の形成に寄与した動きを押さえていく。
第4回冷戦時代と「長い平和」
米ソ両超大国が対立した冷戦時代は、歴史家ジョン・ルイス・ギャディスによって、「長い平和」とも呼ばれている。それはなぜなのか。冷戦時代の米ソの外交政策、核戦略を追うことで、立体的に理解する。
第5回冷戦時代の核戦略と現代における復権
冷戦時代の核抑止論がどのように発達を遂げてきたかを概観する。冷戦終結後、対立関係を解消した米露間では核軍縮が急速に進んだ。ところが、2014年のロシアによるクリミア半島占拠以降、核軍縮の動きは止まり、逆にロシアは再び核開発に乗り出している。ウクライナ侵略を開始して以降、ロシアのプーチン大統領は核の使用をちらつかせ、核の威嚇を続けている。こうした現状にどう歯止めをかけていけばよいのか、考える。
第6回紛争後の平和構築とその挫折
冷戦後の1990年代は大国間同士の国際協調が進む一方、内戦と地域紛争、民族紛争が激化した。2000年代にはいると、同時多発テロ事件が発生し、アフガニスタンとイラクで始めた二つの戦争は政権を打倒したものの、平和構築に失敗し、泥沼化した。米国が「テロとの戦い」で消耗する一方、中国は経済的にも軍事的にも急速に台頭し、声高な海洋主権を主張し始めた。アメリカ国民の間で厭戦気分が高まり、アメリカは「世界の警察官」としての役割を務める意欲が失せていく。
第7回アメリカの介入主義の系譜
アメリカは、世界の紛争にどのようにかかってきたのだろうか。もともと、モンロー主義に基づき、孤立主義を伝統的な外交政策としてきたアメリカだが、第2次大戦以後、軍事・経済・理念のパワーを基に、国際システムを主導する超大国として世界に君臨した。冷戦時代から「パックス・アメリカーナ」(米国による平和)と呼ばれてきたが、近年では力の相対的衰退が懸念されている。オバマ大統領以降、アメリカは「世界の警察官」としての役割を降りているように見える。アメリカにおける介入主義と非介入主義の考え方の流れをつかむ。
第8回米中対立の深まり
第1期トランプ政権における2017年以降の対中経済制裁は、米中関係の悪化に拍車をかけた。この間、米国内では、超党派の有識者による対中認識が厳しさを増す時期となった。これによって、民主、共和党を問わず、対中政策は関与政策からの転換を求める方向になった。バイデン政権における国家安全保障戦略は、対中関係を戦略的競争関係と位置づけ、第1期トランプ政権からの継続性を示した。

第9回管理された戦略的競争関係
米国のバイデン政権は、トランプ前政権と同様、中国の挑戦を深刻に受け止めており、従来の「関与政策」を放棄した。軍事面の「対立関係」、経済・技術面の「競争関係」、気候変動、核不拡散、感染症対策などの「協力関係」という3層ゲームを準備しつつある。これに対し、習近平指導部は「平和共存」を旨とする大国関係の枠組み構築を目指すとしているが、具体策をまだ示していない。「管理された戦略的競争関係」を構築できるかどうかが米中関係の行方を左右するとみられた。第2期トランプ政権は中国との取引外交を目指している。連続性はあるのか。
第10回日中国交正常化以降の日中関係と対中ODA供与
田中首相訪中によって日中国交正常化がなされた。当初は「日中友好」をスローガンとする友好ムードが日本国内に広がった。大平内閣以降、4次にわたる対中円借款が供与されてきた。しかし、その後、ぎくしゃくした関係に陥る。果たして、ODA提供を柱とする対中外交は、意味があったのか、再検討する。
第11回第1次安倍政権以降の日中「戦略的互恵関係」とその復活
日本と中国、韓国の関係はいつもぎくしゃくしており、日本国内には嫌中感情、嫌韓感情が漂っている。日本の対中戦略を明確に定め、外交の機軸を提示する必要がある。日本では、尖閣諸島問題、台湾問題などから、中国に対する脅威感は高まっているが、日中関係の目指す方向性が定まっていない。こうした問題意識の下で、日米中のトライアングル外交を考えていく。


