跡見学園女子大学 柳上書屋 常務理事からの花便り 跡見群芳譜 野草譜

おみなえし (女郎花) 

学名  Patrinia scabiosaefolia
日本名  オミナエシ 
科名(日本名)  オミナエシ科
  日本語別名  オミナメシ、チメグサ、チチグサ、アワバナ、ボンバナ
漢名  黄花龍牙(コウカリョウガ,huanghua longya) 
科名(漢名)  敗醬(ハイショウ,baijiang)科
  漢語別名  黄花敗醬、龍牙敗醬
英名  
2008/04/17 薬用植物園

2007/08/30 群馬県嬬恋村

2008/08/29 群馬県嬬恋村

2010/08/21 富山県中央植物園

 オミナエシ科 Valerianaceae(敗醬科)には、東アジアに次のようなものがある。
   ナルドスタキュス属 Nardostachys(甘松屬)
     N. chinensis(甘松・甘松香・香松)
四川西北部産、『中薬志Ⅰ』pp.134-137
     N. grandiflora(大花甘松香) 
『週刊朝日百科 植物の世界』1-274
     カンショウコウ N. jatamansi(匙葉甘松)
   オミナエシ属 Patrinia(敗醬屬)

   カノコソウ属 Valeriana(纈草屬)
   ノヂシャ属 Valerianella
     ノヂシャ V. locusta 
ヨーロッパ原産、江戸時代に長崎のオランダ館で栽培、のち帰化 
 オミナエシ属 Patrinia(敗醬屬)には、次のようなものがある。
   P. angustifolia (搾葉敗醬・狹葉敗醬)
   マルバキンレイカ P. gibbosa
   P. glabrifolia(光葉敗醬
 『週刊朝日百科 植物の世界』1-267)
   P. heterophylla (異葉敗醬・墓頭回)
 『中国本草図録』Ⅴ/2332・『中国雑草原色図鑑』220
   P. intermedis (中敗醬)
   P. monandra (單蕊敗醬・單葯敗醬)
   P. rupestris (岩敗醬) 『中国本草図録』Ⅸ/4349
   オミナエシ P. scabiosaefolia (黄花龍牙)『中国雑草原色図鑑』221
     ハマオミナエシ f. crassa
   P. scabra (糙葉敗醬・山敗醬) 『中国本草図録』Ⅶ/3352・『中国雑草原色図鑑』220
   チシマキンレイカ P. sibirica (西伯利亞敗醬) 『中国本草図録』Ⅹ/4873
   P. sinensis (白花敗醬)
   P. speciosa (秀苞敗醬)
   オオキンレイカ P. takeuchiana(P.triloba var.takeuchiana)
   ハクサンオミナエシ
(コキンレイカ) P. triloba
     キンレイカ
(金鈴花) var. palmata
   オトコエシ P villosa (白花敗醬)
 和名は、オトコエシに対して言う。エシの意は不明(牧野)
 深江輔仁『本草和名』(ca.918)敗醬に、「和名於保都知、一名知女久佐」と。
 源順『倭名類聚抄』
(ca.934)に、「女郎花 新撰万葉集云、女郎花。倭歌云、女倍之。〔乎美那閉之。今案、花如蒸粟也。所出未詳。〕」と、また敗醬は「和名知女久佐」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』12
(1806)に、「オモヒグサ万葉集 コノテガシハ ヲミナヘシ共に同上 女郎花和名鈔古今集 ヲミナメシ ヲミナエシ備前 チメグサ和名鈔 菊花女」と。
 漢土には、キンミズヒキにも龍芽草の名がある。
 なお、牙・芽は音通。
 漢名の敗醬は、この属の植物が、腐った(敗)(ひしお)のような異臭を持つことから。
 属名 Patrinia は、フランスの植物学者パトラン E.L.M.Patrin(1742-1814)に因む。
 種小名は、「マツムシソウのような葉の」。
 日本・朝鮮・中国(東北・華北・華東・華南・貴州・四川)・シベリア東部に分布。
 埼玉県では絶滅危惧ⅠB類(EN)。
 ハマオミナエシ f. crassa は、海岸型。北海道・本州の海岸に生える。
 中国では、オミナエシとオトコエシの根茎・全草を敗醬草と呼び、薬用にする。地方により、
   P. angustifolia (搾葉敗醬・狹葉敗醬)
   P. rupestris (岩敗醬)
   P. monandra (單蕊敗醬・單葯敗醬)
などを、敗醬草の代用にする。
 なお、一部の地方では、
   キク科  ノゲシ属のノゲシ・ハチジョウナ
        ニガナ属のタカサゴソウ・變色苦菜・苦碟子・苦蕒菜
        アキノノゲシ属のアキノノゲシ・臺灣山萵苣
   アブラナ科グンバイナズナ属のグンバイナズナ
などを敗醬草としているので、注意して鑑別する必要がある、という
(以上、『全国中草薬匯編』)
 上欄にかかわらず、『中薬志Ⅲ』pp.141-147 には次のように言う。
 近代の一般の文献は、生薬の敗醬草はオトコエシであると記す。しかし実地調査をし、また商品を調べてみても、オトコエシはない。実際に敗醬として用いられているものは、
   ハチジョウナ Sonchus brachyotus (苣蕒菜・野苦菜・取麻菜・苦蕒菜・野苦蕒・苦葛菜・敗醬草) 『中国本草図録』Ⅵ/2910・『中国雑草原色図鑑』270
   グンバイナズナ Thlaspi arvense(遏藍菜・菥蓂・大薺) 『中国本草図録』Ⅴ/2121
が主であり、山東省では
   Ixeris versicolor(山苦蕒)
を主に用いている。
 過去の文献によれば、キク科の次のようなさまざまな植物が敗醬として用いられた。
   ノゲシ Sonchus oleraceus (苦苣菜・苦蕒菜)
『中国雑草原色図鑑』271
   ニガナ Ixeris dentata (齒縁苦蕒・苦瓜菜)
   Ixeris denticulata (苦蕒菜・秋苦蕒菜・盤兒草)
 『中国本草図録』Ⅱ/0884
   ノニガナ Ixeris polycephala (多頭苦蕒・野苦菜)『中国雑草原色図鑑』258
   Lactuca amurensis(苦菜)
   アキノノゲシ Lactuca indica(山萵苣・鴨子食・翅果菊)『中国雑草原色図鑑』259
   Lactuca fornosana(臺灣萵苣)
しかし、これらはそれほど常に用いられるものではない、と。 
 日本では、秋の七草の一。
 『万葉集』に詠われる歌は、文藝譜を見よ。代表的なものは、

