科目名 | 歴史理論 | |
担当者 | 香坂 直樹 | |
開講期 | 2024年度秋学期 | |
科目区分 | 週間授業 | |
履修開始年次 | 1年 | |
単位数 | 2単位 | |
授業の方法 | 講義 | |
授業題目 | 「国民史」(national history)という歴史叙述の形式とその課題について考える | |
授業の達成目標 | 私たちが、マスメディア(TVニュースやバラエティ番組、クイズ番組、ドラマ、さらには新聞やニュースサイトの記事など)を通して、あるいはネット配信動画やゲーム、文学作品・小説や書籍を通して日常的に目にする「歴史」、あるいはこれまでの学校教育や教科書を通じて学び触れてきた「歴史」は、例えば「日本史」のように「ある国が辿ってきた歴史」や「ある国民が辿ってきた歴史」という枠組みに基づいて語られることが多い。このような歴史記述の枠組みは「国民史」と呼ばれており、私たちもこの「国民史」という語りに馴染んでいる。 しかし、なぜ「歴史」は「国民の歴史」(=「国民史」・「自国史」)の形で語られるのだろうか? そして「国民史」の枠組みに沿って過去の出来事が示されていることは、現代に生きる人々や社会に対して正負それぞれにどのような影響を及ぼしているのだろうか? 以上の関心に基づき、「歴史理論」の授業では、歴史と社会、ナショナリズム(国民主義・民族主義)との関係について、他者に説明できるだけの知識を得ることを目標としたい。 |
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今年度の授業内容 | ・まず、歴史の書き手ないし歴史の研究者(=歴史家)が過去の事象を研究し、歴史としてまとめる際に、過去に発生した様々な出来事や事件、過去に生きた人間集団をどのように扱うかという歴史叙述の基礎的な考え方を学ぶ(第1~3回)。 ・次に、現在の歴史記述の形に影響を与えている「ナショナリズム」(国民主義・民族主義)の基本的な考え方を紹介し、「ナショナリズム」を色濃く反映した歴史叙述の形である「国民史」の枠組みが成立し、普及した背景を考える(第4~7回)。 ・授業後半(第8~14回)では時代区分や地域区分、世界史の試み、記念日・記念碑と歴史認識、歴史教育などの個別の論点を取りあげつつ、これらのテーマと「国民史」との関係を考えたい。 |
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準備学修予習・復習等の具体的な内容及びそれに必要な時間について | ・授業前日までに授業資料を学修ポータルサイトに掲出するので、受講者は各自で授業資料をダウンロードしたうえで資料に目を通し、授業内容に関する疑問点などをあらかじめ整理しておくこと。また、授業資料で扱われている事例・事件について調べ、一般的な知識を身につけておくこと。(予習60分) ・授業後に授業資料および講義ノートを再読して出来事の流れなどを整理すること。また、授業内で登場したが意味が判らない用語や概念などを調べ理解すること。(復習60分) |
合計60時間 |
自習に関する一般的な指示事項 | ・歴史研究の考え方に関する予備知識を得るために、初回の授業までに下記の参考文献に挙げた本を少なくとも1冊は読むこと。 ・授業時間内で登場した用語(様々な制度や理念・概念、事件の名称など)で意味が分からない用語があれば、そのままにせず各自で調べること。あるいは、授業前後での教員への質問や、ポータルサイトの「授業Q&A」機能を通じての質問も歓迎する。 ・毎回の授業資料の中で授業内容に関連した基本的な文献を紹介するので、授業の復習あるいは課題(期末レポート)作成に向けた準備として各自で目を通すこと。 |
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第1回 | イントロダクション『歴史学とは何か?』 歴史研究ではどのように過去を扱うのだろうか。そして、歴史研究で過去を扱う方法は、例えば文学作品の執筆や様々な創作活動、あるいは映像作品などで過去の出来事や人物を扱う方法とどう異なるのだろうか。授業全体のイントロダクションとして、これらの基本的な点を確認する。 |
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第2回 | 歴史を書くこと1『現実の時間と歴史叙述』 現実世界の時間の流れと書籍などの形でまとめられた歴史叙述との違い、ならびに「歴史の書き手」(≒歴史研究者や歴史家など)が「歴史的事実」を認定するやり方と過去に起きた出来事を取捨選択する基準について説明する。 |
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第3回 | 歴史を書くこと2『歴史叙述の枠組み』 歴史研究を通じて歴史家が過去を理解する際、時間の経過に伴う社会の変化の流れを把握するために様々な「枠組み」を用いる。そしてどの「枠組み」が用いられるか次第で、私たちが過去に対して抱く認識のあり方も大きく変わる。では、そのような歴史叙述の枠組みにはどのようなものがあるのかを説明する。 |
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第4回 | ナショナリズムの基礎知識1『ネイションとはどのような人間集団か?』 近現代(19世紀以降)の世界各地の現実や、歴史の捉え方(歴史認識)に大きな影響を与えている理念である「ナショナリズム」(「国民主義」・「民族主義」)の基礎的な考え方、そして「ネイション」(国民・民族)という人間集団の捉え方を紹介する。 |
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第5回 | ナショナリズムの基礎知識2『ネイションへの帰属意識と過去の記憶』 第2回に続き、「ナショナリズム」理念の下で、「ネイション」(国民・民族)という共同体の意識がどのような要素に依拠して形成されるのか、そして、「わが民族の絆」という集団意識が形作られる際に、過去の出来事や人物がどのように利用されるかを紹介する。 |
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第6回 | ナショナリズムと歴史叙述1『国民史という歴史叙述』 第4回、第5回で紹介した「ナショナリズム」の理念は、なぜ世界各地の歴史叙述に影響を及ぼしているのだろうか? また、「国民史」、つまり国民の歴史や国家の歴史として過去を描写する枠組みが、どのような過程を経て近現代の各国に広く普及したのかを考える。 |
