科目名 | 多文化社会と民族問題 | |
担当者 | 香坂 直樹 | |
開講期 | 2024年度春学期 | |
科目区分 | 週間授業 | |
履修開始年次 | 3年 | |
単位数 | 2単位 | |
授業の方法 | 講義 | |
授業題目 | 19~20世紀における中欧や南東欧の「民族紛争」の事例を通じて、多文化社会が成立する要件を考える。 | |
授業の達成目標 | この授業では、実際の「民族紛争」の事例を参照しながら、多文化社会が成り立つための課題を考える。取り上げる具体的な事例は、中欧からはチェコ人とスロヴァキア人の国家とされたチェコスロヴァキア共和国(1918~1992年)の内部における民族問題、南東欧からはより多様な人々・民族集団が連邦国家を形成していたユーゴスラヴィアが1990年代に解体する過程で生じた紛争を扱う。それらの具体例をもとに、いわゆる「民族紛争」が起こるメカニズムを理解するとともに、複数の人間集団間での対立の拡大を抑止・予防するために求められる要件に関しての知識を得ることを授業目標とする。 | |
今年度の授業内容 | ・授業へのイントロダクションとして、ヨーロッパを中心に現在の世界各地で発生している民族運動・民族問題・民族紛争の例を共有し、それらにどのような特徴が見られるかを理解する。(第1回) ・具体的な民族紛争の事例を見る前に、問題把握と分析のためのツールとして「ナショナリズム」理論の基礎と民族運動の典型的パターンを把握する(第2~3回)。 ・第1の事例としてチェコ人とスロヴァキア人の関係、ないしチェコスロヴァキア共和国(1918~1992年)における民族運動の扱われ方を紹介する(第4~7回) ・第2の事例として旧ユーゴスラヴィア国内における民族関係の調整の例、そして旧ユーゴスラヴィアを解体に導いた紛争の例を検討委する(第8~11回)。 ・これら2つの具体例をもとに、「民族紛争」の発生ないし対立の増幅を導く要因を考察し、またそれらへの対応法を考えることで授業のまとめとする(第12~14回) |
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準備学修予習・復習等の具体的な内容及びそれに必要な時間について | ・授業前日までに授業資料を学修ポータルサイトに掲出するので、受講者は各自で授業資料をダウンロードしたうえで資料に目を通し、授業内容に関する疑問点などをあらかじめ整理しておくこと。(予習60分) ・授業後に授業資料および講義ノートを再読して出来事の流れなどを整理すること。また、授業内で登場したが意味が判らない用語などを調べ理解すること。(復習60分) |
合計60時間 |
自習に関する一般的な指示事項 | ・授業時間内で登場した用語(様々な制度や理念・概念、事件の名称など)で意味が分からない用語があれば、そのままにせず各自で調べること。あるいは、授業前後での教員への質問やポータルサイトの「授業Q&A」機能を通じての質問も歓迎する。 ・毎回の授業資料の中で授業内容に関連した基本的な文献を紹介するので、授業の復習あるいは課題(期末レポート)作成に向けた準備として各自で目を通すこと。 |
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第1回 | 『現在の世界における"民族紛争"・"民族問題"』 授業全体のイントロダクションとして、21世紀前半の現在も世界各地で発生している「民族問題」や「民族運動」、「民族紛争」を幾つか紹介し、それぞれの事例で誰(どのような人間集団)が何を求め、彼ら/彼女らの要求をめぐってどのような対立の構図が生まれているのかを把握する。 |
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第2回 | 『ナショナリズム理念とナショナリズム運動の基礎』 "民族"紛争に関与する主体として認識される"民族"とはどのような人間集団なのだろうか? また、「近代」や「現代」(18世紀末以降から21世紀前半の現在まで)の世界各地の政治・社会状況や国際情勢、歴史認識に大きな影響を与えている政治理念や社会理念である「ナショナリズム」(「国民主義」・「民族主義」)とはどのような考え方なのか? そして「ナショナリズム運動」とは何を求める運動なのか? それらの点に関して基礎的な考え方を共有する。 |
