科目名 | 地政学 | |
担当者 | 笹島 雅彦 | |
開講期 | 2025年度春学期 | |
科目区分 | 週間授業 | |
履修開始年次 | 3年 | |
単位数 | 2単位 | |
授業の方法 | 講義 | |
授業形態 | 対面(全回対面) | |
オンライン実施回 | — | |
全回対面 | ||
授業題目 | 世界の紛争発火点 | |
授業の到達目標 | 地政学は、地理学、政治学などの知識を用いつつ、国際関係や歴史の理解を深める研究分野である。近年、注目を集めている地政学の復活が意味するところを理解し、外交・安全保障政策上の課題を説明できるようにする。世界地図を通して、世界各国の歴史と接続性を視覚的に理解できるようにする。特に、ロシアによるウクライナ侵略とイスラエルとパレスチナ・ガザ地区の紛争など中東情勢、米中対立の深まりについて、事実に基づきながら状況を理解し、説明できるようにする。 | |
今年度の授業内容 | 米中対立の先鋭化によって、日米など先進民主主義諸国が目指す「自由で開かれたインド・太平洋」構想と、中国の「一帯一路」構想が衝突する状況が生まれつつある。世界地図を広げながら、アメリカが中東地域から撤収を始め、アジアに軸足を移動させている動向を探っていく。同時に、アメリカのトランプ大統領が領土拡大を目指すかのような発言を繰り返す実態を観察していく。すでに開戦2年を超えたロシアによるウクライナ侵略について、戦況を分析する。果たして、中露両国はパートナー同士として協力しているのか、現状変更勢力としての「中露疑似同盟」の行方を探っていく。また、イスラエルとパレスチナ・ガザ地区の紛争など中東情勢の概況をつかむ。内容は、難解ではなく、基本的な用語解説から始め、わかりやすく世界の紛争を取り上げていく。 | |
準備学修(予習・復習等)の具体的な内容及びそれに必要な時間について | 毎回、指定する範囲内でテキストを熟読、予習すること。新聞の国際ニュースを毎日欠かさず読み、流れをつかむこと。 また、国際ニュースの担当者は、1週間の出来事の中から重要と思われる報道内容をレジュメにまとめて紹介する準備を行う。 |
1回平均約190分 |
自習に関する一般的な指示事項 | 新聞を毎日熟読し、国際ニュースの流れをつかむ。 | |
授業の特徴(アクティブラーニング) | リアクションペーパー/レポート/プレゼンテーション/討議(ディスカッション・ディベート) | |
第1回 | 授業の概要説明と担当振り分け 国際ニュースの発表予定者を募集する。 |
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第2回 | 地政学の復活とは何か 地政学的思考は、その国の国益が最も脅かさていると国民が感じるところで表面化する。すべての国の外交の基礎は国益である。国益は、国民の安全、自由、繁栄、そして文化、伝統、アイデンティティを守ることである。地政学は地理と歴史に左右される。しかし、21世紀の新しい地政学は、グローバリゼーション以後の地政学である。国境を楽々と突き破る技術革新ののちに生まれた地政学である。過去に回帰するのではなく、既成観念から脱却して、新しい秩序をつくるために真剣に取り組まなければならない。 |
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第3回 | 大陸パワーと海洋パワー 地政学は、地球全体を一つの単位と見て、その動向をリアルタイムでつかんで、そこから現在の政策に必要な判断材料を引き出そうとする学問であり、高度な政策科学の一種である。国際政治学が国際関係を静態モデルの連続としてその間の変化を細かくとらえようとするのに対して、地政学は国際関係を常に動態力学の見地から見ようとする。まずは、英国の地理学者・マッキンダーの考え方から紹介する。 |
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第4回 | 地政学のさまざまな発展 アメリカのアルフレッド・マハンが展開した海外拡張論から、マッキンダーとの考え方の違いをとらえていく。さらに、パラグ・カンナの「接続性の地政学」にも触れていく。 |
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第5回 | 緊迫するウクライナ情勢とロシア ロシアによるウクライナ侵略を巡り、アメリカのトランプ大統領は停戦交渉に意欲を見せてきた。前線で苦戦を強いられるウクライナはトランプ氏の交渉力に望みを託している。一方、ロシアは自国に有利な形での決着を目指すr姿勢を崩しておらず、交渉は難航が予想される。 |
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第6回 | 中東情勢を読み解く:パレスチナ問題とイスラエルの対応 中東地域では、極端にイスラエル寄りの姿勢を示すトランプ大統領の登場に、期待と警戒感が交差している。イスラエルは、エルサレムを首都に認定するなどトランプ氏の1期目が画期的だったことから、さらなるテコ入れに期待している。トランプ大統領自身は、米国の仲介でアラブ首長国連邦などがイスラエルと国交を正常化した「アブラハム合意」について、サウジアラビアが合意に加わるとの見通しを示している。イスラエルとハマスの停戦合意の行方についても考察していく。 |
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第7回 | イランの勢力拡大と「抵抗の枢軸」 イランはパレスチナのハマス、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派などイスラム教の諸団体への支援を強化してきた。イランは、核開発疑惑をめぐって、トランプ大統領が1期目に再開した経済制裁の解除を求めている。果たして、トランプ氏とイランの溝は埋まるのか。 |
