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科目名人文学特殊講義(西洋史)B
担当者香坂 直樹
開講期2024年度秋学期
科目区分週間授業
履修開始年次3年
単位数2単位
授業の方法講義
授業題目「中欧」/「東欧」地域の近現代史(19~20世紀史)とその影響
授業の達成目標2022年2月に始まり現在も続いているロシアによるウクライナ侵攻、あるいは2010年代半ば以降に顕在化したいわゆる「移民」・「難民」への対処などは、この授業で注目する中央ヨーロッパ(中欧)地域が、東のロシアと西のドイツ(ないし西欧諸国)との狭間に存在する地域であること、さらに南ではバルカン半島に接続しているという地域であることの地政学的な意味を改めて浮き上がらせた。

では、この中欧地域は、近代(19世紀初め~20世紀初め)や現代(20世紀初め~21世紀前半)において、どのような歴史的な出来事を体験した地域なのだろうか? また、なぜこの地域が一時期は「東欧」とも呼ばれていたのだろうか? 中欧/東欧が辿った過去の体験は現在の中欧諸国の社会や政治にどのような刻印を残しているのだろうか? そして、中欧地域の体験は近現代という時代が全般的に示す特徴とどう関係しているのだろうか? 

以上に示した問題関心に基づき、近現代の中欧地域の歴史と現在への影響について他者に説明できるだけの知識を得ることがこの授業の目標である。
今年度の授業内容・授業へのイントロダクションとして「中欧」地域の位置と現在の政治や社会の状況・課題を確認する(第1回)。
・そして時代順に中欧地域の歴史を確認する。まずは20世紀初頭までオーストリア帝国(ハプスブルク君主国)などの諸帝国に統治されていた「中欧」地域の状況を把握する。その際、現地で見られた多文化・多言語の状況、そして19世紀に登場してきた「ナショナリズム」理論が中欧地域に及ぼした影響を確認する(第2~4回)。
・その後、現代(20世紀初め~21世紀前半)にかけての「中欧」の経験を扱う。ナショナリズムの結果、20世紀初めに中欧は国民国家群が分立する地域へと再編され、次いでナチ・ドイツの進出や米ソ間での東西冷戦などのように、ドイツやソ連などといった隣接する大国の影響を強く受ける地域となった。この状況が中欧地域に及ぼした結果を考察する(第5~11回)
・最後に、以上で扱った歴史的な経緯を念頭に置きつつ、「住民と政府との関係」、及び「過去の記憶」などのテーマから「中欧」地域の近現代の体験を考察する。それを踏まえ、中欧の体験から近現代という時代そのものの特徴を考える(第12~14回)。
準備学修予習・復習等の具体的な内容及びそれに必要な時間について・授業前日までに授業資料を学修ポータルサイトにアップロードするので、受講者は各自で授業資料をダウンロードしたうえで資料に目を通し、授業内容に関する疑問点などをあらかじめ整理しておくこと。(予習60分)
・授業後に授業資料および講義ノートを再読して授業で扱った出来事の流れなどを整理すること。また、授業内で登場したが意味が判らない用語などを調べ理解すること。(復習60分)
合計60時間
自習に関する一般的な指示事項・授業時間内で登場した用語(様々な制度や理念・概念、事件の名称など)で意味が分からない用語があれば、そのままにせず各自で調べること。あるいは、授業前後での教員への質問や、ポータルサイトの「授業Q&A」機能を通じての質問も歓迎する。
・毎回の授業資料を通じてその回の授業内容に関連した基本的な文献を紹介する。授業の復習あるいは課題作成に向けた準備として各自で目を通すこと。
・また、日々のニュース、特にヨーロッパに関するニュースや新聞・雑誌記事などに注意を払い、情報を集めること。重要な事件や出来事に関する報道は授業内でも適宜紹介したい。
第1回「"中欧"とはどこか:現在の状況と課題」
