科目名 | テキスト分析論 |
担当者 | 林 浩平 |
開講期 | 2024年度春学期 |
科目区分 | 週間授業 |
履修開始年次 | 3年 |
単位数 | 2単位 |
授業の方法 | 講義 |
授業題目 | 小説作品を分析しその構造性を考察する |
授業の達成目標 | 優れた小説作品は、作家の創作理論をベースに緻密な構造性を備えた、いわば言葉の織物として創られている。本授業では、大江健三郎の短編小説、森鴎外の『青年』、永井荷風の『濹東綺譚』などをとりあげて、作品の構造性を分析しながら、作者が本作を構成していく過程をたどる。言語を用いて作られた虚構世界である小説作品が生成されるメカニズムを学ぶことが目的である。本講義を通じて、文学テキストを精密に読解できる能力を身に付けることができる。 |
今年度の授業内容 | 最初に大江健三郎の短篇小説を素材として、作品の構造性とは何か、ということと、創作理論の応用のモデルを学ぶ。続いて鴎外の『青年』をとりあげて、地の文の語りと主人公純一の日記での語り、それぞれの位相の差異を比較し、明治40年代の自然主義の大流行という時代に鴎外の文学的な立場がどうであったかを考察する。さらに荷風の『濹東綺譚』を読んで、荷風日記である『断腸亭日乗』やエッセイ「日和下駄」など他の作品との関連をたどりつつ、作品生成の過程を検証する。また荷風がジッドの小説『贋金づくり』から学んだ作中作という方法についても講じる。授業を通じて、ロシア・フォルマリズムや構造主義思想、ベンヤミンの文学理論などを紹介するので、文学研究のための水先案内となるだろう。 |
準備学修予習・復習等の具体的な内容及びそれに必要な時間について | 事前に教科書(テキスト)となる森鷗外の『青年』と永井荷風の『濹東綺譚』を読んで、物語を理解しておくこと。授業後は学習内容を振り返り、復習ノートにまとめ、理解を深めること。また、鷗外と荷風の他の小説作品も読んでみて、彼らの文学の世界に親しんでおくこと。学習に必要なのは60時間。 |
合計60時間 |
自習に関する一般的な指示事項 | 鴎外『青年』と荷風『濹東綺譚』は各自が通読しておくこと。また鴎外、荷風、大江の他の小説作品も熟読してみよう。 |
第1回 | 小説の方法論概説(小説の構造性について。文学作品を「テクスト」と呼ぶことの意味。小説制作における方法意識の導入などをレクチャーする) |
第2回 | 大江短編講読(1) 短篇「もうひとり和泉式部が生れた日」を教材として分析的に読解を試みる。 |
第3回 | 同(2) テキスト読解を続けながら、大江におけるロシア・フォルマリズムの評論家ミハエル・バフチンや、文化人類学者・構造主義者のクロード・レヴィ=ストロースの影響を検証する。 |
第4回 | 『青年』講読(1)森鴎外の業績を概観し、『青年』執筆時の時代状況や社会背景を概説する。 |
第5回 | 同(2)テキスト読解を続けながら、執筆当時の流行思潮だった自然主義を概説する。 |
第6回 | 同(3)テキスト読解を続けながら、鴎外が翻訳を担当し自由劇場が上演したイプセン原作の「ジョン・ガブリエル・ボルクマン」に触れる。 |
第7回 | 同(4)テキスト読解を続けながら、鴎外が理想とした新時代の思想について考察を加える。「放送大学」特別講義で『青年』を主題とした番組を鑑賞する。 |
第8回 | 『濹東綺譚』講読(1) 永井荷風の業績を紹介しながら、テキスト読解を行なう。 |
第9回 | 同(2)テキスト読解を続けながら、荷風の日記『断腸亭日乗』の関連個所を参照する。 |
第10回 | 同(3)テキスト読解を続けながら、荷風の近代文明批判や江戸趣味などについて講義する。 |
第11回 | 同(4)テキスト読解を続けながら、荷風の女性観や道徳観を考察する。 |
第12回 | 同(5)テキスト読解を続けながら、作中での俳句・漢文・手紙文などの引用の効果を考察し、晩年の荷風を描いたテレビドキュメンタリーを鑑賞。 |
第13回 | 同(6)テキスト読解を続けながら、ベンヤミンの「フラヌール(彷徨者)」の概念を引き、都市空間の文学について講義し、さらに担当教員の出演した「放送大学」特別講義の「文人精神の系譜」を鑑賞。 |
第14回 | 同(7)後輩作家による荷風論を参照し、荷風の文学観を考察しながら、日本近代文学史のなかの荷風の位置を検討する。 |
授業の運営方法 | 教材となるテキストを講読しながら進める。適宜、関連のある作品や東京地図などの資料を配布して講義を行なう。 |
課題試験やレポート等に対するフィードバックの方法 | レポート回収後、特徴的な見解を紹介したり、ユニークな感想を紹介したりする。 |