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第3回 | 『世界各地でのナショナリズム運動の展開過程』 中欧や南東欧の諸事例を紹介しつつ、19世紀から20世紀にかけての世界においてナショナリズム理念が拡散する中で、実際の社会ではどのような民族運動・民族紛争が発生したのかを考える。幾つかのパータンに分けながら、一般的には"民族運動"や"民族紛争"と理解される出来事に関して基本的な構図を理解する。 |
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第4回 | 『チェコスロヴァキア共和国の建国まで』 第4回以降では最初の具体例としてチェコスロヴァキアを扱う。まず、第4回ではチェコ人とスロヴァキア人の国を創るという考えがどのように生まれ、実現したのかに注目する。19世紀のナショナリズム運動から20世紀初めの第一次世界大戦時の亡命政治家による独立運動を経て、第一次世界大戦後にチェコスロヴァキア共和国が建国されるまでの経緯と建国の論理を理解する。 |
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第5回 | 『多くの民族が暮らす国民国家として』 第一次世界大戦後に建国されたチェコスロヴァキア共和国は、チェコ人とスロヴァキア人の国家として建国されながらも、実際には、その他の多くの民族(ドイツ人やハンガリー人、ルシン人(ウクライナ人)、ユダヤ人など)も暮らしていた多民族国家であった。多文化社会の一例として、戦間期のチェコスロヴァキア政府は、この課題(多くの民族が暮らす社会の中で国民国家を築き、維持する)にどのように対応しようとしていたのかを検討する。 |
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第6回 | 『チェコ人とスロヴァキア人の関係調整(1)』 戦間期のチェコスロヴァキアは、理念としては、チェコ人とスロヴァキア人の国家として建国されたにもかかわらず、実際には、チェコ人とスロヴァキア人の政治家の間にも対立が生じた。この結果、1930年代末のチェコスロヴァキアの解体を導いた。この対立の背景を考えるとともに、第二次世界大戦を経て、戦後に両民族の関係を再調整する動きを理解する。 |
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第7回 | 『チェコ人とスロヴァキア人の関係調整(2)』 1989年に民主化(共産党体制の崩壊)が達成された後のチェコスロヴァキアでは、新たな民族問題が表面化する。特にスロヴァキア側でナショナリズムが高揚し、チェコスロヴァキア共和国の存続を脅かした。その結果、1993年にチェコスロヴァキアは解体した。このスロヴァキア・ナショナリズムの高揚と最終的なチェコスロヴァキア共和国の分裂の背景にはどのような政治・社会・経済の状況が控えていたのかを検討する。 |
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第8回 | 『ユーゴスラヴィア国家の建国まで』 第8回以降では第2の事例としてユーゴスラヴィアを扱う。この国は事例1で扱ったチェコスロヴァキアとほぼ重なる時期に東南欧地域に存在していた国家であり、多民族国家という点でも共通点を有していた。第8回では、19世紀以降にユーゴスラヴィア国家(≒「南スラヴ人国家」)を作る理念がどのように形成され、実際の建国に至ったのかを検討する。 |
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第9回 | 『第二次世界大戦とパルチザン運動の記憶』 第二次世界大戦期にユーゴスラヴィアは解体され、ドイツやイタリアなど枢軸国陣営の支配圏に組み込まれた。これの事態に対して反ドイツの抵抗運動も開始されるが、それと同時に第二次世界大戦下のユーゴスラヴィア地域は民族間の対立と内戦の場となる。なぜこのような状況が生じたのか、そしてその記憶が戦後のユーゴスラヴィアにどのような影響を及ぼしたのかを検討する。 |
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第10回 | 『社会主義と連邦制の体験』 第二次世界大戦後に再建された社会主義期のユーゴスラヴィアでは、共産党(共産主義者同盟)による一党支配の下で、複数民族の連邦制という国家体制が構築される。この時期には各地域への分権化が大きく進み、その後の情勢に多大な影響を及ぼした。このような分権的な制度が選択された背景と関係調整の試み、民族アイデンティティの強化の状況を検討する。 |
