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かけい 夏珪 Xia Gui

 南宋の画院画家。銭塘(浙江省杭州)の人。字は禹玉。寧宗朝(1194-1224)の待詔、金帯を賜わる。一時期、官は訓武郎。
 水墨による山水画を得意とし、対角線構図法による整った形式美のうちにさまざまな諧調の墨のタッチを積み重ね、清新な詩情を表現して、「高低は醞醸{ウンジョウ}し、墨色は傅粉の色の如く、筆法は蒼老、墨汁は淋漓、奇作なり。・・・院人中山水を画くは、李唐より下、その右に出る者なし」と評された(『図絵宝鑑』)。他方、荘粛が「山水・人物を画くに極めて俗悪」という(『画継補遺』1298)のは、粗放な水墨技法を用いるのを、画の六法に合わないものと貶評されたものであろう。
 同時代の馬遠とともに、南宋院体山水画様式の完成者と位置づけられる。

【文献】
荘粛『画継補遺』(1298)巻下「夏珪 銭塘人。理宗朝画院祗候。画山水人物、極俗悪。宋末世道凋喪、人心遷革、珪遂濫得時名、其実無可取、僅可知時代姓名而已。子森、亦紹父業」。
夏文彦『図絵宝鑑』(1365)巻4「夏珪 字禹玉、銭塘人。寧宗朝待詔、賜金帯。善画人物、高低醞釀{ウンジョウ}、墨色如傅粉之色、筆法蒼老、墨汁淋漓、奇作也。雪景全学范寛、院人中画山水、自李唐以下、無出其右者也」。

【参考】嶋田英誠他『世界美術大全集 東洋編 6 南宋・金』(小学館、2000)
    鈴木敬『李唐・馬遠・夏珪』(『水墨美術大系』2、東京、1974)
        鈴木  『中国絵画史 中之一』(吉川弘文館、1984)
    川上涇「伝夏珪筆山水図解説」(『美術研究』213, 1960)
                渡辺明義「伝夏珪筆山水図について--夏珪画に関する二三のノート」
      (『国華』931、1971)
      
Suzuki,K,Hsia Kuei and the Pictorial Style of the Southern Sung Court Academy,
     Proceedings of the International Symposium on Chinese Painting
      (National Palace Museum, Taipei, 1972)

    井手誠之輔「夏珪様式試論」(『哲学年報』44、1985)


【作品】

 夏珪の伝称作品は、一人の画家の作風を示すものとして収斂しきれないような画風を示すものまで含めて、多様な画風にわたる。

① 先ず注目されるのは、滋潤な水墨技法によってアトモスフィアを描写する作品群である。
  ○「山水十二景図」巻(キャンサスシティ、ネルソン-アトキンズ美術館蔵)
    12景のうち4景のみが現存する(もとの図柄は、エール大学付属美術館の所蔵する模本によって知りえる)
    各景ごとに書されている四字の題は、理宗(在位1124-1264)の書とされる。
    その題意に沿って選ばれた数少ないモティーフを、余白を大きく取ったなかに、
   微妙に墨調をコントロールしながら対比させ、空間の奥行やそれを満たすアトモスフィアを
   描写する。
  ○「西湖柳艇図」軸(台北/国立故宮博物院蔵)
    梅が咲き、柳が芽吹くころの西湖(浙江省杭州)の堤を画く。後のコピーであるが、
   豊かなアトモスフィアが潤いをもって画き出されていた様子がうかがわれる。

 この群に属する小品では、ボストン美術館などに収蔵される一連のよく似た「山水図」群がある。いずれも対角線構図法に基づき、右下半分に水辺の丘・建物・舟・人物などを画く。
  ○「風雨舟行図」団扇(ボストン美術館蔵)
  ○「山水図」軸(東京国立博物館蔵)
  ○「山水図」軸(東京/静嘉堂文庫美術館蔵)
  ○「山水図」冊頁(『筆耕園』画冊のうち。東京国立博物館蔵)
     →Web上で見られる画像


②「溪山清遠図」巻は上記の作品群とは異なり、滋潤な墨の濃淡調整より意思的な筆触が目立つ。
  ○「溪山清遠図」巻(台北/国立故宮博物院蔵)
     筆墨がモティーフの再現という造形目的の枠をはみ出そうとした、意欲的な作品。
     山・丘・樹木などの墨色とフォルムが、ダイナミックな画巻構成を作り上げている。

 「溪山清遠図」巻(または類本)の図柄に基づくいくつかの作品が、室町時代に日本にもたらされ、
雪舟の「山水長巻」を初めとするその後の日本絵画に多大の影響を与えた。日本において夏珪の
作品として伝えられたこの系統の作品に、次のようなものがある。
  ○「江城図」軸 (『東洋美術大観』所載。今日には伝わらない)
  ○「山水図」軸(東京/畠山記念館蔵)

③ 一部に、同時代の画院画家・馬遠の画風を意図的に倣った跡が見られる。
  ○「観瀑図」団扇(台北、国立故宮博物院蔵)
     夏珪唯一の着色画である。

④ 次に掲げる作品は、図柄の類似した作品が数点あり、夏珪或いは李唐の筆とする。
  近年では、これを今は失われた「瀟湘八景図」の一セットの残欠として考える研究者がある。
  ○「山市晴巒図」軸 (ニューヨーク/メトロポリタン美術館蔵)
  ○「山水図」軸 (芦屋/薮本家蔵)

⑤ 次は掲げる作品は、日本の古渡りであり、旧来日本において夏珪の筆と伝えられて有名であったものである。
  ○「竹林山水図」軸(東京/畠山記念館蔵)
  ○「風雨山水図」軸(東京/根津美術館蔵)

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