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科目名人文学特殊講義(西洋史)B
担当者香坂 直樹
開講期2025年度秋学期
科目区分週間授業
履修開始年次3年
単位数2単位
授業の方法講義
授業形態対面(全回対面)
オンライン実施回
全回対面
授業題目「中欧」/「東欧」地域の近現代史(19~20世紀史)とその影響。
授業の到達目標2022年2月に始まり3年後の現在も続くロシアによるウクライナ侵攻、あるいは2010年代半ば以降に顕在化したいわゆる「移民」・「難民」への対処などといった様々な課題は、中央ヨーロッパ(中欧)地域が、東のロシアと西のドイツないし西欧諸国との狭間に存在する地域であること、さらに南ではバルカン半島に接続しているという地域であることの地政学的な意味を改めて浮き上がらせた。

では、この中欧地域は近代や現代を通じてどのような歴史的な出来事を体験した地域なのだろうか? また、なぜこの地域が一時期は「東欧」とも呼ばれていたのだろうか? 中欧/東欧が辿った過去の体験は現在の中欧諸国の社会や政治にどのような刻印を残しているのだろうか? そして、中欧地域の体験は近現代という時代が全般的に示す特徴とどう関係しているのだろうか? 

以上に示した問題関心に基づき、近現代の中欧地域の歴史と現在への影響について他者に説明できるだけの知識を得ることがこの授業の目標である。
今年度の授業内容◆授業へのイントロダクションとして「中欧」地域の位置と現在の政治や社会の状況・課題を確認する。(第1回)
◆次に時代順に中欧地域の歴史を確認する。まずは20世紀初頭までオーストリア帝国(ハプスブルク君主国)などの諸帝国に統治されていた「中欧」地域の状況を把握する。その際、現地で見られた多文化・多言語の状況、そして19世紀に登場してきた「ナショナリズム」理論が中欧地域に及ぼした影響を確認する。(第2~4回)
◆その後、現代(20世紀初め~21世紀前半)にかけての「中欧」の経験を扱う。ナショナリズムの結果、20世紀初めに中欧は国民国家群が分立する地域へと再編され、次いでナチ・ドイツの進出や米ソ間での東西冷戦などのように、ドイツやソ連などといった隣接する大国の影響を強く受ける地域となった。この状況が中欧地域に及ぼした結果を考察する。(第5~10回)
◆最後に、以上で扱った歴史的な経緯を念頭に置きつつ、住民と政府との関係、人の移動、ならびに過去の記憶などのテーマを通じて「中欧」地域の近現代の体験を考察する。それを踏まえ、中欧の体験から近現代という時代そのものの特徴を考える。(第11~14回)
準備学修(予習・復習等)の具体的な内容及びそれに必要な時間について◆授業前日までに授業資料を学修ポータルサイトに掲出するので、受講者は各自で授業資料をダウンロードしたうえで資料に目を通し、授業内容に関する疑問点などをあらかじめ整理しておくこと。また、授業資料で扱われている事例・事件について調べ、一般的な知識を身につけておくこと。(予習60分)
◆授業の受講後に授業資料および講義ノートを再読して出来事の流れなどを整理すること。また、授業内で登場したが意味が判らない用語や概念などを調べ理解すること。(復習60分)
1回平均約190分
自習に関する一般的な指示事項◆授業時間内で登場した用語(様々な制度や理念・概念、事件の名称など)で意味が分からない用語があれば、そのままにせず各自で調べること。あるいは、授業前後での教員への質問や、ポータルサイトの「授業Q&A」機能を通じての質問も歓迎する。
◆毎回の授業資料を通じてその回の授業内容に関連した基本的な文献を紹介する。授業の復習あるいは課題作成に向けた準備として各自で目を通すこと。
◆また、日々のニュース、特にヨーロッパに関するニュースや新聞・雑誌記事などに注意を払い、情報を集めること。重要な事件や出来事に関する報道は授業内でも適宜紹介したい。
授業の特徴(アクティブラーニング)リアクションペーパー
