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科目名フランス文学
担当者神田 浩一
開講期2023年度秋学期
科目区分週間授業
履修開始年次1年
単位数2単位
授業の方法講義
授業題目〈恋愛〉を通して見るフランス文学
授業の達成目標
提供された〈イマージュ〉を視覚や聴覚を用いて受容する「TV」「映画」「ビデオ」「ゲーム」「漫画」などに比べると、〈言語〉を用いて自力で〈イマージュ〉を生成していくことを要求される〈文学〉は、娯楽としては劣勢を迫られているように見えます。しかし〈人間の誕生=言語の誕生〉とともに生まれた〈文学〉には、〈言語〉でしか構築できない独自の世界を持っていて、それは他の表現手段ではとって変わることができない独自の魅力があります。
 この講義では、そういった〈文学〉の世界の独特の魅力を主にフランス文学を中心に考察していきます。
 具体的には、フランス〈文学〉作品の主要テーマの一つである〈恋愛〉を取り上げた作品に焦点を当てて文学の魅力を探ります。 
 
講義では以下の3つを主な目標とします。
1.「恋愛」という観点からフランス文学を渉猟することで、中世から21世紀にいたるフランス文学の全体像が把握できるようになり、それを説明できるようになること。
2.「恋愛」の観念の歴史的な変遷を知ることで、自分たちの「常識」が時代や場所に囚われたものであることを理解し、その結果、物事を相対化して見られるようになり、かつ自分と価値観の違う人に対して寛容になれること。
3.「文学」を愛する心を育むことで、人生を実り豊かなものとすること。
今年度の授業内容「〈恋愛〉は12世紀の発明である」
 フランスの歴史家シャルル・セニョボスが述べた有名な言葉です。世の始まりから女と男がいて互いにひかれあうという感情は世界中に存在しましたが、それが現代日本にも存在するような〈恋愛〉となったのは中世フランス人の発明によるところが大きいのです。
 この講義では、初めてフランス文学にふれる学生を対象に、このフランス人の発明した〈恋愛〉という観点から、いろいろな作品を鑑賞していきます。プラトニック・ラブの本来の意味や〈恋愛』がもともとは〈不倫〉であったことや〈結婚〉と〈恋愛〉が結びついたのは比較的最近のことであったことや現代日本にある「ロマンティクラブイデオロギー」がいつからどのようにして生まれたのかなどが分かるようになります。
準備学修 予習・復習等の具体的な内容及びそれに必要な時間について授業ではどうしても作品の概括的な説明になるので、授業で紹介する作品については各自でできるだけ実際に読んでみて下さい(文学作品は単なる物語ではなく言葉を駆使した芸術なので、単にあらすじを知っているのと、実際に通読する際に読者に起こる体験は全く別な物になるからです)。
 またフランス文学の傑作のほとんどは映画化されています(オペラになったり宝塚の舞台になっていたり漫画化されたりしています)。それらも合わせて見てみると文学と映画や漫画などジャンルによる表現方法の違いも分かってさらに興味深いと思います(作品を実際に読むと予習復習合わせて軽く180分以上はかかると思います。ただし大切なことは時間ではなく豊穣な文学体験をすることです)。
合計60時間
自習に関する一般的な指示事項授業では詳しく紹介できない作品以外にもフランス文学には多くの傑作があります。自習ではそういった作品を実際に読んであらすじを知るだけでなく文学を実際に読書として体験して欲しいと思います。
 第1回【いちばん大事なもの、それは愛!(恋愛から見たフランス人のメンタリティー)】
 最初の講義では、まず講義の狙い、やり方、成績評価の仕方を説明します。 
 その後で半年間の講義の導入として、フランス文学を生み出したフランス人とはいったいどのような人々なのかについて、講義のテーマである〈恋愛〉という観点から紹介してきます。
 日本人とは相当異なるフランス人の〈恋愛観〉に知らない人は驚くかもしれません。また古代日本の恋愛観についても触れます。現代との違いに驚くことでしょう。
 第2回【君のためになら死ねる!(中世)】
 恋愛の文学で取り上げる最初の作品は、ヨーロッパの恋愛文学の始まりであり、『ロミオとジュリエット』の重要なネタでもある『トリスタン・イズー物語』です。
 古代ギリシャ・古代ローマでは男女の「恋愛」には価値がありませんでした。しかし中世フランスの恋愛物語では、愛する人のためには命も惜しみません。この価値観の変化はどうしてどのようにして生じたいのか、またそれが文学作品としてどのように表現されているか、考えていきましょう。
 騎士道物語に表現された宮廷風恋愛についても説明します。結婚と恋愛は別なものであり、恋愛とはもともと「不倫」として始まったことが分かるでしょう。
 物語が語られていくうちにどのような変遷をたどっていくかということにも注目します。(ベディエ編『トリスタン・イズー物語』)
 第3回【愛してはいるけれども…(17世紀)】
 17世紀、特にルイ14世の時代はフランスの絶対王政がその絶頂期を迎えた時代でした。そこで多くの貴族たちが涙した恋愛物語である『クレーブの奥方』を中心に読んでいき、理性による情念の支配というこの時代特有の恋愛観を当時の社会状況を考えながら見ていきます。(ラファイエット夫人『クレーブの奥方』・コルネイユ『ル・シッド』・ラシーヌ『アンドロマック』)
 第4回【君となら地獄でもいい! 究極の恋愛とは? 〈ファム・ファタル〉の誕生(18世紀その1)】
 18世紀には出版技術も進歩し、識字率も上がるなかで、小説というジャンルが勃興してきた時代でした。その18世紀のフランス文学は〈ファム・ファタル〉という恋愛小説において、極めて重要な登場人物を生み出し、その後のフランス文学の大きな流れを作りました。今回は最初の〈ファム・ファタル〉である『マノン・レスコー』を取り上げて、〈ファム・ファタル〉の分析と恋愛におけるその意味を考察してきます。(アベ・プレヴォー『マノン・レスコー』)
 第5回【身分によって引き裂かれる愛!(18世紀その2)】
 今回は18世紀で一番読まれた恋愛小説を取り上げます。登場人物のほとんどが「善人」で互いを思い合うルソーの小説です。そこで作者の思想と実際の作品の関係、特に身分違いの恋の悲劇という問題に焦点を当てていきます。またルソーが発明したとされる自然描写に注目することで、小説における〈描写〉の問題についても考えていきましょう。(ルソー『新エロイーズ』・『エミール』・『人間不平等起源論』)
 第6回【真似しよう! 真似するな! 誰に向けて何を書くか】
 今回はレポート=作品の書き方について説明します。アドバイスをうまく活用して期末のレポート=作品を書くときに活かしてください。
 第7回【落とすだけじゃダメよ! ボロボロにして捨てるのよ!(18世紀その3)】
 恋愛を相手を落とすゲームとして考える悪魔的な登場人物が出てくるラクロの小説を取り上げて、人間の中にある悪魔的な側面に注目しながら人間心理の揺れ動きが考察していきます。
(ラクロ『危険な関係』)
 第8回【サプライズ!】
 ちょうど折り返し地点にあたる今回は番外編です。
 何をするかは当日まで秘密です。

