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科目名現代ヨーロッパ社会
担当者香坂 直樹
開講期2024年度春学期
科目区分週間授業
履修開始年次3年
単位数2単位
授業の方法講義
授業題目13のテーマを通じて、21世紀前半現在のヨーロッパの政治と社会、その課題を考える
授業の達成目標2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻や、2020年1月の"Brexit"(英国のEUからの離脱)など、日本においても日々の報道を通じてヨーロッパで起きる出来事の情報を耳にする機会は多い。また、これら以外にも、気候変動問題への対策としての環境・エネルギー政策、あるいはいわゆる「移民」や「難民」への対応など、ヨーロッパ諸国ないしEU(欧州連合)の課題や政策がメディアで報じられることも多い。

ところで、21世紀前半の今現在は、日本もヨーロッパも「グローバル化」の流れのただ中にある。このため、日々の報道を通じて私たちに伝わるヨーロッパ社会の状況や課題は、決してヨーロッパ固有の課題ではなく、今後の日本が向き合う/現在の日本が向き合っている課題であることも多い。この点を踏まえれば、ヨーロッパ社会の状況を理解することは、今後の日本社会を考える際にも有用な視座となるだろう。

以上の問題関心に基づき、現代ヨーロッパの政治と社会、経済の状況と課題に関して、他者に説明できるだけの知識を獲得することをこの授業の目標とする。
今年度の授業内容「現代ヨーロッパ社会」の授業では、21世紀前半現在のヨーロッパにおける政治や経済、社会に関する13のテーマ(課題・論点)を選び、各回の授業で1つずつ紹介する。その際、ヨーロッパ地域内部のみの事情だけでなく、ヨーロッパと世界の他の地域との関係にも目を向ける。