第1回第1回:「中欧×現状」
授業へのイントロダクションとして、21世紀前半現在の中欧地域が直面する課題(ロシアによるウクライナ侵攻、いわゆる「移民」・「難民」の流入への対応、EU組織との関係など)を紹介する。また、それらの課題の一因として想定しうる中欧地域の地理的な条件を確認する。
第2回第2回:「中欧×帝国」
中欧地域は20世紀初めまで諸帝国(オーストリア帝国・ロシア帝国など)に統治され、多様な人間集団が生活していた空間である。この帝国の統治がどのような過程を経て中欧に成立し、20世紀初めまで続いてきたのかをオーストリア帝国(オーストリア=ハンガリー二重帝国)を例に理解する。
第3回第3回:「ナショナリズム×近代世界」
第3回授業では中欧をいったん離れ、近現代の世界に大きな影響を及ぼし続けている「ナショナリズム」(国民主義/民族主義)の理念を扱う。授業前半でナショナリズムの基礎的な考え方を把握し、後半ではナショナリズム理念に基づく政治・社会運動が19世紀以降の世界で拡散する過程を概括的に理解する。
第4回第4回:「中欧×ナショナリズム」
前回授業で得た知識を基礎に置きつつ、19世紀以降の中欧地域ないしオーストリア帝国の領内にナショナリズム運動が拡散する過程を理解する。チェコ人やスロヴァキア人など現在の中欧で自らの国を持つネイションがどのようにネイションという集団的な意識を築き、一方で彼らの運動が多様な集団が暮らす帝国の政治にどのような影響を及ぼしたのか確認する。
第5回第5回:「中欧×第一次世界大戦」
20世紀初めに発生した第一次世界大戦を経て、中欧からロシア、バルカン半島にかけての国境線は大きく変動した。この国境線の変化つまり諸帝国の崩壊とその跡地における国民国家群の成立はなぜ実現したのか? 国境線変化の背景にある政治思想の変化と政治運動の目標、そしてそれらがこの地域に及ぼした影響を考察する。
第6回第6回:「中欧×国民国家」
第一次世界大戦(WWI)の後に中欧に成立した国民国家群はその建国にあたりどのような課題に直面したのだろうか? また、国家の存続のためにWWI後の国際情勢の中で、英仏あるいはドイツやロシア(ソ連)などの近隣の大国とどのような関係を結ぼうとしたのかを把握する。
第7回第7回:「中欧×第二次世界大戦」
20世紀で二度目の世界戦争となった第二次世界大戦において交戦した諸国は中欧地域をどのように扱ったのだろうか? その反対に中欧諸国は世界戦争にどのように対応しようとし、あるいは戦争から何を得ようとしたのだろうか? 各国政府の行動や抵抗運動などの事例を通じて中欧でのWWII体験を検討する。
第8回第8回:「中欧→東欧」
第二次世界大戦(WWII)後の世界におけるアメリカ合衆国とソ連との対立――いわゆる「冷戦」――の始まりには中欧地域の状況も深く関係していた。WWII後の米ソ間の駆け引きの中での中欧の扱われ方を確認した後に、WWII後にソ連の影響下に置かれた"中欧"諸国で共産党政権が成立し、ソ連主導の社会主義圏に組み込まれ、ソ連の下の"東欧"諸国として認識されるようになる過程を紹介する。
第9回第9回:「東欧×社会主義」
1940年代末までにソ連の強い影響下で共産党政権が確立した後、「社会主義社会」建設の旗印の下に"東欧"諸国で進んだ政治・経済・社会の全面的な変化を紹介する。また、この変化に対して"東欧"諸国において住民からの不満が示されたこと、あるいは1968年の「プラハの春」などのように共産党主導による「上からの改革」も試みられた(が挫折した)ことなども紹介する。
第10回第10回:「東欧→中欧(→EU)」
1970年代以降にソ連・東欧諸国のマクロ経済は行き詰まり、その状況は1980年代後半のソ連政治の変化、そして1980年代末の東欧諸国での共産党政権崩壊と「民主化」の始まりに結実した。1990年代以降は再度"中欧"諸国と呼ばれるようになったこの地域の諸国は、欧州連合(EU)への加盟交渉を通じて、外交・政治・社会・経済の大転換を経験していく。その変化の過程と現在にまで及ぶ影響を考える。