 第9回【鐘が鳴るまで手をにぎるんだ! 愛とは戦いである!(19世紀その1)】
 今回は恋愛小説の傑作中の傑作の『赤と黒』を取り上げます。社会状況が登場人物にどのように影響をあたえるのかをスタンダール自身の言葉を手がかりにして考察します。またスタンダールが革新をもたらした心理描写についても分析しながら、この小説に現れた恋愛観を見ていきます。(スタンダール『赤と黒』)
 第10回【こう見えても実は美人です! 不幸な少女の救い方(救われ方)(19世紀その2)】
 ジュルジュ・サンドの『愛の妖精』を取り上げます。美しい田園風景を背景に農民の恋が描かれます。不美人で嫌われ者の女の子が恋をして美しくなり、実は美人で気立ても良い女の子であることが認められ幸せな恋愛を成就するという話です。
 サンドの抱く恋愛に対するファンタスム(これは現代の少女漫画まで脈々と続いていきます)と彼女が推進した〈フェミニズム運動〉とこの恋愛物語との関係についても考えていきます。(ジュルジュ・サンド『愛の妖精』)
 第11回【アイドルと幼馴染のどっちを取る?(19世紀その3)】
 今回はネルヴァルの『オーレリア』という夢と現実と過去と現在がない混ぜになったような夢幻的な恋愛小説を取り上げます。まずはフランス文学には珍しい幻想的な恋愛小説の技法に注目します。続いてネルヴァルの抱く女性に対するファンタスムを女性読者はどのように評価するのか見ていきたいと思います。(ネルヴァル『オーレリア』)
 第12回【愛する人のために死ぬということ!(20世紀その1)】
 今回は誰でも知っているサン=テグジュペリの『星の王子さま』を「恋愛」という視点から読んでみようと思います。そうすれると純粋なこどもVS汚れた大人という図式とは異なった解釈ができるでしょう。(サン=テグジュペリ『星の王子さま』)
 第13回【LGBTの時代の愛(20世紀その2)】
 36歳の誕生日の直後に亡くなったエルヴェ・ギベールの作品を取り上げます。彼は同性愛者で、エイズに罹患して余命幾ばくもないときに自伝的な小説を発表してスキャンダラスな反響を呼びました。19世紀的な物語が解体して、文章の強度を高めるために現実(自伝)に頼りながら書かれたこの作品には現代小説の冒険を典型的に表しています。(エルヴェ・ギベール『ぼくの命を救ってくれなかった友へ』)
 第14回【「不思議だね、思い出の中、泣いていても幸せに見える」 すべての愛は幻想に過ぎない。(20世紀その3)】
 プルートの『失われた時を求めて』は世界文学の最高傑作と言われています。世界全体が描かれたその大長編(岩波文庫で14巻)の中から、スワンとオデットの恋愛を取り上げ、1.恋愛と嫉妬の切っても切りはせない関係と2.逃げ去る恋愛を逆説的に捉える芸術という2つのテーマに絞って考察していきます。(プルースト『失われた時を求めて』「スワンの恋」)
 第15回【みんなにとっての(フランス)文学とは?】
 最後の授業ではみなさんに提出してもらった小説・レポートに対する解説を行います。
授業の運営方法授業は〈オンデマンド動画配信〉になります。

