科目名 | 現代アメリカ社会 | |
担当者 | 笹島 雅彦 | |
開講期 | 2025年度秋学期 | |
科目区分 | 週間授業 | |
履修開始年次 | 3年 | |
単位数 | 2単位 | |
授業の方法 | 講義 | |
授業形態 | 対面(全回対面) | |
オンライン実施回 | — | |
全回対面 | ||
授業題目 | 「トランプ2.0」時代におけるアメリカ社会の分断 | |
授業の到達目標 | 現代アメリカ社会が抱える人種、少数派、宗教、貧富の格差、移民、銃社会、保守とリベラルの対立など社会の分断状況を理解し、説明できるようにする。そのために、米国関連記事の熟読を習慣化し、メディア・リテラシー(情報を読み解く力)も高めることができる。 | |
今年度の授業内容 | 第二次世界大戦から21世紀初頭に至るまでのアメリカ社会の動向を概観し、その政治的・社会的・文化的諸問題について考察する。多人種・多民族国家であるがゆえに、アメリカはどのような問題に直面し、それにどう対処し、一つの国家にまとめようしてきたのかを明らかにする。まず、第2次大戦後のアメリカ外交の特徴をつかんでいく。そのうえで、米国の外交、内政問題を概観し、米国内の分断状況を考察していく。2024年11月のアメリカ大統領選挙の結果分析を行い、民主党敗北の要因を探る。そのうえで、「トランプ2.0」時代における新政策の特徴をとらえていく。 |
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準備学修(予習・復習等)の具体的な内容及びそれに必要な時間について | 新聞の国際ニュースを毎日欠かさず読み、流れをつかむこと。 また、国際ニュースの担当者は、1週間の出来事の中から重要と思われる報道内容をレジュメにまとめて紹介する準備を行う。 |
1回平均約190分 |
自習に関する一般的な指示事項 | 新聞を毎日熟読し、国際ニュースの流れをつかむ。 | |
授業の特徴(アクティブラーニング) | リアクションペーパー/レポート/プレゼンテーション/討議(ディスカッション・ディベート) | |
第1回 | 授業の概要説明と担当振り分け 授業の進め方についてガイダンスを行う。 同時に、国際ニュースの発表担当者を割り振っていく。 |
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第2回 | 戦後のアメリカ大統領たち 第二次世界大戦終結後、アメリカ大統領たちがどのような外交政策を進めてきたのかを概観する。冷戦の起源に触れ、旧ソ連に対する封じ込め戦略がどのような形で推進されてきたのか、全体像を把握する。そのうえで、冷戦終結後、湾岸戦争をはじめとする新国際秩序形成を巡るアメリカの対外関与について理解する。 |
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第3回 | 対テロ戦争とその収拾 アメリカ外交の切り口として介入主義か、非介入主義かという区分がある。ブッシュ政権による対テロ戦争とイラク戦争の収拾をめぐって、続くオバマ、トランプ、バイデン、トランプ政権は、在外米軍の撤収に苦慮してきた。国際秩序が揺らぐ中、アメリカが「世界の警察官」としての役割を果たさなくなったのは、孤立主義の表れだろうか。 |
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第4回 | トランプ外交の現在 第二次政権が発足して半年間における外交を評価する。2024年の大統領選挙を経て、共和党の大統領であり、連邦議会の上下院ともに共和党が過半数を占める「トリプル・レッド」が確立している。民主党の敗因分析を行う。肝入りの政策を推進するうえで、トランプ氏が相当程度、権限を行使できる環境が整ったと言える。予測不可能と言われたトランプ氏の政策は公約通り進められているのかどうか、検証する。 |
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第5回 | 「実験国家」としてのアメリカ アメリカとは何か、アメリカ人とは何か。アメリカ人は先住民のインディアンを除けば、移住して人為的にアメリカ人になり、その子孫であることを意味する。その移民がある特定の1か国からではなく、ヨーロッパ各地、あるいは世界各地からの移民であり、人種的、文化的な統一性を欠いている。自然なアメリカ人はおらず、人為的、選択的、意識的に一つの国民になり、一つの文明を築かなければならなかった。成功への機会がすべての人に均等に開かれていることが課題である。 |