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第11回 | 『ユーゴスラヴィア紛争』 1980年代末以降のユーゴスラヴィアでは連邦解体のプロセスが急速に進んだ。そして、この動きは最終的には1990年代の内戦へと至り、ユーゴスラヴィア国内で共に暮らしていた諸民族間の殺戮へと至った。この紛争の経過を検討することで、民族対立が紛争へとエスカレートする際に働く複数の要因を把握する。 |
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第12回 | 『"民族紛争"の発生を導く諸要因』 第4~11回授業で扱ったチェコスロヴァキアとユーゴスラヴィアという2つの事例を踏まえ、多くの民族が暮らす国家において、どのような要因が民族間の共存や共生を妨げるのか、また、どのような要因が対立を戦争へとエスカレートさせうるのかを整理する。 |
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第13回 | 『ナショナリズム運動と民主化の関係』 チェコスロヴァキアとユーゴスラヴィアの両国の事例においては、皮肉にも、(共産党による)一党支配体制の崩壊と複数政党制・自由選挙制への移行、つまり政治の民主化が進展したことが民族間(地域間)対立の一因となった。この他の事例を交えながら、なぜ民主化と民族対立が連関する現象が生じるのか、その背景を理解する。 |
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第14回 | 『対立した記憶の利用/プロパガンダ』 近現代のナショナリズム運動においては、過去の対立の記憶、あるいは過去に自民族が受けた被害の記憶が持ち出され、「敵」(≒他民族)に対する敵愾心を高める宣伝のために利用される事例が多く見られる。ユーゴスラヴィア紛争やその他の事例を参照しつつ、そのような戦争プロパガンダの影響について考える。 |
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授業の運営方法 | ・授業は講義形式で行う。パワーポイントや参考図版などを教室スクリーンに映写しつつ、口頭でも説明を進める。板書も適宜行うので、受講生各自でノートを作成すること。授業受講後に受講生は学修ポータルサイトを通じてリアクションペーパーを提出すること。 ・授業資料は学修ポータルサイトを通じて事前に(授業前日までに)配布する。授業資料には授業内容スライド、参考図版・参考資料、参考文献などをまとめている。受講生は授業資料を予習したうえで、受講時は手元で参照できるように備えること。 |
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課題試験やレポート等に対するフィードバックの方法 | ・各授業回で提出を求めるリアクションペーパーの内容について、次回の授業の冒頭で一部を紹介する(※紹介時に提出者の名前は公開しない)。また、リアクションペーパーを通じて授業内容に対する疑問点が示された場合にも、次回の授業冒頭で当該部分の再説明や補足説明を行う。 |
評価の種類 | 割合(%) | 評価方法・評価基準 |
小論文・レポート | 50% | 学期末に期末レポートの提出を求める。 |
授業参加 | 50% | リアクションペーパーの提出程度と内容から判定する(※出席点ではないので注意)。 |
参考文献 | ・長與進・神原ゆう子編『スロヴァキアを知るための64章』、明石書店、2023年。 ・柴宜弘著『ユーゴスラヴィア現代史 新版』岩波書店(岩波新書)、2021年。 ・塩川伸明著『民族とネイション ナショナリズムという難問』岩波書店(岩波新書)、2008年。 ・月村太郎著『民族紛争』岩波書店(岩波新書)、2013年。 (※その他の参考文献は授業資料内で適宜紹介する。) |
その他、履修生への注意事項 | ・参考文献は各回の授業レジュメを通じて紹介する。義務ではないが、できれば各自で目を通すこと。 ・他の受講生の迷惑となるので、教室内での私語は厳に慎むこと。場合によっては、教室からの退去を求める。 |
卒業認定・学位授与の方針と当該授業科目の関連 | カリキュラムマップ【文学部 人文学科】 |