授業全体のイントロダクションとして、授業で扱う中欧地域の位置を確認するとともに、21世紀前半現在の中欧地域が直面する課題(いわゆる「移民」や「難民」への対応、ロシアによるウクライナ侵攻、EU組織との関係)を紹介する。また、「中欧」とともにこの地域を指す用語として用いられてきた「東欧」という地域呼称が持つ意味についても説明する。
第2回「近世の諸帝国の世界」
現在でいう「中欧」地域は、19世紀半ば時点ではロシア帝国やオーストリア帝国(あるいはオスマン帝国)といった諸帝国の支配下・統治下にあった。この地域がそれらの帝国の統治下に置かれる状況がどのような過程を経て成立したのか、また、諸帝国の下でこの地域の住民がどのような生活を営んでいたのかを紹介する。
第3回「ナショナリズムの理念」
近現代(19世紀初め~20世紀初め~21世紀前半現在)の世界において、「ナショナリズム」(国民主義/民族主義)の理念は、現実の政治や人々が抱く歴史認識に大きな影響を及ぼしている。この「ナショナリズム」の基礎的な考え方を理解する。次いで、「ナショナリズム」の理念に基づく政治・社会運動が近代以降の(西)ヨーロッパで登場し、中欧などに拡散していく経緯を把握する。
第4回「中欧におけるナショナリズム運動」
ポーランド人やチェコ人、スロヴァキア人、ウクライナ人、ハンガリー人など、21世紀前半現在の中欧地域で自らの国(国民国家)を有している諸民族は19世紀の中欧地域でどのように自らの民族意識を構築してきたのかだろうか? また、彼らのナショナリズム運動が19世紀以降のオーストリア帝国などといった多民族・多言語国家の内部でどのように扱われてきたのかを確認する。
第5回「帝国の解体と国民国家の成立」
20世紀初めに発生した第一次世界大戦(WWI)を経て、中欧からロシア、バルカン半島にかけた地域の国境線は大きく変動した。この国境線の変化、つまりオーストリア=ハンガリー二重帝国やロシア帝国などの多民族帝国の崩壊とその跡での国民国家群の成立はなぜ実現したのか? 国境線変化の背景にある政治思想の変化とこの地域に及ぼした影響を考察する。
第6回「第一次世界大戦後の中欧:諸国の課題と他の地域との関係」
第一次世界大戦(WWI)の後に建国された中欧の諸国家は、その船出にあたってどのような課題に直面していたのか? また、WWI後の地域情勢の中で中欧に隣接するドイツやソ連をどのように見て、どのような関係を結ぼうとしていたのだろうか? そして、ロシア革命を経て成立したソ連国内において「民族問題」がどのように扱われたのだろうか? これらの点を確認する。
第7回「中欧での第二次世界大戦体験」
20世紀に戦われた二度目の世界戦争である第二次世界大戦(WWII)において、ドイツやイギリス、ソ連などの列強は中欧地域をどのように扱おうとしたのだろうか? その一方で、中欧諸国は戦争という状況下でどのような要求を示したのだろうか? 占領勢力に対する抵抗運動とWWII後の戦後世界をめぐる米ソの駆け引きの事例などを通じて考える。
第8回「"中欧"から"東欧"へ:米ソ対立の狭間で」
第二次世界大戦後の世界におけるアメリカ合衆国とソ連との対立、いわゆる「冷戦」の始まりには中欧地域の状況も深く関係している。戦後の国際関係の駆け引きにおける中欧地域の扱われ方を確認した後に、ソ連の影響下で"中欧"に共産党政権が成立し、社会主義圏に組み込まれ、ソ連の下の"東欧"諸国として認識されるようになる過程を紹介する。
第9回「"東欧"諸国の社会主義体験」
1940年代末までに共産党の一党支配政権が成立し、(ソ連の強い影響下で)社会主義国家として歩み始めた"東欧"諸国において、「社会主義社会」建設の旗印の下で進んだ政治や経済、社会の変化を紹介する。また、この変化に対して"東欧"諸国において住民からの不満が示されたこと、あるいは共産党主導による「上からの改革」も試みられたことなども紹介する。
第10回「"東欧"から"中欧"へ:1989年の民主化」
