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科目名人文学特殊講義(現代思想・社会)B
担当者三笠 俊哉
開講期2025年度秋学期
科目区分週間授業
履修開始年次3年
単位数2単位
授業の方法講義
授業形態対面(全回対面)
オンライン実施回
全回対面
授業題目行為の哲学-行為の哲学的分析
授業の到達目標本講義では現代の行為の哲学についての基本文献を講読することを通して,現代哲学の基本的なテーマの一つである行為論の議論の内容を検討する。また,その作業を通して,哲学や思想に関する文献の批判的読解のスキルを身につける。
今年度の授業内容人がなにか動作をともなって行うことを「行為」という。例えば次のようなことは行為の典型的なものであろう。「痒いので頭をかく」「腹が減ったので,餅を焼いて食べる」。

一方で,テーブルの上のコップが落ちて割れても,これをコップの行為とは呼ばない。では,行為と行為でないものの違いは何だろうか,それを人が行ったか否かにあるのだろうか。

次のようなケースを想像してみよう。「パソコンでレポートを作成しているときに,頭が痒くなって,キーボードを打つ手を止めて頭をかいた」。この「頭をかく」というのはこの人が行った行為といってよいだろう。では,パソコンでの作業を長時間行っっていたら,目に強い疲労感とまぶたの痙攣があった。この人の「まぶたの痙攣」は行為であろうか。おそらく,このような人間の生理的は反応から身体の動きのことを行為とは言わないのではないか。同じ人間の体の運動を伴ったことがらであるにもかかわらず,一方は行為であり,他方は行為とは言わないのはなぜだろうか。

これは行為の哲学の基本的な問題提起であるが,これが哲学的な問題とみなされるのは次のような理由による。人間の行いにおいてそれが行為であるか否かによって,人がそれにともなう帰結についての責任を追及されたりされなかったりする。例えば,車を運転しているときに,他の車に追突して相手車両の運転手に怪我を負わせてしまった場合,衝突した運転手がハンドル操作を誤って衝突した場合と,相手車両を狙ってわざと衝突した場合では,法的にもまた道義的にも事故を起こした当事者へ課せられる責任は前者のほうが強く非難されるし,前者の場合は,民事責任は問われるかもしれないが,刑事責任は問われない場合がありうる。

本講義ではこうした問題への現代の哲学者の取り組みを考察するために,20世紀の行為論についていの代表的な書であるエリザベス・アンスコムの『インテンション』の前半部を読む。
準備学修(予習・復習等)の具体的な内容及びそれに必要な時間について事前配布された講義資料,テキストの該当箇所を事前に読み,疑問点をまとめておくこと。
授業後は,理解した内容を自分なりに整理しておくこと。
1回平均約190分
自習に関する一般的な指示事項参考文献を参照し,自分の興味に関連する箇所を読んでおくこと。
授業の特徴(アクティブラーニング)リアクションペーパー
第1回ガイダンス
第2回後期ウィトゲンシュタインの行為論:アンスコムに大きな影響を与えたウィトゲンシュタインの『哲学探究』§138,§§191-211の意図と行為についての議論を概観する。
第3回『哲学探究」§§611-630における行為の分析を概観する。
第4回黒田亘の行為論:黒田亘『行為と規範』の行為論を概観する。
第5回『インテンション』§§.1-2を読む。意図的行為について。
第6回『インテンション』§§.3-4を読む。意図と言語表現について。
第7回『インテンション』§§.5-7を読む。「なぜ~したのか」という意図的行為への問いについて。
第8回『インテンション』§§.8-10を読む。意図的行為についての知識が観察によらない知識であるのかということについて。
第9回『インテンション』§§.11-13を読む。行為の心的原因について。
第10回『インテンション』§§.14-17を読む。心的原因と行為の理由について。
第11回『インテンション』§§.18-20を読む。意図と行為について。
第12回『インテンション』§§.21-23を読む。アリストテレス的行為論(目的論的行為論)の批判的検討。
第13回『インテンション』§§.23-27を読む。意図的行為をどう記述するかについて。
第14回まとめ:アンスコムの意図と行為の分析の眼目はどこにあるのか。
授業の運営方法授業は講義形式で進める。リアクションペーパーを提出してもらう。
また講義中に生じた疑問やコメントは大いに歓迎する。
課題試験やレポート等に対するフィードバックの方法中間レポートについては,講義内でコメントする。
評価の種類 割合(%) 評価方法・評価基準
小論文・レポート 100% 中間・期末の2回のレポート
テキスト エリザベス・アンスコム,(柏端達也 訳),『インテンション 行為と自由の哲学』,岩波書店,2022年.
参考文献 柏端達也,『行為と出来事の存在論』,勁草書房,1997年.
黒田亘,『行為と規範』,勁草書房,1992年.
古田徹也,『それは私がしたことなのか』,新曜社,2014年.
ウィトゲンシュタイン, L.(鬼界彰夫 訳), 『哲学探究』,講談社, 2020年.  
その他、履修生への注意事項 授業資料の配付などにTeamsを使用する。
Teamsの参加コードは初回授業で伝える。
卒業認定・学位授与の方針と当該授業科目の関連 カリキュラムマップ【文学部 人文学科】