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科目名フランス文学
担当者神田 浩一
開講期2024年度春学期
科目区分週間授業
履修開始年次1年
単位数2単位
授業の方法講義
授業題目〈恋愛〉を通して見るフランス文学
授業の達成目標
提供された〈イメージ〉を視覚や聴覚を用いて受容する「TV」「映画」「ビデオ」「ゲーム」「漫画」などに比べると、〈言語〉を用いて読者が自力で〈イメージ〉を生成していくことを要求される〈文学〉は、娯楽としては劣勢を迫られているように見えます。しかし〈人間の誕生=言語の誕生〉とともに生まれた〈文学〉には、〈言語〉でしか構築できない独自の世界を持っていて、それは他の表現手段ではとって変わることができない独自の魅力があります。
この講義では、そういった〈文学〉の世界の独特の魅力を主にフランス文学を中心に考察していきます。
具体的には、フランス〈文学〉作品の主要テーマの一つである〈恋愛〉を取り上げた作品に焦点を当てて文学の魅力を探ります。 
 
講義では以下の3つを主な目標とします。
1.「恋愛」という観点からフランス文学を渉猟することで、中世から21世紀にいたるフランス文学の全体像が把握できるようになり、それを説明できるようになること。
2.「恋愛」の観念の歴史的な変遷を知ることで、自分たちの「常識」が時代や場所に囚われたものであることを理解し、その結果、物事を相対化して見られるようになり、かつ自分と価値観の違う人に対して寛容になれること。
3.「文学」を愛する心を育むことで、人生を実り豊かなものとすること。

 *講義では恋愛物語を取り上げるので「性的な話」に言及するのはどうしても避けられません。できるだけ不快にならないように配慮しますが「性的な話」が苦手な人は注意してください。
今年度の授業内容「〈恋愛〉は12世紀の発明である」
 フランスの歴史家シャルル・セニョボスが述べた有名な言葉です。世の始まりから女と男がいて互いにひかれあうという感情は世界中に存在しましたが、それが現代日本にも存在するような〈恋愛〉となったのは中世フランス人の発明によるところが大きいのです。
 この講義では、初めてフランス文学にふれる学生を対象に、このフランス人の発明した〈恋愛〉という観点から、いろいろな作品を鑑賞していきます。プラトニック・ラブの本来の意味や〈恋愛〉がもともとは〈不倫〉であったことや〈結婚〉と〈恋愛〉が結びついたのは比較的最近のことであったことや現代日本にある「ロマンティクラブ・イデオロギー」がいつからどのようにして生まれたのかなどが分かるようになります。
準備学修予習・復習等の具体的な内容及びそれに必要な時間について 授業ではどうしても作品の概括的な説明になるので、授業で紹介する作品については各自でできるだけ実際に読んでみて下さい(文学作品は単なる物語ではなく言葉を駆使した芸術なので、単にあらすじを知っているのと、実際に通読する際に読者に起こる体験は全く別な物になるからです)。
 またフランス文学の傑作のほとんどは映画化されています(オペラになったり宝塚の舞台になっていたり漫画化されたりしています)。それらも合わせて見てみると文学と映画や漫画などジャンルによる表現方法の違いも分かってさらに興味深いと思います(作品を実際に読むと予習復習合わせて軽く180分以上はかかると思います。ただし大切なことは時間ではなく豊穣な文学体験をすることです)。
合計60時間
自習に関する一般的な指示事項授業では詳しく紹介できない作品以外にもフランス文学には多くの傑作があります。自習ではそういった作品を実際に読んであらすじを知るだけでなく文学を実際に読書として体験して欲しいと思います。
第1回【いちばん大事なもの、それは愛!(恋愛から見たフランス人のメンタリティー)】
 最初の講義では、まず講義の狙い、やり方、成績評価の仕方を説明します。 
 その後で半年間の講義の導入として、フランス文学を生み出したフランス人とはいったいどのような人々なのかについて、講義のテーマである〈恋愛〉という観点から紹介してきます。
 日本人とは相当異なるフランス人の〈恋愛観〉に知らない人は驚くかもしれません。
 また古代日本の恋愛観についても触れます。多くの現代日本人の恋愛観との違いに驚くことでしょう。

 
第2回【君のためになら死ねる!(中世)】
 恋愛の文学で取り上げる最初の作品は、ヨーロッパの恋愛文学の始まりであり、誰でも知っている恋愛物語の古典『ロミオとジュリエット』の重要な「もとネタ」でもある『トリスタン・イズー物語』です。
 古代ギリシャ・古代ローマでは男女の「恋愛」には価値がありませんでした。しかし中世フランスの恋愛物語では、愛する人のためには命も惜しみません。この価値観の変化はどうしてどのようにして生じたいのか、またそれが文学作品としてどのように表現されているか、考えていきましょう。
 騎士道物語に表現された宮廷風恋愛についても説明します。結婚と恋愛は別なものであり、恋愛とはもともと「不倫」として始まったことが分かるでしょう。
 物語が語られていくうちにどのような変遷をたどっていくかということにも注目します。(ベディエ編『トリスタン・イズー物語』)