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第6回 | 保守対リベラルの対立 保守派とリベラル派の2項対立は、国によってとらえ方が違う。アメリカとヨーロッパ、そして日本の間でも大きな隔たりがある。フランス革命時代にさかのぼって英国の政治家・政治思想家であったエドマンド・バークの論考から、保守主義の原点を探っていく。そのうえで、アメリカの保守派対リベラル派の鋭い対立がアメリカ社会の分断を招いている現状を紹介する。 |
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第7回 | 言論の自由とは何か アメリカ人の友人から送られてくるクリスマスカードから「メリー・クリスマス」の表現が消えて久しい。今では、「シーズンズ・グリーティング」という味気ない表現に切り替わっている。アメリカのリベラル派が、キリスト教の宗教行事に関わるクリスマスカードを送る際は、他の宗教の信者へも配慮しなければならない、という政治的に正しい表現を求めているからだ。少数派重視の考え方は、一面、表現を窮屈にしてしまう。正しくない表現を使った有名人は、激しい非難を浴び、メディアから追放されてしまう。キャンセル・カルチャーとポリティカル・コレクトネス(PC)の最前線を追う。 |
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第8回 | 移民社会 アメリカは移民の国だが、不法移民の取り扱いをめぐっては政権によって対応が大きく異なる。民主党政権時代は比較的、寛容な受け入れ政策をとってきた。しかし、トランプ政権は、メキシコとの国境に沿って壁を建設したり、第2期政権では、強制送還に乗り出している。移民・難民に関わる問題をどう考えていけばよいのか。欧州における移民の大量流入が、移民排斥を訴える極右政党の台頭を招いているジレンマを紹介する。 |
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第9回 | 銃社会は生まれ変わるか アメリカは自分の身は自分で守る銃社会。その根源は憲法修正第2条で、銃の所持が権利として認められていることにある。リベラル派による銃規制の動きと、銃の所持を求める保守派の考え方の違いや、学校・大学における銃乱射事件の多発という社会問題を紹介する。 |
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第10回 | BLM運動と人種差別をめぐる発想の転換 BLM運動は2020年のジョージ・フロイドさん圧迫死事件を契機に大きく広がった。同時に、歴史上の人物による人種差別問題にも関心が広がり、ニューヨークタイムズ紙を舞台とする「1620プロジェクト」など批判的人種理論に基づく訴えが大きな波紋を呼んだ。トランプ大統領を支持する白人至上主義の考え方と、黒人有権者のトランプ支持の動きを観察する。 |
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第11回 | 少数派(マイノリティー)と多様性(ダイバーシティ)の未来 アメリカ社会では近年、DEI政策が尊重されてきた。DEIとは、多様性(Diversity)、公平性(Equity)、包摂性(Inclusion)の頭文字を取った少数派に配慮した社会や組織運営を目指す意味で使われる表現だ。性的少数派(LGBTQ)の権利擁護の運動とも連動している。こうした政策は日本を含め世界に影響を与えてきているが、保守派対リベラル派の政治的対立点になっている。 |
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第12回 | トランプ支持層を形成する白人貧困層 JDバンス副大統領が2016年に出版した「ヒルビリー・エレジー」は、社会から取り残された白人貧困層を描き、ベストセラーになった。それは、社会的挫折感を味わっている白人男性たちがトランプ支持層につながる心理的背景が読み取れる。グローバリゼーションの繁栄から取り残された白人貧困層の社会病理を分析する。 |