   をみなへし あきはぎ(秋萩)しの(凌)ぎ さをしか(鹿)
     つゆ
(露)(分)けな(鳴)かむ たかまと(高円)の野そ (20/4297,大伴家持)
   をみなへし 秋芽(あきはぎ)た折れ 玉鉾の 道行裹(みちゆきつと)と 乞はむ児がため
      
(8/1534,石川老夫)
   こと更に 衣は摺らじ をみなへし 咲く野の芽子(はぎ)に にほひて居らむ
      
(10/2107,読人知らず)
   秋の田の 穂む
(向)き見がてり わがせこ(背子)
     ふさたを
(手折)りける をみなへしかも (17/3943,大伴家持)
   をみなへし さきたる野辺を ゆきめぐり きみを念ひ出 たもとほりきぬ
      
(17/3944,大伴池主)
 
 『古今集』巻4 秋には、「女郎花」の漢字表記に基づく歌が載る。

   名にめでて おれる許ぞ をみなへし 我おちにきと 人にかたるな (僧正遍昭)
   秋ののに なまめきたてる をみなへし あなかしがまし 花もひととき
(同、卷19)
   をみなへし うしとみつつぞ 行きすぐる おとこ山にし たてりとおもへば
     
(布留今道「僧正遍昭がもとに、ならへまかりける時に、おとこ山にてをみなへしをよめる」)
   秋ののに やどりはすべし をみなへし 名をむつまじみ たびならなくに
     