第3回【愛してはいるけれども…(17世紀)】
 17世紀、特にルイ14世の時代はフランスの絶対王政がその絶頂期を迎えた時代でした。そこで多くの貴族たちが涙した恋愛物語である『クレーブの奥方』を中心に読んでいき、理性による情念の支配というこの時代特有の恋愛観を当時の社会状況を考えながら見ていきます。(ラファイエット夫人『クレーブの奥方』・コルネイユ『ル・シッド』・ラシーヌ『アンドロマック』)
第4回【君とならたとえ地獄でも!(18世紀その1)】
 18世紀には出版技術も進歩し、識字率も上がるなかで、文学ジャンルの中で〈小説〉が台頭してきた時代でした。その18世紀のフランス文学は〈ファム・ファタル〉という恋愛小説において、極めて重要な登場人物を生み出し、その後のフランス文学の大きな流れを作りました。今回は最初の〈ファム・ファタル〉である『マノン・レスコー』を取り上げて、〈ファム・ファタル〉の分析と恋愛におけるその意味を考察していきます。(アベ・プレヴォー『マノン・レスコー』)
第5回【落とすだけじゃダメよ! ボロボロにして捨てるのよ!(18世紀その3)】
 恋愛を相手を落とすゲームとして考える悪魔的な登場人物が出てくるラクロの小説を取り上げて、人間の中にある悪魔的な側面に注目しながら人間心理の揺れ動きが考察していきます。
(ラクロ『危険な関係』)
第6回【こう見えても実は美人です! 不幸な少女の救い方(救われ方)(19世紀その1)】
 ジュルジュ・サンドの『愛の妖精』を取り上げます。美しい田園風景を背景に農民の恋が描かれます。不美人で嫌われ者の女の子が恋をして美しくなり、実は美人で気立ても良い女の子であることが認められ幸せな恋愛を成就するという話です。
 サンドの抱く恋愛に対するファンタスム(これは現代の少女漫画まで脈々と続いていきます)と彼女が推進した〈フェミニズム運動〉とこの恋愛物語との関係についても考えていきます。(ジュルジュ・サンド『愛の妖精』)
第7回【アイドルと幼馴染のどっちを取る?(19世紀その2)】
 今回はネルヴァルの『オーレリア』という夢と現実と過去と現在がない混ぜになったような夢幻的な恋愛小説を取り上げます。まずはフランス文学には珍しい幻想的な恋愛小説の技法に注目します。続いてネルヴァルの抱く女性に対するファンタスムを女性読者はどのように評価するのか見ていきたいと思います。(ネルヴァル『オーレリア』)


第8回【サプライズ!】
 ちょうど折り返し地点にあたる今回は番外編です。
 何をするかは当日まで秘密です。
第9回【鐘が鳴るまで手をにぎるんだ! 愛とは戦いである!(19世紀その3)】
 今回は恋愛小説の傑作中の傑作の『赤と黒』を取り上げます。社会状況が登場人物にどのように影響をあたえるのかをスタンダール自身の言葉を手がかりにして考察します。またスタンダールが革新をもたらした心理描写についても分析しながら、この小説に現れた恋愛観を見ていきます。(スタンダール『赤と黒』)
第10回【夢見ることの代償!(19世紀その4)】
 今回はスタンダールの『赤と黒』と並んで恋愛小説の大傑作であるフロベールの『ボヴァリー夫人』を見ていきます。現実の凡庸さに飽き飽きした女性が小説の中に出てくる恋愛に憧れて身を滅ぼす話です。凡庸な男女による凡庸な恋愛という凡庸さの極地が傑作になる不思議さについて考えていきます。(フロベール『ボヴァリー夫人』)
第11回【愛する人のために死ぬということ!(20世紀その1)】
 今回は誰でも知っているサン=テグジュペリの『星の王子さま』を「恋愛」という視点から読んでみようと思います。そうすれると〈純粋なこども〉VS〈汚れた大人〉という図式とは異なった解釈ができるでしょう。どこにでもあるバラが自分だけのかけがえのないバラになるという恋愛の固有性について考えていきます。(サン=テグジュペリ『星の王子さま』)
第12回【LGBTの時代の愛(20世紀その2)】
 36歳の誕生日の直後に亡くなったエルヴェ・ギベールの作品を取り上げます。彼は同性愛者で、エイズに罹患して余命幾ばくもないときに自伝的な小説を発表してスキャンダラスな反響を呼びました。19世紀的な物語が解体して、文章の強度を高めるために現実(自伝)に頼りながら書かれたこの作品には現代小説の冒険を典型的に表しています。(エルヴェ・ギベール『ぼくの命を救ってくれなかった友へ』)