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第8回 | 中国の「一帯一路」構想と日米豪印の「インド太平洋」構想 中国の習近平国家主席は、中国と欧州を結ぶ陸路のシルクロードと海上シルクロードという「一帯一路」構想を掲げている。この構想によって、世界各国との貿易・投資を強化していくという青写真を描いている。これに対して、日本の安倍政権は「自由で開かれたインド太平洋」構想を掲げて、アジア、アフリカ諸国との関係強化を図ってきた。この構想は、第1期トランプ政権をはじめ、欧州諸国などにも広がりを見せ、日本の外交スローガンとしては幅広い共鳴作用を生んでいる。その地政学的アプローチとは。 |
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第9回 | 中国と台湾問題 中国に対し強硬姿勢をのぞかせているトランプ大統領に、融和姿勢を示す中国。そこには、ディールに応じる余地を残すトランプ大統領との協議を重ねて、関税問題などで折り合える条件を引き出し、中国経済や社会へのダメージを最小限に抑えたいとの思惑がある。習近平氏は、台湾問題などに米国が介入すべきでないレッドゾーンと位置づけ、強くけん制してきた。 |
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第10回 | 東シナ海と南シナ海 尖閣諸島問題と台湾有事のゆくえが日本にとって、大きな関心事だ。尖閣諸島の地図上の位置づけと日中交流の中における歴史の流れをつかむ。そのうえで、米中対立の焦点となっている台湾問題の歴史と経緯を理解していく。 |
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第11回 | 朝鮮半島問題 朝鮮半島は「冷戦の化石」とも呼ばれ、南北の対立が先鋭になっている。日本にとって、朝鮮半島は安全保障上、最も重要な地理的要素だ。核・ミサイル開発を続けている北朝鮮の地理的特性と歴史をつかむ。また、韓国の国内政治の動きを追い、南北関係の対立の歴史を捉える。 |
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第12回 | 米中対立と日中関係の課題 トランプ政権の発足とともに米中関係は極度の緊張状態にある。こうした中、日本は中国との対話を閉ざすことなく、対話の継続の道を探ってきた。日中関係には、尖閣諸島をめぐる中国の一方的主張、台湾有事の際の日本の役割、東京電力福島第一原発の処理水問題、中国在留邦人の安全確保、スパイ罪で拘束されている日本人企業幹部など問題が山積している。 |
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第13回 | トランプ大統領の領土的野心は本物か アメリカのトランプ大統領は、就任直前から、カナダをアメリカの51番目の州にする、グリーンランドをデンマークから買収する、パナマ運河の返還を求める、「メキシコ湾」をアメリカ湾に改称するーーなど、アメリカの領土拡張に野心を燃やしているように見える。こうした発言の背景にある考え方は何か。世界地図を頼りに探っていく。 |
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第14回 | まとめ 現代の紛争状況を地政学的な視点からひもといた授業の総まとめ。 |
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授業の運営方法 | 毎回の授業冒頭、担当学生が国際紛争に関わる国際ニュースを報告する。教員がそれに基づく背景説明を行い、当日の授業と関連付ける。講義内容は実証的アプローチを目指しており、学生からの積極的な質問・意見を求める。国際報道を批判的に読み解く「メディア・リテラシー」の向上を目指して、背景説明と討論を進めていく。 | |
課題試験やレポート等に対するフィードバックの方法 | ウエブ会議システムMicrosoft-teams上、各学生それぞれの「クラスノートブック」欄を用い、毎回の授業終了時に「リアクション・ペーパー」を投稿する。One Note機能をフル活用する。「リアクション・ペーパー」に質問は書かないこと。質問は授業時間内に直接、質問することが原則。「リアクション・ペーパー」には、授業内容のメモや、指示に基づくそれぞれの意見を書きこむこと。教員はそれに対し、赤ペンで講評、添削を行う。レポート提出の場合も同様である。 場合によっては、チームズのチャット機能や、ポータル上の「掲示板」「Q&A」「メール」機能を利用する場合もある。 |
評価の種類 | 割合(%) | 評価方法・評価基準 |
定期試験 | 0% | 実施しない |
小論文・レポート | 60% | 中間、期末レポート |
授業参加 | 40% | 積極的な授業参加態度(ニュース報告と質問、意見表明、毎回の授業後コメント) |
テキスト | 北岡伸一、細谷雄一編「新しい地政学」(東洋経済新報社、2020年) |
参考文献 | 池内恵ら「ウクライナ戦争と世界のゆくえ」(東京大学出版会、2022年)。 北岡伸一「覇権なき時代の世界地図」(新潮選書、2024年) 千々和泰明「戦争はいかに終結したか」(中公新書、2021年) 赤木完爾編「国際安全保障がわかるガイドブック」(慶應義塾大学出版会、2024年)2200円 ISBN978-4-7664-2933-6
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その他、履修生への注意事項 | (成績評価) 全14回の授業のうち、三分の二以上、つまり10回以上の出席者を成績評価対象とする。 |
卒業認定・学位授与の方針と当該授業科目の関連 | カリキュラムマップ【文学部 人文学科】 |
実務経験の概要 | 35年間に及ぶ新聞記者生活。政治部、国際部などに所属し、北京特派員として中国の暗部を探るなど、ジャーナリズムの最前線で働いてきた。 |
実務経験と授業科目との関連性 | 政治、外交、安全保障にかかわる豊富な現場体験をもとに、理論と現実の相違点を実証的にわかりやすく分析する。単なる教科書的な理論の紹介ではなく、深く現実政治の動向を見据えながら、ダイナミックに国際事象に切り込んでいく。 |