1970年代以降にソ連や東欧諸国の社会主義経済は行き詰まり、その状況は1980年代後半のソ連政治の変化、そして1980年代末の東欧諸国における共産党政権の退陣と民主化の始まりに結実した。その後の1990年代以降、この地域の諸国は外交や政治、社会、経済の大転換を経験する。その変化の過程と現在にまで及ぶ影響を考える。
第11回「冷戦後と"冷戦後後"の中欧:EUとの関係」
1990年代以降のいわゆる"冷戦後"の世界において、中欧諸国は「欧州回帰」の旗印の下で、西欧諸国との関係を強化し、多くの国々がEU(欧州連合)とNATO(北大西洋条約機構)への加盟を果たし、新たな政治的な配置の下に置かれることになる。EU/NATOへの加盟の背景と加盟交渉の過程、及びEU/NATOへの加盟が地域に及ぼした影響を考える。
第12回「中欧における住民管理の試み」
近代以降のヨーロッパ各国の政府は各国の領内に住む人々を把握・管理し、彼ら/彼女らの属性に関する情報を集め、統治や政策に反映するようになった。住民の言語使用ないし民族意識に関する情報の収集もその代表的な例である。19~20世紀の中欧を舞台に、権力側が住民の民族意識・言語使用に関する情報をどのように政策に反映したのか、そして住民がどのように対応したのかを検討したい。
第13回「中欧における住民移動の実例」
第12回授業に続き、中欧における住民管理の問題を扱う。住民の属性に関する情報を政策に反映した事例の中には、自国の住民に対して国家が暴力を行使する政策も含まれていた。住民移動や強制追放などと呼ばれる政策であり、中欧地域でも多くの実例が見られる。それらのいくつかを紹介しつつ、近現代における国家と住民との関係を考えたい。
第14回「中欧における過去の記憶」
近現代(19世紀初め~20世紀初め~21世紀前半)に中欧地域とその地域に住まう人々が経験してきた過去は、それぞれの国と集団に様々な記憶を残した。過去の出来事について住民が抱く集団的な記憶は各国の政治に利用され、あるいは新たな対立が起きた際に呼び起こされ、時には国家間や集団間の対立をさらに煽るためにも用いられた。このような記憶の政治に関して実例を交えつつ考えたい。
授業の運営方法・授業は講義形式で行う。パワーポイントや参考図版などを教室スクリーンに映写しつつ、口頭でも説明を進める。板書も適宜行うので、受講生各自でノートを作成すること。授業受講後に受講生は学修ポータルサイトを通じてリアクションペーパーを提出すること。
・授業資料は学修ポータルサイトを通じて事前に(授業前日までに)配布する。授業資料には授業内容スライド、参考図版・参考資料、参考文献などをまとめている。受講生は授業資料を予習したうえで、受講時は手元で参照できるように備えること。
課題試験やレポート等に対するフィードバックの方法・各授業回で提出を求めるリアクションペーパーの内容について、次回の授業の冒頭で一部を紹介する(※紹介時に提出者の名前は公開しない)。また、リアクションペーパーを通じて授業内容に対する疑問点が示された場合にも、次回の授業冒頭で当該部分の再説明や補足説明を行う。
評価の種類 割合(%) 評価方法・評価基準
小論文・レポート 50% 学期末に期末レポートの提出を求める。
授業参加 50% リアクションペーパーの提出程度と記述内容から判定する(※出席点ではないので注意)。
参考文献 ・岩﨑周一著、『ハプスブルク帝国』講談社(講談社現代新書)、2017年。
・マーク・マゾワー著、中田瑞穂・網谷龍介訳『暗黒の大陸 ヨーロッパの20世紀』未來社、2015年。
・エリック・ホブズボーム著、大井由紀訳『20世紀の歴史 両極端の時代(上・下)』筑摩書房(ちくま学芸文庫)、2018年。
(※その他の参考文献は授業資料内で適宜紹介する。)
その他、履修生への注意事項 ・参考文献は各回の授業レジュメを通じて紹介する。義務ではないが、できれば各自で目を通すこと。
・他の受講生の迷惑となるので、教室内での私語は厳に慎むこと。場合によっては、教室からの退去を求める。
卒業認定・学位授与の方針と当該授業科目の関連 カリキュラムマップ【文学部 人文学科】