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じょうしゅうかちょうが 常州花鳥画 Changzhou huaniaohua
花鳥画の一流派。かつて北宋から明にかけて江蘇省常州市(古名は武進・毘陵)において行われた、題材の選択並びに造形方法に於いてきわめて独自な作風を示す地方流派。
もとは唐末から五代時代に江南で成立し、徐煕が完成した花鳥画風である徐氏体に由来すると考えられ、江南の水郷田園地帯を背景として、花果・蔬菜・水草・雑草・草虫・水禽・小動物・藻魚など、卑近な対象を画く。
すでに北宋初に董羽が常州り出て魚龍海水を画き、続いて居寧が出て水墨の草虫図を画き、ともにはなはだ有名であった。
南宋の嘉定(1208-1224)年間には、於青言(于青言・於青年などと記される画家と同一か)が出、もっぱら荷花(ハスの花)・草虫を画いて世に「於荷」と呼ばれて有名となり、寧宗(在位1194-1224)に荷花の障を進上しさえした。「蓮池水禽図」2軸(京都/知恩院蔵)には「毘陵於氏」「子明」の印が押捺されていることから、於子明なる画家によって画かれた同時代の「於荷」の一例であることが知られる。
なお、於氏は元代にも荷花の画家として於務道を出した。
明時代には、名と作品の知られている画家として呂敬甫 Lü Jingfu が居る。
日本には、古くから紅白川なる画家の作品と伝えられ、独特の装飾的様式を示す草虫図が数多く伝来する。紅白川という名は画史書等には見られず、元時代前後の常州画を日本に於いてこう呼んだものであろうと考えられている。
常州花鳥画の典型的な画題は、次の3である。
①「草虫図」、
②「蓮池水禽図」、
③「藻魚図」
江南の田園には、田圃のほか池沼も備わるのが常である。なぜなら、陸上の産物のみならず、水辺・水中の産物、たとえばガチョウ・アヒル、さまざまな淡水魚・カニ・エビ類、レンコン、ハス・ヒシの実、クワイなどは、重要な作物であったからである。このような水辺・水中の動植物を画くことから、「蓮池水禽図」「藻魚図」などの主題を派生した。
画かれる対象とされたのは、
①では穀物・蔬菜・花果、これらを食いにくる鼠・雀・昆虫、これらの発育を阻害する雑草など、
②では水辺・水中の産物やここに集まる小動物と雑草、たとえばガチョウ・アヒル・シラサギ、
ハス・ヒシ・クワイ・オオケタデ・浮き草・魚藻など、
③ではやや限定されて、水中に生育する水生生物、すなわち魚・蝦・蟹・藻
などである。
常州花鳥画の様式は、かなり自然主義的なもの(例えば於子明「蓮池水禽図」)から、装飾性を強く示す観念的且つ常套的なもの(例えば呂敬甫「草虫図」)まで、かなり幅広い。背景として、庶民の日常用と言う需要があったためであろう。
しかし色彩法、対象の質感の把握、一部のモティーフにたいする没骨法などに、独特の繊細な感性を共通して示す。また唐宋の古様な構図法を残す点も興味深い。総じて、かつての徐氏体の中のある一部の造形傾向を、時代を超えて化石化して後世に伝えているところがある。
常州花鳥画様式は、一地方で受け継がれた特殊な様式に過ぎない。それにもかかわらず、常州花鳥画は中国絵画史のさまざまな場面で、さまざまな画家たちに影響を与え続けた。
たとえば、北宋・徽宗(1082-1135,在位1100-1125)の筆と伝える「池塘秋晩図」巻(台北/国立故宮博物院蔵)は、蓮池水禽図のバリエーションである。また宋末元初に太湖を挟んで常州の対岸に当たる呉興(浙江省湖州)で活躍した銭選(13c.後半)は、常州画の影響を受けて草虫図や花卉図を制作している。明の孫隆(15c.)や清の惲寿平(1633-1690)は、ともに常州の生まれであり、その様式上の基盤を常州花鳥画に置いて没骨の花卉・草虫を画いたが、ことに惲寿平は一世を風靡し、清朝の花鳥画に一派を開いた。
【参考】鈴木敬「於子明筆蓮池水禽図について」(『大和文華』31)
戸田禎佑「謝百里筆草虫図」(『国華』1063、1983)
島田修二郎「呂敬甫の草虫図--常州草虫図について」
(『美術研究』150、1948;『中国絵画史研究』所収)
渡辺明義「呂敬甫筆草虫図」(『国華』1014、1978)
島田修二郎「紅済川筆草虫図」(『国華』717、1951;『中国絵画史研究』所収)
【作品】
○南宋・於子明「蓮池水禽図」2軸(京都/知恩院蔵)
○南宋・作者不詳「蓮池水禽図」2軸(旧伝五代・顧徳謙筆、東京国立博物館蔵)
○南宋・作者不詳「蓮池水禽図」2軸(ニューヨーク/メトロポリタン美術館蔵)
○南宋・作者不詳「竹虫図」軸(旧伝北宋・趙昌筆、東京国立博物館蔵)
○元・作者不詳「草虫図」2軸(東京国立博物館蔵)
○明・呂敬甫「瓜虫図」軸(東京/根津美術館蔵)
○明・呂敬甫「草虫図」2軸(京都/曼殊院蔵)
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