大学の授業方針の変更により、大人数の講義は密を避けるために原則としてオンライン授業になりました。
この〈フランス文学〉の授業はその方針にしたがってオンデマンド動画配信になります。
具体的にはPear DeckというGoogleスライドのアドオンを用います。Googleスライドにリンクがはっている動画を参照しながら、Pear Deckの質問に答えていくという形を取ります。
ただ単に配信動画を視聴するのではなく、Googleスライドの質問に対して考え答えていき、その際に配信動画を参照するという形を取ることで、受け身になりがちな配信動画の視聴による授業をできるだけ、双方向性にあるものにしたいと思っています。

具体的には次のようになります。
1.毎週金曜日の午前10時半にPear Deckに入るURLとコードをポータルにアップします。
2.次の週の水曜日の23時59分までにPear Deckにリンクのはっている動画を視聴してPear Deckの質問に答えてください。
基本は以上です。Pear Deckの質問に答えたことで授業に参加したと判定します。

注意! PearDeckに入るために「Gmailのアカウント」を作成してください(すでにGmailのアカウントを持っている人はそれを用いてください)。
課題 試験やレポート等に対するフィードバックの方法最後の授業でみなさんの提出したレポート=作品を紹介しつつ講評します。また希望者にはレポートの講評を個人的に行います。
評価の種類 割合(%) 評価方法・評価基準
定期試験 0% 実施しません。
小論文・レポート 80% レポート=作品を課します。具体的なテーマ・形式・字数については講義中に指示します。
授業参加 20% Pear Deckの質問に対する回答も評価の対象にします。
その他 0%
テキスト テキストは特にありません。講師が毎回の講義内容のレジュメと資料をポータルに配布します。
参考文献 横山安由美、朝比奈美知子編著『はじめて学ぶフランス文学史』(ミネルヴァ書房)
その他、非常にたくさんありここには書ききれないので、授業中に指示します。
その他、履修生への注意事項 シラバスはあくまでも予定であって、学生の理解や興味あるいは外的な状況などにしたがって適宜変更されることがあります。 

〈オンデマンド動画配信について〉
Googleスライドの拡張機能であるPear Deckで授業を一元化します。
学生のみなさんに前もって準備して欲しいことがあります。
一番大事なことはPearDeckに入るために「Gmailのアカウント」を作成することです。
毎回の授業でPear Deckに入る際はこの作成したGmailのアカウントを用いてください。
また詳しい手順についてはポータルに説明の動画をアップするので授業開始までにそれを視聴してください。
卒業認定・学位授与の方針と当該授業科目の関連 カリキュラムマップ【全学共通科目】