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第7回 | ナショナリズムと歴史叙述2『国民史が強調する過去、隠す過去』 各国の国民は、基本的に「国民史」の枠組みを通じて自国や地域の過去を理解し、各国はそれぞれ独自の歴史認識を形成した。その結果、場合によっては隣接する国家間・国民間で互いに対する競合意識、さらには敵愾心までもが増幅される構図が生まれたことを考える。 |
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第8回 | 歴史叙述と地域区分『地域を区切ることの意味』 歴史を叙述する際に用いられる地域区分の枠組み(e.g.「"日本"史」、「"ドイツ"史」)に注目し、それらの地域を切り分ける考え方がどのように形作られてきたかを考える。また、地域を区分する行為の背後には、実は、地域間の経済的な力関係、あるいは支配/被支配の権力構造に関する考え方も潜んでいることも説明する。 |
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第9回 | 歴史叙述と時代区分『時代区分の方法と意味』 地域を区切る地域区分の枠組みと同様に、時代を区切る枠組みを設定する際にも様々な方法・考え方が存在していること、また、過去の世界や過去から現在までの時間的な変化を、歴史の書き手がどのように把握し、理解するのかという論点が含まれていることを紹介する。 |
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第10回 | 世界史の可能性『世界史を書く試み』 これまでに紹介した「国民史」(national history)の枠組みに対抗する立場から生まれた「世界史」(world history/global history)の考え方を紹介する。そして、「世界史」の手法、つまり世界の複数の地点の間に生まれる結びつきに注目しつつ過去の出来事を把握し、歴史を書く方法について紹介する。 |
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第11回 | 記憶と記念『記念碑/記念日は何を伝え、何を忘れるのか』 過去の出来事や人物に由来する記念碑や記念日の事例を通じて、歴史を扱った書籍以外の様々な回路を経由しても、私たちが過去や歴史に対して抱く認識が形成されていること、また記念碑や記念日を設定する行為自体が特定の歴史認識を伝えようとしていることの意味を、実例を紹介しながら考える。 |
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第12回 | 歴史叙述と歴史教育1『国民史と歴史教育』 これまでの授業回で紹介した「国民史」(national history)の枠組みは、学校での歴史教育や歴史教科書にどのように反映されているのだろうか? そして学校教育の現場で各国の「国民史」をどう乗り越えようとしているのだろうか? いくつかの事例を紹介する。 |
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第13回 | 歴史叙述と歴史教育2『共通教科書・副教材の試み』 第12回に引き続き、「国民史」の枠組みに基づく歴史教育を相対化する試みについて、東南欧諸国の歴史研究者・教育者が協力して作成した共通副教材の実例を交えつつ紹介する。 |
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第14回 | まとめ『改めて歴史とは何か?』 前回までの授業内容を振り返りつつ、今の私たちが生きる社会の中で歴史が果たしている役割や、個々人や集団が抱く歴史認識が社会や政治に及ぼしている正負の影響を考える。 |
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授業の運営方法 | ・授業は講義形式で行う。パワーポイントや参考図版などを教室スクリーンに映写しつつ、口頭でも説明を進める。板書も適宜行うので、受講生各自でノートを作成すること。授業受講後に受講生は学修ポータルサイトを通じてリアクションペーパーを提出すること。 ・授業資料は学修ポータルサイトを通じて事前に(授業前日までに)配布する。授業資料には授業内容スライド、参考図版・参考資料、参考文献などをまとめている。受講生は授業資料を予習したうえで、受講時は手元で参照できるように備えること。 |
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課題試験やレポート等に対するフィードバックの方法 | ・各授業回で提出を求めるリアクションペーパーの内容について、次回の授業の冒頭で一部を紹介する(※紹介時に提出者の名前は公開しない)。また、リアクションペーパーを通じて授業内容に対する疑問点が示された場合にも、次回の授業冒頭で当該部分の再説明や補足説明を行う。 |
評価の種類 | 割合(%) | 評価方法・評価基準 |
小論文・レポート | 50% | 学期末に期末レポートの提出を求める。 |
授業参加 | 50% | リアクションペーパーの提出程度と記述内容から判定する(※出席点ではないので注意)。 |
参考文献 | ・リン・ハント著、長谷川貴彦訳『なぜ歴史を学ぶのか』岩波書店、2019年。 ・E・H・カー著、近藤和彦訳『歴史とは何か 新版』岩波書店、2022年。 ・武井彩佳著『歴史修正主義―ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで』中央公論新社(中公新書)、2021年。 ・塩川伸明著『民族とネイション ナショナリズムという難問』岩波書店(岩波新書)、2008年。 ・月村太郎著『民族紛争』岩波書店(岩波新書)、2013年。 (※その他の参考文献は各回の授業資料を通じて適宜示す) |
その他、履修生への注意事項 | ・参考文献は各回の授業レジュメを通じて紹介する。義務ではないが、できれば各自で目を通すこと。 ・他の受講生の迷惑となるので、教室内での私語は厳に慎むこと。場合によっては、教室からの退去を求める。 |
卒業認定・学位授与の方針と当該授業科目の関連 | カリキュラムマップ【全学共通科目】 |