第13回【〈恋愛〉は本質的に虚しいもので、〈芸術〉だけが救いとなる 。(20世紀その3)】
 プルートの『失われた時を求めて』は世界文学の最高傑作と言われています。世界全体が描かれたその大長編(岩波文庫で14巻)の中から、スワンとオデットの恋愛を取り上げ、1.恋愛と嫉妬の切っても切りはせない関係と2.逃げ去る恋愛を逆説的に捉える芸術という2つのテーマに絞って考察していきます。(プルースト『失われた時を求めて』「スワンの恋」)
第14回【で、恋愛および文学とどのように関わったか?】
 最後の講義ではみなさんに提出してもらったレポート=作品を紹介して講評を行います。 

授業の運営方法授業は〈オンデマンド動画配信〉になります。

大学の授業方針により、密を避けるために大人数の講義のいくつかはオンライン授業になりました。
この〈フランス文学〉の授業はオンデマンド動画配信になります。
具体的にはPear DeckというGoogleスライドのアドオンを用います。Googleスライドにリンクがはっている動画を参照しながら、Pear Deckの質問に答えていくという形を取ります。
ただ単に漫然と配信動画を視聴するのではなく、Googleスライドの質問に対して考え答えていき、その直後に自分の回答と配信動画による解説を比較参照するという形を取ることで、受け身になりがちな配信動画の視聴による授業をできるだけ、双方向性にあるものにしたいと思っています。

次のようになります。
1.毎週金曜日の午前09時00分にPear Deckに入るURLとコードをポータルにアップします。
2.次の週の火曜日の23時59分までにPear Deckにリンクのはっている動画を視聴してPear Deckの質問に答えてください。
基本は以上です。Pear Deckの質問に答えたことで授業に参加したと判定します(Pear Deckの最後の質問には学籍番号と名前を書いてくださいね)。

注意! Pear Deckに入るために「Gmailのアカウント」を作成してください(すでにGmailのアカウントを持っている人はそれを用いてください)。

課題試験やレポート等に対するフィードバックの方法 最後の授業でみなさんの提出したレポート=作品を紹介しつつ講評します。また希望者にはレポートの講評を個人的に行います。
 Pear Deckの最後の質問になる〈授業全体へのコメント〉に関しては、時間の許す限り講師がコメントを加えます(時間が取れないときにはご容赦を!)。そしてそれをPDFのファイルにして授業資料のコーナーに投稿します。講師の意見だけでなく他の学生がどのように考えたのかは皆さんにとって大いに参考になると思います。
 学生のコメントの代表的なものや興味深いものは次回の配信動画の冒頭で講師がコメントを加えつつ紹介します。
評価の種類 割合(%) 評価方法・評価基準
定期試験 0% 実施しません。
小論文・レポート 80% レポート=作品を課します。具体的なテーマ・形式・字数については講義中に指示します。
授業参加 20% 毎回の授業後に提出する「配信動画視聴後のアンケート」に記入するコメントも評価の対象にします。
その他 0%
テキスト テキストは特にありません。講師が毎回の講義内容のレジュメと資料をポータルに配布します。
参考文献 横山安由美、朝比奈美知子編著『はじめて学ぶフランス文学史』(ミネルヴァ書房)
その他、参考文献は非常にたくさんありここには書ききれないので、授業中に指示します。
その他、履修生への注意事項 シラバスはあくまでも予定であって、学生の理解や興味あるいは外的な状況などにしたがって適宜変更されることがあります。 
配信動画は、できれば友人と一緒に聞いて講師の言うことに〈突っ込み〉を入れたり友だちと議論したりしながら視聴すると楽しめると思います(勉強は楽しくするべきです)。
配信動画を視聴して、皆さんは疑問に思ったり、異論を抱いたり、共感を表明したくなると思います。その場合にはポータルのQ&Aに遠慮なく質問したりコメントを残してください。すぐにというわけにいきませんが、24時間以内に返事をします

〈オンデマンド動画配信について〉
Googleスライドの拡張機能であるPear Deckで授業を一元化します。
学生のみなさんに前もって準備して欲しいことがあります。
Pear Deckに入るために「Gmailのアカウント」を作成することです。(すでにGmailのアカウントを持っている人はそれを用いてください)
毎回の授業でPear Deckにログインする際はこの作成したGmailのアカウントを用いてください。Gmailのアカウントにログインすることで質問途中で退出しても履歴が残り、続きから進められます。
Pear Deckは記入すると即座に反映されます。送信ボタンのようなものはないので気をつけてください。
また詳しい手順についてはポータルに説明の動画をアップするので授業開始までにそれを視聴してください。
連絡はポータルの掲示登録を用います。たくさんの掲示の中から見落とさないように気をつけてくださいね。
卒業認定・学位授与の方針と当該授業科目の関連 カリキュラムマップ【全学共通科目】