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第13回 | ポピュリズム(大衆迎合主義)と民主主義モデルの危機 トランプ大統領によるポピュリズム的政策は、支持層の世論受けを狙ったものが多い。それは民主主義にとっては害悪になりうるとの批判も根強い。イ―ロン・マスク氏をトップとするDOGEによる連邦職員の大幅削減や規制緩和は、どのような影響をアメリカ社会にもたらすのか、検証する。 |
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第14回 | まとめ トランプ政権の発足によって、アメリカ社会の分断は一層、広がっている。 これに対して、同盟国・日本はどのように向き合っていけばよいのか。 日本の役割についても考えていく。 |
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授業の運営方法 | 毎回、授業の冒頭では、授業テーマと関連する最新の米国報道や国際報道について、担当学生が短時間の報告を行う。その内容について背景解説を行った後、現代アメリカ社会が抱える特異な問題点を探っていく。学生の質問、意見、討論を重視する。学生自身が問題点を発見し、その解決策を考え、中間、期末レポートにまとめる。 | |
課題試験やレポート等に対するフィードバックの方法 | ウエブ会議システムMicrosoft-teams上、各学生それぞれの「クラスノートブック」欄を用い、毎回の授業終了時に「リアクション・ペーパー」を投稿する。One Note機能をフル活用する。「リアクション・ペーパー」に質問は書かないこと。質問は授業時間内に直接、質問することが原則。「リアクション・ペーパー」には、授業内容のメモや、指示に基づくそれぞれの意見を書きこむこと。教員はそれに対し、赤ペンで講評、添削を行う。レポート提出の場合も同様である。 場合によっては、チームズのチャット機能や、ポータル上の「掲示板」「Q&A」「メール」機能を利用する場合もある。 |
評価の種類 | 割合(%) | 評価方法・評価基準 |
定期試験 | 0% | 実施しない |
小論文・レポート | 60% | 中間、期末レポート |
授業参加 | 40% | 積極的な授業参加態度(ニュース報告と質問、意見表明、毎回の授業後コメント) |
テキスト | 読売新聞調査研究本部編著「対テロリズム戦争」(中央公論新社、2001年)720円。ISBN4-12-150024-5 川上高司・石澤靖治編「トランプ後の世界秩序」(東洋経済新報社、2017年)のうち、笹島雅彦著「第2章日中関係【政治】」 佐橋亮、鈴木一人編「バイデンのアメリカ」(東京大学出版会、2022年) |
参考文献 | トクヴィル「アメリカの民主政治」(上中下)(講談社学術文庫、1987年) 斎藤眞「アメリカとは何か」(平凡社、1995年) 村田晃嗣「アメリカ外交ー苦悩と希望」(講談社現代新書、2005年) 村田晃嗣「トランプvsバイデン」(PHP新書、2021年) 村田晃嗣「大統領たちの五〇年史」(新潮選書、2024年) 渡辺靖「アメリカのジレンマ」(NHK出版新書、2015年) 渡辺靖「白人ナショナリズム」(中公新書、2020年) 渡辺靖「アメリカとは何か」(岩波新書、2022年) 待鳥聡史「アメリカ大統領制の現在」(NHKブックス、2016年) 久保文明「アメリカ政治史」(有斐閣、2018年) 佐橋亮著「米中対立」(中公新書、2021年) 中山俊宏「理念の国がきしむとき」(千倉書房、2023年) 上村剛「アメリカ革命」(中公新書、2024年) 学生の問題意識に合わせ、適宜、助言する。 |
その他、履修生への注意事項 | (成績評価) 全14回の授業のうち、三分の二以上、つまり10回以上の出席者を成績評価対象とする。 |
卒業認定・学位授与の方針と当該授業科目の関連 | カリキュラムマップ【文学部 人文学科】 |
実務経験の概要 | 35年間に及ぶ新聞記者生活。政治部、国際部などに所属し、北京特派員として中国の暗部を探るなど、ジャーナリズムの最前線で働いてきた。 |
実務経験と授業科目との関連性 | 政治、外交、安全保障にかかわる豊富な現場体験をもとに、理論と現実の相違点を実証的にわかりやすく分析する。単なる教科書的な理論の紹介ではなく、深く現実政治の動向を見据えながら、ダイナミックに国際事象に切り込んでいく。複雑な国際情勢をひも解き、わかりやすく丁寧に解説する。 |