第12回第20回中国共産党大会と第3期習近平政権
習近平国家主席は「中国の夢」の実現に向けて計画的に動こうとしている。中国は米国との戦略的競争に勝利することを中心に据え、当面の対米関係安定、ロシア支援、日欧との協力、グローバルサウスの支持拡大を目指している。中国共産党の意図と能力をどう読み解いていくか。
第13回国際秩序形成を巡る競争
グローバル・サウスの取り込みは、日米欧にとって大きなテーマだ。中露もグルーバル・サウスからの支持を取り付けようと躍起になっている。国際社会における多数派を形成するためにも、新興国・開発途上国との関係強化を図り、自由主義陣営に引き寄せる工夫が必要になる。
第14回トランプ政権と日本の役割
トランプ大統領が進める取引外交がどのような結果を生み出すのか。予測可能性が低い中で、日本としては、自由主義諸国との連携を強めていく方向性が求められている。多国間協力の行方はどうなるだろうか。
授業の運営方法毎回の授業冒頭、担当学生が国際関係に関わる新聞報道を報告する。教員がそれに基づく背景説明を行い、当日の授業と関連付ける。講義内容は実証的アプローチを目指しており、学生からの積極的な質問・意見を求める。
課題試験やレポート等に対するフィードバックの方法ウエブ会議システムMicrosoft-teams上、各学生それぞれの「クラスノートブック」欄を用い、毎回の授業終了時に「リアクション・ペーパー」を投稿する。One Note機能をフル活用する。「リアクション・ペーパー」に質問は書かないこと。質問は授業時間内に直接、質問することが原則。「リアクション・ペーパー」には、授業内容のメモや、指示に基づくそれぞれの意見を書きこむこと。教員はそれに対し、赤ペンで講評、添削を行う。レポート提出の場合も同様である。
場合によっては、チームズのチャット機能や、ポータル上の「掲示板」「Q&A」「メール」機能を利用する場合もある。
評価の種類 割合(%) 評価方法・評価基準
定期試験 0% 実施しない
小論文・レポート 60% 中間、期末レポート
授業参加 40% 積極的な授業参加態度(ニュース報告と質問、意見表明、毎回の授業後コメント)
テキスト 北岡伸一、細谷雄一編「新しい地政学」(東洋経済新報社、2020年)
山内昌之、細谷雄一編「日本近現代史講義」(中公新書、2019年)900円。ISBN978-4-12-102554
参考文献 川上高司・石澤靖治編「トランプ後の世界秩序」(東洋経済新報社、2017年)のうち、笹島雅彦著「第2章日中関係【政治】」
佐橋亮著「米中対立」(中公新書、2021年)ISBN978-4-12-102650-7
細谷雄一「安保論争」(ちくま新書、2016)880円 ISBN978-4-480-06904-7 
森本敏編著「台湾有事のシナリオ」(ミネルヴァ書房、2022年)3500円。ISBN978-4-623-09305-2
木村幹「日韓歴史認識問題とは何か」(ミネルヴァ書房、2014年)2800円。ISBN978-4-623-07175-3
大沼保昭「『歴史認識』とは何か」(中公新書、2015年)840円。ISBN978-4-12-102332-2
波多野澄雄ら「決定版 日中戦争」(新潮新書、2018年)840円。ISBN978-4-10-610788-7
福永文夫「日本占領史1945-1952」(中公新書、2015年)900円。ISBN978-4-12-10296-7
スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラット「民主主義の死に方」(新潮社、2018年)2500円。ISBN978-4-10-507061-8
ラリー・ダイアモンド「侵食される民主主義」上下(勁草書房、2022年)2900円+2900円。ISBN978-4-326-35183-1

学生の問題意識に合わせ、適宜、助言する。
その他、履修生への注意事項 (成績評価)
 全14回の授業のうち、三分の二以上、つまり10回以上の出席者を成績評価対象とする。
卒業認定・学位授与の方針と当該授業科目の関連 カリキュラムマップ【文学部 人文学科】
実務経験の概要 35年間に及ぶ新聞記者生活。政治部、国際部などに所属し、北京特派員として中国の暗部を探るなど、ジャーナリズムの最前線で働いてきた。
実務経験と授業科目との関連性 政治、外交、安全保障にかかわる豊富な現場体験をもとに、理論と現実の相違点を実証的にわかりやすく分析する。単なる教科書的な理論の紹介ではなく、深く現実政治の動向を見据えながら、ダイナミックに国際事象に切り込んでいく。