(藤原敏行「是貞のみこの家の歌合のうた」)
   をみなへし おほかるのべに やどりせば あやなくあだの 名をやたちなん
     
(小野美材(良樹)「題しらず」)
   女郎花 秋のの風に うちなびき 心ひとつを たれによすらん
     
(藤原時平「朱雀院のをみなへしあはせに よみてたてまつりける」)
   秋ならで あふことかたき をみなへし あまのかはらに おひぬものゆへ
     
(藤原定方)
   たが秋に あらぬものゆへ をみなへし なぞ色にいでて まだきうつろふ
     
(紀貫之)
   をぐら山 みねたちならし なく鹿の へにけむ秋を しる人ぞなき
     
(紀貫之「朱雀院のをみなへしあはせの時に、
          をみなへしといふいつもじを、くのかしらにをきてよめる」、卷10物名)

   つまこふる 鹿ぞなくなる 女郎花 をのがすむのの 花としらずや
(凡河内躬恒)
   をみなへし 吹すぎてくる 秋風は めには見えねど かこそしるけれ
(同)
   人のみる ことやくるしき をみなへし 秋ぎりにのみ たちかくるらん (壬生忠岑)
   ひとりのみ ながむるよりは 女郎花 わがすむやどに うへてみましを
(同)
   をみなへし うしろめたくも 見ゆる哉 あれたるやどに ひとりたてれば
     
(兼覧王「ものへまかりけるに、人の家にをみなへしうへたりけるをみてよめる」)
   花にあかで なにかへるらん をみなへし おほかるのべに ねなまし物を
     
(平貞文「寛平御時 蔵人所のをのこども さが野に花みんとてまかりたりけるとき、
         かへるとてみなうたよみけるついでによめる」)

   あきくれば のべにたはるる 女郎花 いづれの人か つまでみるべき
   秋霧の はれてくもれば をみなへし 花のすがたぞ みえがくれする
   花と見て おらむとすれば 女郎花 うたゝあるさまの なにこそありけれ
      (以上、卷19、よみ人しらず)
   しらつゆを たまにぬくとや さゝがにの 花にもはにも いとをみなへし
   あさつゆを わけそぼちつゝ 花みんと 今ぞの山を みなへしりぬる
     
(紀友則、卷10物名「をみなへし」)
   をぐら山 みねたちならし なくしかの へにけん秋を しる人ぞなき
     
(紀貫之「朱雀院のをみなへしあはせの時に、をみなへしといふいつもじを
          くのかしらにおきてよめる」、卷10物名「をみなへし」)


 西行
(1118-1190)『山家集』に、

   をみなへし わけつるのべ
(野辺)と おも(思)はばや
     おなじつゆ
(露)にし ぬ(濡)るとみ(見)てそは
   をみなへし いろめくのべに ふ
(触)ればゝん たもとにつゆや こぼれかゝると
   けさみれば つゆのすがるに をれふして おきもあがらぬ をみなへしかな
   おほかたの 野べの露には しほるれど わがなみだ
(涙)なき をみなへし哉
   はな
(花)がえ(枝)に 露のしらたま ぬきかけて を(折)る袖ぬらす をみなへし哉
   をらぬより そでぞぬれぬる 女郎花 露むすぼれて た
(立)てるけしきに
   いけ
(池)のおも(面)に かげをさやかに うつしても
     みづかがみ見る をみなへし哉
   たぐひなき はなのすがたを 女郎花 いけのかがみに うつしてぞみる
   女郎花 いけのさなみに えだひぢて ものおもふそでの ぬ
(濡)るゝがほ(顔)なる
   ほにいでて しの(篠)のを(小)すすき まねくの(野)
     たはれてたてる をみなへし哉
   月の色を はなにかさねて をみなへし うはも
(上裳)のしたに つゆをかけたる
   よひ
(宵)のまの 露にしをれて 女郎花 ありあけの月の かげにたは(戯)るゝ
   庭さゆる 月なりけりな をみなへし しも
(霜)にあひぬる はなとみ(見)たれば
   たまかけし はなのすがたも おとろへて しもをいただく をみなへしかな

 『新古今集』に、

   たれをかもまつちの山のをみなへし秋と契れる人ぞあるらし
(小野小町)
   女郎花そも茎ながら花ながら 
(同)
 

   ひよろひよろと猶露けしや女郎花 
(芭蕉,1644-1694)

   とかくして一把になりぬをみなへし 
(蕪村,1716-1783)
 

ハマオミナエシ
f. crassa
       2010/08/24 富山県薬用植物試験場

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