第11回第11回:「中欧×住民管理」
近代以降のヨーロッパ各国の政府は各国の領内に住む人々の情報を把握し、彼ら/彼女らの属性に関する情報を集め、それらの情報を政策に反映するようになった。個々人が使用する言語ないし民族意識に関する情報の収集もその代表的な例である。19~20世紀の中欧を舞台に、権力側が住民の民族意識・言語使用に関する情報をどのように利用し、一方で住民がどのように反応したのかを検討したい。
第12回第12回:「中欧×住民移動」
第11回授業に続き、中欧における住民管理の問題を扱う。言語や宗教といった住民の属性に関する情報が政策に反映された事例の中には、自国の住民に対して国家が暴力を行使する政策も含まれていた。国民国家の建国に伴う住民移動や戦時の強制追放などがその代表的な事例であり、中欧地域でも多くの実例が見られる。それらの幾つかを紹介しつつ、近現代における国家と住民との関係を考えたい。
第13回第13回:「中欧×移民・難民=??」
近現代における人の移動を考える際、いわゆる「移民」や「難民」と呼ばれる人々の存在は無視できない。そして、中欧は19世紀には"移民"を多く送り出した地域であり、20世紀には戦争によって生じた"難民"が通過した地域であり、21世紀には反"移民"・"難民"感情が高揚している地域である。「移民」・「難民」を軸に中欧の歴史を異なった角度から考えたい。
第14回第14回:「中欧×歴史認識」
近現代(19世紀初め~20世紀初め~21世紀前半)に中欧地域とその地域に住まう人々が経験してきた過去は、それぞれの国と集団に様々な記憶や歴史認識を残した。過去の出来事について住民が抱く集団的な記憶は各国の政治に利用され、あるいは新たな対立が起きた際に呼び起こされ、時には国家間や集団間の対立をさらに煽るためにも用いられた。このような記憶の政治に関して実例を交えつつ考えたい。
授業の運営方法◆授業は講義形式で行う。パワーポイントや参考図版などを教室スクリーンに映写しつつ、口頭でも説明を進める。板書も適宜行うので、受講生各自でノートを作成すること。
◆授業受講後に受講生は学修ポータルサイトを通じてリアクションペーパーを提出すること。
◆授業資料は学修ポータルサイトを通じて事前に(授業前日までに)配布する。授業資料には授業内容スライド、参考図版・参考資料、参考文献などをまとめている。受講生は授業資料を予習したうえで、受講時は手元で参照できるように備えること。
課題試験やレポート等に対するフィードバックの方法◆各授業回で提出を求めるリアクションペーパーの内容について次回授業の冒頭で一部を紹介する(※紹介時に提出者氏名は公開しない)。
◆また、リアクションペーパーを通じて前回の授業内容に対する疑問点が示された場合にも、次回の授業冒頭で当該部分の再説明や補足説明を行う。
評価の種類 割合(%) 評価方法・評価基準
小論文・レポート 50% 学期末に期末レポートの提出を求める
授業参加 50% リアクションペーパーの提出程度と記述内容から判定する(※出席点ではないので注意)
テキスト 使用しない
参考文献 ・岩﨑周一著、『ハプスブルク帝国』講談社(講談社現代新書)、2017年。
・マーク・マゾワー著、中田瑞穂・網谷龍介訳『暗黒の大陸 ヨーロッパの20世紀』未來社、2015年。
・エリック・ホブズボーム著、大井由紀訳『20世紀の歴史 両極端の時代(上・下)』筑摩書房(ちくま学芸文庫)、2018年。
(※その他の参考文献は授業資料内で適宜紹介する)
その他、履修生への注意事項 ◆参考文献は各回の授業レジュメを通じて紹介する。義務ではないが、できれば各自で目を通すこと。
◆他の受講生の迷惑となるので教室内での私語は厳に慎むこと。場合によっては教室からの退去を求める。
卒業認定・学位授与の方針と当該授業科目の関連 カリキュラムマップ【文学部 人文学科】