初回授業ではヨーロッパの基礎情報と直面している課題を紹介する。第2~4回授業ではEU(欧州連合)の政治に関するテーマ(EUの制度や外交など)、第5~9回では経済政策に関するテーマ、第10~14回では社会政策や社会的課題に関するテーマ(多文化主義、「移民」への対応など)を取り上げる。以上の政治・経済・社会の各分野に関する知識を基に現代のヨーロッパ社会を複合的に把握したい。
準備学修予習・復習等の具体的な内容及びそれに必要な時間について・授業前日までに授業資料を学修ポータルサイトに掲出するので、受講者は各自で授業資料をダウンロードしたうえで資料に目を通し、授業内容に関する疑問点などをあらかじめ整理しておくこと。また、授業資料で扱われている事例・事件について調べ、一般的な知識を身につけておくこと。(予習60分)
・授業後に授業資料および講義ノートを再読して出来事の流れなどを整理すること。また、授業内で登場したが意味が判らない用語や概念などを調べ理解すること。(復習60分)
合計60時間
自習に関する一般的な指示事項・授業時間内で登場した用語(様々な制度や理念・概念、事件の名称など)で意味が分からない用語があれば、そのままにせず各自で調べること。あるいは、授業前後での教員への質問や、ポータルサイトの「授業Q&A」機能を通じての質問も歓迎する。
・毎回の授業資料を通じてその回の授業内容に関連した基本的な文献を紹介する。授業の復習あるいは課題作成に向けた準備として各自で目を通すこと。
・また、日々のニュース、特にヨーロッパに関するニュースや新聞・雑誌記事などに注意を払い、情報を集めること。重要な事件や出来事に関する報道は授業内でも適宜紹介したい。
第1回『現代ヨーロッパの概略と課題』
現在のヨーロッパに関する基礎情報を確認した後、ロシアによるウクライナ侵攻(2022年2月~)や、いわゆる「移民」や「難民」への対応といった時事問題の理解を通じて、現在のヨーロッパ諸国とEU(欧州連合)が直面している課題を大まかに紹介し、本授業の問題関心を共有する。
第2回『EU(欧州連合)の現状と沿革』
多くのヨーロッパ諸国が現在加盟している地域共同体であるEU(欧州連合)を扱う。その基本的な理念や組織改編と拡大の過程、現在のEU機構、EUと加盟国との権限分割の状況について理解する。現在のEUの運営状況と課題を把握することで、今後の授業に備える。
第3回『EUの外交・防衛政策』
EU(欧州連合)の外交担当組織を確認したうえで、EUが世界の主要国と政治的・軍事的にどのような関係を結んでいるかを整理する。また、EUと同様にヨーロッパ諸国の多くが現在加入し、第二次世界大戦以降の西欧防衛に深く関与してきたNATO(北大西洋条約機構)の沿革と役割も併せて紹介し、現在のEUとNATOとの関係を確認する。
第4回『EU拡大と近隣国政策』
21世紀前半現在のEU(欧州連合)がヨーロッパの周辺に広がる地域(ロシア・旧ソ連地域、北アフリカ、中東など)との関係に関して、どのような構想を抱き、実践しているのかを理解する。その際、2000年代に達成された「第5次拡大」(東方拡大)、および現在のEUが進める「近隣国政策」の実践に際してEU側が抱いている意図に注目したい。
第5回『EUの単一市場の理念と機能』
現在のEU(欧州連合)が経済面での基本理念として掲げる「単一市場」(共通市場)の理念は、実際にはどのように運営されているのだろうか。EU主導による規格統一の意味と実際の取り組みを紹介するとともに、EUが進める規格統一・画一化に対して加盟国から反発が示された事例も紹介する。
第6回『欧州共通通貨「ユーロ」:意義と課題』
EU(欧州連合)による「単一市場」構築の重要な構成要素である欧州共通通貨「ユーロ」について、構想から導入に至るまでの過程を確認する。また2010年代前半にEUが直面した「ユーロ危機」(欧州債務危機)の背景と意味にも触れつつ、現在のヨーロッパ諸国ないし先進国が共通して抱えている財政的な課題についても確認する。
第7回『ヨーロッパの環境・エネルギー政策』
一般的にはEU(欧州連合)ないしヨーロッパ諸国は「環境先進国」であり、環境問題に敏感であるという印象が広く抱かれているが、実情はどうだろうか? EU(欧州連合)はどのような環境政策を実践しているのか、気候変動問題への対応や、あるいは原子力エネルギーや化石燃料の利用状況も含めて検討する。
第8回『ヨーロッパの交通政策』
「単一市場」の構築に向けてEU(欧州連合)内で実践されているヒトやモノの自由移動の促進をインフラの面から支えているEU加盟国の道路網や鉄道網はどのように整備されているだろうか。また、鉄道や道路の整備計画でEUと加盟国がどのように協調しているかを確認する。併せて、インフラ面での新自由主義的な門戸開放の実践状況にも触れたい。
第9回『世界経済とヨーロッパ』
歴史的にヨーロッパ地域が世界の他の地域とどのような経済関係を築いてきたのかを紹介する。また、21世紀前半現在の世界経済におけるEU(欧州連合)と他の主要国との関係に関し、「経済連携協定」(EPA)や「自由貿易協定」(FTA)など各種の国際的な経済協定の締結状況を通じて考える。
第10回『ヨーロッパ社会の多様性』
宗教・民族・言語の点から見た場合、現在の西ヨーロッパ諸国は多様な人々が居住する多文化的な空間である。一方で、ヨーロッパ各国や日本を含む現在の先進国の多くは「国民国家」(≒「一国民一国家」)の理念に基づいて国家制度が形作られている。この現状と理念との間にどのような齟齬があり、課題が生じうるのかについて整理する。
第11回『多文化主義の実践と限界?』
第10回に続き、現在のヨーロッパ諸国は、国民国家の理念と文化的多様性という現実との間でどのように折り合いをつけようとしているのか、また「マイノリティ」(非主流派/少数派)から提起された権利主張に対して、「マジョリティ」(主流派/多数派)住民の側からの反発がなぜ示されているのか、実例を交えつつ考察する。
第12回『移民・難民とヨーロッパ社会』
2010年代以降にEUとヨーロッパ諸国が直面しているいわゆる「移民」や「難民」の受入れに関する課題、そして、そこからヨーロッパ各国の政治や社会に波及している影響の射程について、ヨーロッパ地域が過去に経験した「移民」や「難民」の経験を参照しつつ、考察する。
第13回『欧州懐疑論:背景と現状』
21世紀初め以降にEU(欧州連合)が様々な課題に直面する中、EU加盟国内では「欧州懐疑論」(「ユーロ・スケプティズム」)と呼ばれる議論が勢いを増している。これは政治的・経済的・社会的なEUへの統合強化、つまりEUの権限拡大が進むことに対する疑念や反発の表明である。この「欧州懐疑論」の背景、ならびに欧州懐疑論を唱える政治勢力(懐疑派政党)が台頭する過程や、彼ら懐疑派政党がヨーロッパ各国の政治に及ぼす影響を説明する。
第14回『"Brexit"』
"Brexit"、つまり英国のEU(欧州連合)からの離脱は、2016年6月に実施された国民投票で決定し、2020年1月末に実現した政策である。この英国政治の大転換に関して、イギリス国内でEUからの離脱要求が高まった背景と2016年の国民投票後のイギリスとEUとの交渉過程、そして"Brexit"の実現が今後のヨーロッパや世界に与える影響を考える。
授業の運営方法・授業は講義形式で行う。パワーポイントや参考図版などを教室スクリーンに映写しつつ、口頭でも説明を進める。板書も適宜行うので、受講生各自でノートを作成すること。授業受講後に受講生は学修ポータルサイトを通じてリアクションペーパーを提出すること。
・授業資料は学修ポータルサイトを通じて事前に(授業前日までに)配布する。授業資料には授業内容スライド、参考図版・参考資料、参考文献などをまとめている。受講生は授業資料を予習したうえで、受講時は手元で参照できるように備えること。
課題試験やレポート等に対するフィードバックの方法・各授業回で提出を求めるリアクションペーパーの内容について、次回の授業の冒頭で一部を紹介する(※紹介時に提出者の名前は公開しない)。また、リアクションペーパーを通じて授業内容に対する疑問点が示された場合にも、次回の授業冒頭で当該部分の再説明や補足説明を行う。
評価の種類 割合(%) 評価方法・評価基準
小論文・レポート 50% 学期末に期末レポートの提出を求める。
授業参加 50% リアクションペーパーの提出程度と記述内容から判定する(※出席点ではないので注意)。
参考文献 ・ジョージ・W・スコット著、李孝徳訳『ヴェールの政治学』みすず書房、2012年。
・田中素香著『ユーロ危機とギリシャ反乱』岩波書店(岩波新書)、2016年。
・水島治郎著『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』中央公論新社(中公新書)、2016年。
・庄司克宏著『欧州ポピュリズム―EU分解は避けられるか』筑摩書房(ちくま新書)、2018年。
・鶴岡路人著『EU離脱―イギリスとヨーロッパの地殻変動』筑摩書房(ちくま新書)、2020年。
その他、履修生への注意事項 ・参考文献は各回の授業レジュメを通じて紹介する。義務ではないが、できれば各自で目を通すこと。
・他の受講生の迷惑となるので、教室内での私語は厳に慎むこと。場合によっては、教室からの退去を求める。
卒業認定・学位授与の方針と当該授業科目の関連 カリキュラムマップ【文学部 人文学科】